何も解決していない「WBC」問題

国内ではまだそこそこ盛り上がるとはいえ、プロ野球中継が地上波から姿を消して久しいし、五輪を通じて、「世界とつながっているスポーツ」に多くの人が目を向ける中、わが国でも着実に“マイナースポーツ”への道を辿りつつある「野球」。

そんな中、「ワールド・ベースボール・クラシック」(WBC)への不参加を表明していた日本プロ野球選手会が、一転参加を表明したことで、胸をなでおろした関係者も多かったことだろう。

近鉄球団消滅騒動などで、日本球界が危機に陥って間もない頃に行われた第1回の大会(06年)で、(負けが込みながらも)劇的な優勝。

さらに、第2回(09年)でも、不振のイチローが最後にはじけてドラマティックな連覇を果たしたことで、サッカーに奪われつつあったファン層を辛うじて食い止めてきた、というのが、今のプロ野球なわけで、選手会としても、これ以上人気が下がれば困る、という点ではNPB側と利害が共通しているから、ある種、予定調和的な決着だったともいえる。

だが、7月20日の臨時大会での不参加決議を撤回するにあたって、新井貴浩選手会長が挙げた、

「日本代表独自のスポンサー権などが日本野球機構NPB)に帰属すると確認された」
NPBがスポンサー権などを最大限生かすための体制づくりを確約した」
日本経済新聞2012年9月5日付け朝刊・第37面)

といった事情だけで、WBCをめぐる問題のあれこれが変わったのだろうか?

自分は以前から、「WBC」という“日本でしか盛り上がらないイベント”に対しては冷ややかな目を向けていたし*1、大会運営の様々な面でのいびつさ*2が改められない限り、サッカーのW杯と肩を並べるようなイベントには到底なり得ないだろう、と思っていた*3

さらに、今回の“ボイコット”問題の発端となった、大会を牛耳る米国の主催者サイドと参加国との収益配分の問題も、話を聞けばかなりひどいものだから*4、個人的には、今回の一連の選手会の動きも、経営者サイドのプレッシャー&世論の逆風に負けず、どこまで頑張れるだろうか・・・、と好感を持って眺めていたところ。

しかし、日経紙に掲載されている日本プロ野球選手会の説明要旨によれば、「残された懸案」として、

「不合理な大会の形態については、他の出場国と協調しながら交渉を継続する」

とされているが、再ボイコットも含めた今後の具体的な動きについては、何ら言及されていないようである。

そして、これまでの2回と同じような形で、「第3回」のWBCが開催されるのであれば、かつて運営面でいろいろと揶揄された「K-1」とか「PRIDE」といった格闘系イベントと同じく、正統性に疑義を抱えたまま、“極東でのみ盛り上がるイベント”として、(世界的に見れば)細々と行われることになってしまうだろう*5

本当に「野球」という競技の未来を考えるのであれば、“中華思想“にどっぷり漬かった米国メジャーリーグに全てを委ねるのではなく、各大陸の代表で構成される連盟が主導して、(アメリカ抜きでもいいから)真の国際大会を最高峰の大会と位置付けて堂々と開催すべきだし*6、日本の関係者が真に力を注ぐべきは、“脱・WBC“に向けて競技環境を整えていくことではないか、と思う。

そのためには、一度くらいのボイコットなど、痛くはないと思うのであるが・・・。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20090324/1237938268などが典型的(笑)。

*2:参加国が少なく、固定化されている、その結果、同じ相手(特にアジア勢)と何度も何度も対戦する(これは運営面のいびつさというより、野球というスポーツの構造そのものに起因するのかもしれないが)、「3月」というプレ・シーズンでの開催(サッカーのW杯だって、欧州リーグの「オフ」にやっているじゃないか、という突っ込みもあるかもしれないが、年中ボールを蹴っているサッカーと、1年の約半分をオフに充てる野球とでは全く状況が異なる)、投球数制限等の米国都合の様々なルール等々、「ガチンコの大会」というには、あまりに奇妙な要素が多過ぎたのが、WBCの過去の大会であった。

*3:それゆえ、「WBC優勝」をあたかも「W杯優勝」と同価値のものとして位置づけようとするメディアの悪しき風習には、毎回辟易させられていた。

*4:とはいえ、この問題は本来「選手会」が前面に出るような話ではなく、NPBのあまりの不甲斐なさに痺れを切らして・・・というのが、実際のところだろうと思われる。

*5:国際的にみれば「細々」でも、局所的には経済効果が大きいがゆえに、本質に切り込まないままズルズルと今の状態が続いてしまうことに問題の一端はあるのだが・・・。

*6:国際野球連盟は、現実主義的な発想に立ったのか、自ら主宰していたW杯を廃止し、WBCを「世界選手権」として「公認」しているが、この状態が競技団体のあり方として健全なものだとは思えない。

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