今考えたら、“ヤングなでしこ”などというベタベタなフレーズを付けて、ビジュアル系の選手達の“顔”を使った前宣伝で国民を煽る必要なんてなかったんじゃないか*1、と思うくらい、この夏のU-20日本女子代表は輝いていた。
男子と違って、フル代表が世界の頂点に限りなく近いところにいる女子サッカーの世界、しかも、今のチームの主力選手達が下の年代別大会で世界の2番目に輝いている“黄金世代”だったとはいえ、U-20の大会で3位に入ったのは初めてのこと。
しかも、岩渕真奈選手や京川舞選手といった、本来であればこの世代で主役を張れるはずのメンバーを欠いてのこの結果だから、地元の利を差し引いても、「快挙」というほかない。
この半月で、一気に女子サッカー界のスターへと駆け上がった田中陽子選手をはじめ*2、柴田選手、西川選手といった攻撃系のプレイヤーが持ち味を如何なく発揮したかと思えば、キャプテン・藤田選手との絶妙なバランスの下で、今大会の“看板”だった楢本選手も前評判通りの攻撃参加で魅せる*3。
ニュージーランド戦やドイツ戦のように、いったん守勢に回ると、想像以上の脆さを見せてしまう、という弱点はあったものの、DF陣もギリギリのところで良く踏ん張っていたなぁ、というのが率直な印象で、特に、最後のナイジェリア戦で、終盤の猛攻をしのぎ切ったあたりには、男子の試合でもなかなか見られないような勝利への執念を見た気がした。
個人的に一番痛快だったのは、これまで「個人技で勝てない分、組織力で何とか・・・」というのが、日本サッカーを語る上での“常識”のように思われていた中で、「組織力よりもまずは個人技で勝負する」という哲学のチームが日の丸を付けて、世界の名だたるサッカー先進国を蹴散らしたこと。
男子と比べてしまうと競技自体のレベルや成熟度の差は当然あるし、女性であるがゆえにフィジカルの差が出にくい(?)ということもあるのかもしれない。
だが、それでも、決して体格的に恵まれているとは言えない日本代表が、ドリブルで、そしてシュートの技術で、相手チームを凌駕するサマは、「所詮日本人のサッカーなんて・・・」と思っていた識者たちに、「能力ある選手が必要な鍛錬を積めば、個人技でも世界と互角に戦える」ということを十分過ぎるほど、知らしめることができたのではないかと思う*4。
ちなみに、大会が終わってチームに戻っても、多くの選手達はリーグ戦への出場機会にすら恵まれていない状況で、しかも、フル代表では、昨年の世界選手権優勝後、個人技よりも組織戦術を重視する方向性がより強まっているから、U-20で世界の3番目のポジションに立ったからといって、そのメンバーが直ちに上のカテゴリーで活躍することになるとは考えにくい。
それでも、筆者としては、いつか、彼女達(今回様々な事情で代表メンバーには入れなかったU-20世代の選手たちも含む)が日本代表の主力を担うようになる時、日本サッカーの歴史を新たに塗り替えるような斬新なチームが誕生する、と信じてやまない。
そして、この夏の記憶が、選手の心の中に生き続ける限り、そんな斬新さが随所で発揮される日も決して少なくはない、と思うところである。
*1:ちなみに、今回のU-20はルックス的にも異常なまでに注目されているし、それ自体は自分も否定しないが、今のフル代表はともかく、一昔前はフル代表でも“美”をアピールできる選手たちは結構いたから(競技としてあまりにマイナーだったがゆえに、その事実は、当時のサッカー誌の愛読者くらいにしか知られることはなかったのだけど・・・)、何を今さら・・・と思わなくもない(笑)。
*2:あのキックの精度と強さ、しかもそれを左右で蹴れる器用さは、同世代の中では一、二枚抜けていたと思う。
*3:攻撃参加といえば、韓国戦の高木ひかり選手のサイドからの切り込みが今大会一番のプレーだったと思うけど。
*4:女子の場合、同種の運動能力を使うライバル競技(例えば、野球だったり、ラグビーだったり・・・)が少ないがゆえに、サッカーに良い選手が入ってくる、ということも要素としては大きいのではないかと思う。逆にいえば、男子も、運動神経に恵まれた子供たちが、野球のようなローカル球技ではなく、サッカーに幼い頃から親しむようになれば、W杯の上位常連チームになることも夢ではないだろう。