「予備試験」の誤算?

12日付の新司法試験の合格発表に関するエントリーの中ではそんなに詳しくは書かなかったのだが、今年の試験は、第1回予備試験合格者組が初めて挑んだ、という点でも注目されていた。

95人出願、85人受験、短答試験の足切りをうち84人がクリアして、最終合格者は58名、という結果。

全体の合格率を遥かに上回る7割近い合格率の実績、されど27名は涙を飲んでいる、というこの結果をどう評価するかは非常に難しいところだと思う。

一般的には、予備試験組の好成績を称えた上で、“法科大学院教育の不甲斐なさ”と絡めて論じる向きが多いようだが、自分などは、旧試験に新試験のエッセンスがミックスされた試験を「口述」までクリアした人々の3割もが、“本番”の壁に突き当たった、という事実を、相当な意外感をもって受け止めている。

結論からいえば、やはり、どんな試験にもそれぞれの難しさがある、ということになるのだろう。
そして、それは、予備試験から続いて今年の試験をクリアした人の価値は相当高い、ということの裏付けでもある。

個人的には、法務省が公表した、予備試験合格者組の属性*1を見て、残念に思ったところもあった。
20〜24歳の最若手組(30名)、大学生+法科大学院生(34名)が過半数を占め、有職者は公務員や塾講師を合わせてもわずか10名*2

元々、様々な事情があって“法科大学院に行きにくい”人を対象にした試験なのだから、「行こうと思えば行ける人」*3や、「既に行っている人」が予備試験を使うのは反則じゃねえか、というのが率直な感想なのだが、末期の旧試験でも、合格者の2〜3割くらいは、最若手or法科大学院在籍中だったから、現実はそんなものなのかもしれないなぁ、と思ったりもする。

・・・で、そんな中、日経紙に掲載されたのは「司法試験、近道が人気」という記事*4。ご丁寧にも「金銭負担少なく、学生に魅力」というサブタイトルまで付いている。

記事の中で紹介されているのは、予備試験から新司法試験に合格した東大法学部の4年生。

法科大学院に通う金銭的・時間的負担を考えると、何としても大学在学中に合格したかった」

というセリフは、殊勝なようにも感じられるし、「弟2人が大学、高校への進学を控えている」と聞けば、なおさらなのかもしれないが、それなら「学部出てすぐにローに行くことなんて、考えなければよろしい」というのは、先ほど書いたとおり*5

もちろん、任官希望のある人や、大手渉外系事務所への就職を希望する人が、

「大学在学中に予備試験を突破すれば優秀な人材と評価され、就職でも有利になる。」

という側面を狙って挑戦する、というのは理解できるところだし、それならまぁ仕方ないか(笑)、という気にはなるのだけれど*6、そういう目的で使われることが、予備試験の本来の趣旨だったのかなぁ・・・という素朴な疑問は消えない。


法律家が仕事をする上でのベースとなるのは、「法曹界の空気を吸った時間の長さ」ではなく、「法曹界以外の場所で積んだ経験の数、質、内容」に尽きる、と思うだけに、「予備試験」の枠は日々最前線の仕事をバリバリこなしている社会人のために空けておいてあげて、法科大学院に行けない/行きたくない若者は、「生き急がずに、有形無形の財産を蓄積してから、チャレンジする道」に誘導する方が、本来のあり方に近づくような気もするのであるが・・・。

制度上誘導するのは難しいにしても、せめてメディアにはミスリードしないでほしいなぁ、というのが、自分の切なる願いである。

*1:http://www.moj.go.jp/content/000101958.pdf

*2:一番日常的な負担が大きいはずの「会社員」カテゴリーで、8人中5名が合格している、というのは素晴らしいことだと思うが、如何せん数が少なすぎる・・・。

*3:中には「家庭の事情で・・・」という人もいるのだろうけど、法曹を目指せるくらいの優秀な現役学生なら、普通に就職して何年か働けば、(堅実に生活している限り)2〜3年分の学費を稼ぐことは、本来そんなに難しいことではない。

*4:日本経済新聞2012年9月24日付け朝刊・第39面。

*5:ちなみに生活費は、どういう生活をしようが、必要になる代物なのだから、こういう場合にカウントするのは適切ではないと思う。また、記事の中では合格までの学費と生活費で「1000万円」という数字が出てきているが、実家と完全別世帯だとしても、どんな生活をしたらこんな数字になるのか、自分には理解できない・・・。

*6:ベタベタな“エリートコース”に何の疑念も抱かずに挑めるのは、若者の特権だから(笑)。

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