ブログ記事“無断転載”問題と有斐閣のファインプレー。

「iPS臨床応用をめぐる研究成果捏造」というあまりにお粗末な話に、皆、気を取られているせいか、今のところそんなに話題になってはいないのだが、業界関係者的には、「おいおい」と突っ込みを入れたくなるようなニュースが、日経でささやかに*1報じられていた。

「租税法学会の理事長で、政府税制調査会の委員を務めた明治大学経営学部の水野忠恒教授(61)が、同学会が発行する学術誌に掲載した論文で、本山美彦・大阪産業大学学長のブログ記事を無断で転用していたことが12日、分かった。水野教授は無断転用を認めて本山学長や学会員に謝罪、学術誌を回収した。理事長職も辞任する意向。」(日本経済新聞2012年10月13日付朝刊・第42面)

問題の論文が掲載されたのは、「租税法研究」という、かなり格調が高い学術誌で、しかも、渦中の水野教授といえば、我が国における租税法の第一人者に名を連ねられるお方だから、本来であれば、“とんでもない不祥事”としてバッシングを浴びても不思議ではないニュースではあるのだが、今のところ静かに収まっているのは、

「ブログ記事をコピーしてパソコンに保存した。その後、講演内容を基に論文を作成した際、この記事と自分の原稿とを混同しそのまま論文に転載した」

という何とも憎めない感じ*2の弁解に加え、“無断転載”された当の本山学長(元京大教授、経済学博士)が、「今回のことを問題とはしていない」という鷹揚な態度を見せておられるゆえなのだろう。財務省の審議会等の委員を先月中に辞任し、明日(14日)の租税法学会で、理事長職も辞任される見通しになっているなど、一定の“ケジメ”が付けられた話だ、という割り切りもあるのかもしれない。

ちなみに、上記日経紙の記事は、比較的長い割に、具体的にどのような箇所を転載したか、ということについては、「法人税法の改正の経過を説明する内容(17頁)のうち、米国の税制を解説した最後の3頁」ということ以上には触れられていないのだが、この情報と、水野教授の論文タイトル(「国際化の中の企業課税‐序論的検討‐」)、そして本山学長のブログ(http://blog.goo.ne.jp/motoyama_2006)の各記事の内容から推し量る限りでは、「転載」された内容は、あくまで淡々とした事実の記載にとどまっていたのかなぁ・・・とも推測できるところで*3、その辺も今回の事件が“致命傷”にならなかった一因なのではないかと思う*4


なお、興味深いのは、今回の問題を受けての有斐閣の対応である。

水野教授の論文が掲載された「租税法研究」第40号が発行されたのは今年の7月。
ところが、8月には、有斐閣から「論文中に不適切な引用箇所があることが判明いたしました」という案内(http://www.yuhikaku.co.jp/static_files/13124_kokuti.pdf)とともに交換を行ったようで、結果、現在、有斐閣のサイトに掲載されている「租税法研究」第40号の表紙の写真からは、水野教授の論文が掲載されていた形跡は跡形もなく消えている(http://www.yuhikaku.co.jp/static_files/13124_kokuti.pdf)。

大衆向けの法律雑誌に比べれば、明らかに部数が異なるとはいえ、表紙から中身から組み直して印刷をし直す、というのは、相当な労力とコストがかかる話のはずで、それをこの短期間の間にやってのけた有斐閣は、さすが、というべきだろう*5

有斐閣のせっかくの苦労も、ネット書店に行くと、「昔の写真で出ています」状態だったりするので(↓参照)、そこは報われていなかったりもするのだけど・・・*6

国際化の中の企業課税の動向 (租税法研究)

国際化の中の企業課税の動向 (租税法研究)

*1:といっても、森口某氏のニュースよりも扱いは大きい。

*2:「忙しい先生だったら、まぁ、たまにやってしまうこともあるかもね・・・」的な(本当にやってしまう人は少ないと思うが)。

*3:もちろん、情報を収集した上で、それを選択・配列してひとつのトピックを解説する、というのは、研究者にとっても最も重要な作業のはずだから、他者の成果を「引用」することなく、それに丸々依拠する、というようなことは、モラル的にも著作権法的にも、歓迎されざることなのは間違いない。

*4:研究者が収集対象にするだけあって、本山学長のブログの記事は、シンプルながら整然と読みやすく、しかも出典等もきちんと明記されている。逆に言えば、よくありがちな“言論人”方のブログのように、書き手の個性が強烈に前面に出るタイプの文章ではない。だからこそ、“混同”という弁解が一応は受け入れられる余地も出てくるのかな、と思うところである。ちなみに、本件は、「会員からの指摘」で発覚した、ということだが、2年前のブログの記事を、よく思い出して見つけたものだなぁ(笑)、と、個人的にはそっちの方に感心してしまう。

*5:まぁ、そもそも、雑誌の掲載に際して、レフェリーと編集者が厳格に審査を行う慣行があれば・・・という突っ込みも、他分野の方々からは飛んでくるのかもしれないが、その話はここではやめておこう。

*6:しかも機に乗じて、「中古品」まで高値で出品されていたりする・・・。

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