最近、「法曹の就職」をめぐる議論があちこちで湧き上がっていて、法律関係のメディア等で見かけない日がないくらいの勢いである。
もちろん、このブログでも、そういった話は、以前からあれこれと取り上げてきたし、某著名弁護士との論争(?)に発展しかかったようなことも過去にはあったのだが、最近、メディアに流れるニュースのミーハーさ、というか、地に足付いてなさ、を見ると、さすがに辟易してくる。
19日付の日経紙、法務面に掲載された記事*1も、まさにそんな感じの中身であった。
「増える弁護士 空白地で腕ふるう」
「都市集中に変化 企業・大学にも就職」
といった見出しを見た時点で、ちょっと嫌な予感がしたのだが、案の定・・・である。
端的にまとめると、この中で紹介されているのは、
「人口5万円を抱えながら、3年前まで弁護士ゼロの街だった」須坂市で法律事務所を立ち上げた法科大学院修了生仲間の弁護士たち
や、
「抱える法的問題は多いのに、・・・弁護士ゼロだった」京都大学に転職した弁護士
大阪市に本社を置く中堅電子部品メーカーの田淵電機に勤める弁護士
といった人々である。
「都市集中に変化」とうたいながら、須坂市の弁護士以外は、結局「都市」で働いているじゃないか、といった細かい突っ込みはともかく、こういったレアな事例だけ取り上げて「変化」を強調したところで、当事者たる若手弁護士ないし司法修習生(及びその予備軍)は戸惑うだけだろうし、業界の“裾野”を支える企業法務サイドの関係者も、ピンと来ないまま読み流してしまうだけだろう*2。
最近では、とかく「就職難」を振りかざし、時計の針を逆回しにしようとする論調も目に付くようになっているだけに、そういった論調へのアンチテーゼとしては、一寸の意義くらいは認められるのかもしれないが・・・。
○今も昔も、法律専門家に対する需要が集中しているのは、大都市圏であり、大都市部に拠点を構える企業、団体であること。
○修習生の多くも、大都市圏で仕事に従事することを希望していること。
○企業に関して言えば、「弁護士」としての能力の特殊性を強調するまでもなく、司法試験合格者ないし法科大学院修了者には、就職に有利な状況があること。
○典型的な「弁護士」の仕事以外にも、法律知識やセンスを生かすことで、満足感を味わえる仕事はたくさんあること。
○それなのに、法科大学院生はベルトコンベアに乗せられたかのように司法試験を目指し、多くの司法修習生が「弁護士」としての待遇を求めて、法律事務所への就職に殺到してしまっている、という現実があること。
○その一方で、官庁や企業等の中で仕事に従事している弁護士の数は急激に増えていること。
こういった事実をきちんと正面から捉えた上で、どこに司法制度改革(法曹人口増員)の良い効果が表れていて、どこに悪影響又は効果の浸透が不十分なところがあるのか、ということをしっかり報じていかないと、何のためのメディアか、ということになってしまう。
専門誌でもなかなか取り上げるのが難しい領域だけに、一般の日刊紙にそれを求めるのは酷なのかもしれないけれど、他紙に比べればまだちょっとはまともな記事が出ることが多い媒体だけに、あえて苦言を呈しておくことにしたい。
*2:大体、この種の「弁護士ゼロだった企業・団体等」に就職した弁護士を紹介する記事には、普通に仕事をしている場面では考えにくいようなレアなエピソード(たとえば今回の記事でいえば、大学の中で「東京地検の参考人聴取への対応について助言した」とか、「同社初の社内弁護士として頼りにされ、会長や社長の相談に直接応じている」とか。そんな仕事ばっかりだったらやりにくいだろうし、組織の中に入る意味もないだろう、と自分は思う。業務のプロセスに溶け込んで、ふつうに仕事を楽しんでいる社内弁護士(あるいは有資格者)は既に多数存在しているのに、なぜ、そういった姿を真正面から報じようとしないのか、かねがね不思議に思っている。