“これがサッカーだ”というには残酷すぎる結末。

雨の中、サッカーの試合を見たことは、何度もあったし、国立競技場の屋根のないエリアで、雨に濡れながら試合を見たことも一度や二度ではない。

でも、試合が終わった後、体も心もこんなに冷え切るような経験をしたことはなかった。

“これがサッカー”としたり顔で語る人もいるだろうけど、“当事者”にとっては、泣くに泣けない残酷すぎる90分+αのドラマ。今の心情そのままに、書き残しておくことにしたい。

「ダイジェスト」では伝わらない喜劇と悲劇

J1昇格プレーオフ」と銘打たれたビッグマッチ。

「一発勝負」なれど、引き分けの場合はリーグ戦での順位が上の方が勝ち上がる、というシステムで、相手はプレーオフにギリギリで滑り込んだトリニータ

しかも、場所は“中立地”という建前ながら、かつてジェフが準ホームスタジアムとして使っていた「国立」の地、大分のサポーターにしてみれば完全アウェー*1のようなものだから、ジェフにとっては最高の舞台が整った、と言っても過言ではなかった。

試合が始まってからも、1対1の勝負になれば、ジェフの選手が必ず、と言ってよいほどボールの支配権を奪い取る。
特に、DFラインは盤石で、竹内彬選手*2などは、抜群のテクニックで一見ピンチに見えるトリニータの攻撃を一瞬でマイボールのチャンスに変えてくれていた。

トリニータで今季大ブレイクした(らしい)MFの三平選手や、背番号10のチェ・ジョンハン選手などは、存在感をすっかり消されていたし、前の試合で4得点と爆発した“デカモリシ”こと森島康仁選手も、ジェフの中盤&DFの選手たちの手堅いマークの前に、前半はほとんど攻撃参加の機会を与えられていなかったように思う。

そして、攻撃陣の方は、前の試合の勢いそのままに、早いパス回しからゴールを脅かしてみたり、両サイドの攻め上がりから崩しにかかってみたり、と、最後の詰めこそ、トリニータの体を張った守備に弾かれて今一歩、の状況に陥っていたものの*3、今季就任した木山監督の最大の功績ともいえる「攻撃の形」を存分に見せつけていた。

夜流れたスポーツニュースのダイジェストでは、「ジェフが攻めて、トリニータが巻き返して、一進一退の状況で、86分のあのシーン」というふうに編集されてしまっていたが、こちら側のサポーターが感じた“ヒヤリ”と、向こう側にいたサポーターが感じた“ヒヤリ”の数は圧倒的に異なっていたはずだし、“弱者の一刺し”を警戒するのを忘れるくらい、こちら側のサポーターは、黄色い選手たちの鮮やかな攻撃に酔っていた。

特に、雨が激しく降り始めた80分くらいから85分過ぎにかけての怒涛の時間帯、黄色く燃えたスタンドは、何度も繰り返されるフリーキックコーナーキックとそれに合わせた波状攻撃を眺めながら、目の前のゴールに藤田か米倉か兵働か、あるいは、山口智か竹内か、誰でもいいからボールを押し込んで、J1復帰を決定的にする瞬間を見届けるだけでよかった・・・はずだった。

だが、そこで、絵にかいたような悲劇。

1)攻め続けて残り5分を切ったタイミングで、応援するサポーターの頭の中にも引き分けがちらつき始めた時、余裕をもって攻めようとする左サイドの谷澤選手が、シザーズ気味の勿体付けたフェイントで軽くミスをして、相手ボールのスローインに。
     ↓
2)米倉選手が選手交代でOUT、代わりに投入されてきたのはFWの荒田選手、「この状況でまだ攻めるつもり・・・?」とサポーターの頭の中に「?」が巡った瞬間、相手DFを通じて森島選手にわたったスローインのボールは、さらに前に流されて、交代投入されていた林丈統選手の足元に転がる。
     ↓
3)状況をよく呑み込めないジェフサポがあっけにとられている中、さらに唖然とするような林選手のふわっと浮かしたヒールキック炸裂。
     ↓ 
4)その次の瞬間に訪れた、トリニータブルーの歓喜と、茫然として涙すら出ない菜の花畑の沈黙・・・。

後でニュースを見たら、その後、「ジェフの猛攻をトリニータが交わした」ということになっていたが、正直、その後のジェフの攻撃は、それまでの波に乗った“攻撃の形”が嘘のようなちぐはぐさで、全く点が入る気がしなかった*4

おそらく、選手自身も、そこで何が起こったのか、その時点で何をしなければならないのか、ということを自覚できないまま、ロスタイムを含めた残りの10分弱を過ごさざるを得なかったのだろう。

タイムアップの笛が鳴って、“絵になる仰向けのシーン”を迎えるずっと前から、選手たちも、そしてサポーターも目は泳ぎ、心は空を仰いでいた・・・そんな気がしてならない(もちろん自分もだ)。

因果応報?

この日、ジェフサポの最後の夢を打ち砕いた林選手は、2年前、ジェフが初めてJ2に陥落して迎えたシーズンの開幕に合わせて“古巣”に戻ってきた、という経歴を持つサポーターにとっては馴染み深い選手である。「背番号11」を背負い、絶妙なFK、CKで、この日の数少ないチャンスを演出していた村井選手も同じ。

もし、村井選手が昨シーズン、あんなに精度の高いキックで相手ゴールを脅かすことができていたら、もし、林選手が、あんなに素早い飛び出しで、しかもキーパーと1対1であんなに器用なキックを決める決定力を発揮できていたら、2人とも未だに黄色いユニフォームを着ていたかもしれないし、そもそも、今年のジェフの戦いの舞台は、ここではなかっただろう…と思うだけに、なおさら悔しさは残る*5

本来であれば、林選手の“交通事故のような背信的ゴール”を恨む前に、他のチームに比べれば豊富な戦力*6と、完成度の高い戦術*7を掲げながらも、「3位決定戦」に回らざるを得なかったチームの不甲斐なさを嘆くべきなのかもしれない*8

だが、「勤労感謝の悲劇」を目撃した27,000人×70%くらいのサポーターは、何でここで・・・という思いをこの先何年も抱えて生きていかざるを得ないだろう。そう思えるくらいの衝撃だったことは、もう一度だけ強調しておくことにしたい。

残された者に希望はあるか?

自分が国立競技場でジェフの試合を見たのは、まだ“パパオシム時代の余韻”が残っていた2006年ナビスコ杯決勝戦以来、で、あの時の湧き立つスタンドの雰囲気を知っているだけに、J2に陥落して久しい今のジェフにどれだけのサポーターが駆けつけるのか、と心配していたのだが、この日のスタンドを見る限り、まだまだ潜伏している人間は大勢いるんだなぁ(笑)と、多少は嬉しくなった。

一世一代の大勝負、とみて、今までスタジアムから足が遠のいていたサポーターが駆け付けた、という面もあったのだろう。

そして、涙なしには読めない試合後の佐藤勇人主将のコメント*9などを見ると、まだまだこのチームは捨てたもんじゃない、と思えてくる。

「大事なのは、僕がジェフを好きだということ。好きなクラブを、ジェフをJ1に上げたい」
「どうにかしてJ1に戻りたいと、自分を含めてもっともっと思うべきだし、今日もあれだけの人が足を運んでくれて、最後まで応援してくれた。結果、J1に上がれなくても、あれだけの声援をくれた。一人ひとりがもっともっと感じて、来シーズンにぶつけないといけない」

オシム時代には日本代表のユニフォームも着た闘将が、未だに「ジェフ愛」を口にし、黄色のユニフォームを着てくれていることに、我々はもっと深く感謝すべきだし、彼がチームにいる限り、このチームにはまだかすかな希望が残っている、と自分は信じる。

ユース時代から同じユニフォームで肩を並べてきた双子の弟が、今年あれだけ大ブレイクしている姿を見れば、勇人選手自身も心中思うところはいろいろあるだろうけど、もう一度、J1の舞台で輝ける日が来るまで、もう少し千葉に踏みとどまっていてほしい。
そして、まずは来季、爆発的な攻撃力で、プレーオフ何ぞ見向きもせずにJ1へ・・・! と、今はただ、願うのみである。 

*1:トーナメント表の設定上、順位が下位の大分がホーム側に割り当てられる、という変則的な状況になっていたのだが、ざっと会場を見回す限り、黄色いサポーターの方が明らかに数は多かった。

*2:今季リーグ戦全試合に唯一フル出場していた所以が分かったような気がした。まさにチームにとっては“至宝”。

*3:特に、阪田選手の守備は敵ながらあっぱれ・・・。

*4:そもそも、今季ほとんど試合に出ていないオーロイ選手をあのタイミングで投入したところで、いったい何ができるというのだろう。それまで防戦一方で、イエローカードもたくさんもらっていたトリニータの守備陣を切り崩すつもりがあるのだったら、深井選手とか大塚選手といった走れる選手を投入した方がよほど効果的だったんじゃないかと思う。あくまで素人の結果論だけど。

*5:まぁ一義的には、事実上戦力外になって流れ着いたとはいえ、2年前にチーム再建を託して迎え入れた選手をバッサリ切ってしまったチームフロントの問題なのだが・・・。

*6:特にJ2で実績のある攻撃系の選手を集めて、弱点だった得点力を大幅アップさせたのは、ジェフのフロントにしてはいい仕事だったと思う。

*7:木山監督はここ何代かのジェフの監督と比較すれば、間違いなく名将の部類に入る。

*8:大量点で敵チームを圧倒し、2つ、3つと連勝を重ねることも多かった初夏の頃までは、独走での優勝も夢ではない、と思っていた。米倉選手の負傷による大幅出遅れや、波に乗っていた時期に藤田選手が負傷で離脱する、といったアクシデントはあったにしても、例年同様、予定調和的に夏以降に失速してしまった、というのは、何か呪いでもかけられているんじゃないか・・・と思わざるを得ない。

*9:http://web.gekisaka.jp/?u=%2Findex.fcgi%3Ftwm%3Dv%26amp%3Bmenu%3Dfl%26amp%3Bguid%3DON%26amp%3Bkey%3DXxp0myW8%26amp%3Btwi%3D110355

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