「企業内弁護士増加」を語る上で必要な視点

日経紙がここに来て連日、法曹関係ネタを紙面に掲載している。
昨日の「調査」に対しては、シュールな感想しか出てこなかったのだが、20日付朝刊の紙面に掲載されている「法務人材 企業が拡充」という見出しの囲み記事の方は、それなりに評価してもよいのではないか、と思っている。

「大手企業が弁護士や法科大学院出身者など法務人材の採用を増やしている。三菱商事三井物産など大手商社4社が社内弁護士数を5年間で4倍強にしたほか、M&A(合併・買収)に積極的な会社で採用が目立つ。」(日本経済新聞2012年12月20日付け朝刊・第9面)

もし、この記事が、単に「社内弁護士が増えた」ということを紹介しているだけであれば、自分はたぶん、ここで取り上げることもなくスルーしただろう。

だが、この記事が興味深いのは、「社内弁護士の増加」と合わせて、「法務部門の人数」についても5年前と比較して取り上げている、という点にある。

例えば、

三菱商事 法務部門80名→108名 社内弁護士 6名→16名
三井物産 法務部門74名→95名 社内弁護士 1名→9名
日本たばこ産業 法務部門21名→26名(法科大学院修了生8名採用) 社内弁護士 0名→0名

といった具合に。

最近ではどこの会社でも弁護士の採用が一般的になってきていることもあって、それほどでもなくなったが、ひところは、「何で企業の法務部門はもっと弁護士を採用しないんだ!」という声が、法曹界から激しく吹き付けてきたこともあった。

で、自分はそういう声を聞くたびに、「いやいや待ってくださいよ。今の日本企業の法務部門にどれだけのキャパシティがあると思ってるんですかっ!」って話をしてきたわけで、「法務」という仕事のフィールドと組織の拡充を図ることがまず先決、ということを、このブログ等を通じても、訴え続けてきたつもりである。

残念ながら、この日経紙の記事では、そんなに多くの会社の例が取り上げられているわけではないのだが、今、年々倍々ゲーム、と言っても過言ではないほどのものすごい勢いで社内弁護士の数が増えている背景にここ数年の法務部門拡充の動きがある、ということは、記事の中に出てくるわずかなサンプルの中にも見て取ることができるわけで、しかも三菱商事にしても、三井物産にしても、数字だけ見れば、増えた人数の半分くらいは、社内弁護士の新規採用に充てられている計算になる、という事実が明らかになった意味は大きいだろう。

また、知る人ぞ知る、JTの「法科大学院生重点採用」が世に知らしめられたことも重要で*1、「世代バランス等も考えながら、長期的に社内で育成できる専門人材がほしい」と思っている会社にとってのひとつの回答となることを自分は期待している*2

まぁ、業種による差異はもちろんのこと、法務部門の組織上の位置づけや、他部門ごとの力関係、さらには会社の歴史に根差した“社風”といったところも、法務部門拡充や、社内弁護士、法科大学院生採用に関する会社のスタンスに影響を与えうる、というのは、法務業界ではほぼ周知となっている事実だけに、単に「国内企業の傾向は・・・」とまとめるだけでなく、そういった細微に踏み入った記事まで書いていただけると、より意義が高まったと思うのだが、それは、この先のお楽しみ、といったところだろうか*3

いずれにしても、「法曹」について語る前提としては、「裾野」に目を向ける視点が欠かせない。

とかく、「専門家」に気押されるのか、プロパガンダの後追いに走りがちなのがこの種の報道だけに、各メディアには大事な視点を忘れず、取材力を生かした良記事を期待したいところである。

*1:他にも同じような採用方針を取っている会社はいくつか知っているが、そのご紹介は記事になるまで待つか・・・。

*2:少なくとも、自分が知っている範囲でいえば、JTの採用は、採用した側にも、された側にも、かなりハッピーな結果をもたらしているように思える。「司法試験」というのが必ずしも実務に必要な能力を正確に担保するものではないことを考えると(それは、クリアした人間が一番良く分かっている(苦笑))、法科大学院で先端実務科目を含む知識をしっかりと身に付け、かつ修習経験者にありがちな妙な自己規定の枠にはまっていない法科大学院修了生の方が、試験のためだけの勉強に血道をあげていた合格者よりも採用する価値があるんじゃないかな、と自分も思うところである。

*3:ついでに言うと、この記事も最後に出てくるフレーズは相変わらず「受け皿」だ。安易にそういった表現を使うのはいい加減やめてほしい。社内でビジネスを支えている法務人材にも失礼だし、これから企業内を目指そうとする弁護士にも失礼だ。

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