数日前の日付のエントリーでは、下請法の特集をご紹介するだけで終わってしまったBLJ2013年2月号だが*1、それだけでは勿体ないので、メイン特集(第1特集)である、「法務のためのブックガイド2013」にも一応触れておきたい。
BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2013年 02月号 [雑誌]
- 出版社/メーカー: レクシスネクシス・ジャパン
- 発売日: 2012/12/21
- メディア: 雑誌
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おそらく、BLJ誌が創刊されて以来、毎年年末になるとこの特集が組まれているはずなのだが、当初から掲載されていた「テーマごと」の書籍紹介に加え、昨年から加わった「座談会」企画と書籍販売業界関係者のコメントも今年再び・・・で、定着しつつある、ということで、最近刊行された書籍を多角的に見つめ直すという点では、他誌にない独自性を誇る良い特集だと自分は思っている。
あえて今年の企画について微妙な点を挙げるとすれば、各執筆者に割り振っている「テーマ」の設定の仕方で、「独禁法」とか「労働法」といった、確立した分野であればともかく(あるいは「会計・IR」のような異種分野であればともかく)、他のジャンルの分け方については、ちょっとモヤモヤするなぁ・・・という印象。
さらに言えば、それぞれの執筆者の肩に力が入り過ぎているのか、限られた紙幅の中に挙げられている書籍等の数が多すぎるし、一冊一冊の解説にほとんど紙幅が割かれていないので、何をどういう用途で使えばよいのか、というところも良く分からなかったりする*2。
毎年同じだと飽きられてしまう、という編集部の危機感(?)から、毎年ちょっとずつ趣向を変えているのだろうと思うが、個人的には、去年の企画のように、企業の担当者に「これ!」というものを厳選して挙げてもらった方が良かったようにも思うところで、来年以降はまた戻してもよいのではないか?、というのが率直な感想である。
なお、今回の特集で取り上げられている書籍は多数あるが、その中で、魅力的に映ったものとしては、
岩谷誠治『この1冊ですべてわかる 会計の基本』(紹介者:矢野正教氏)
角田大憲『金商法という地図の読み方』(紹介者:柴田堅太郎弁護士)
神宮司史彦『経済法20講』(紹介者:平山賢太郎弁護士)
といったものだろうか。
やはり、ある程度、訴求力を持たせるようなコメントがないと手を伸ばしようがない。
なお、年末、ということもあるので、今年自分が読んだ本の中で、まだこのブログで取り上げていなかったものを、ここで追記しておくことにしたい。
『株主総会物語〜ある総会担当者の奮闘記365日』
- 作者: 岩田合同法律事務所山根室,田路至弘(弁護士)
- 出版社/メーカー: 商事法務
- 発売日: 2012/11/26
- メディア: 単行本
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年末ギリギリのタイミングで出版された本、ということもあって、今回のBLJの特集の中ではそんなに多くは取り上げられていないのだが*3、個人的には、このジャンルの本(いわゆる株主総会対策本)としては群を抜いて素晴らしい一冊ではないかと思う。
一度でもやったことのある人なら分かると思うが、株主総会実務、というのは、多くの会社においては、“形式優先”、“段取り命”という典型的な“知的好奇心が掻き立てられない仕事”の一つなわけで、担当者向けに出されるテキスト(ほぼ某社の独占市場w)も、それに輪をかけるような無味乾燥なものが多い*4。
それにもかかわらず、本書はエンタメ性に満ちたストーリー仕立てで、次の展開への好奇心を湧かせるような仕掛けに満ちている。
元々、編著者が、実務向け法律書の分野では一種の“ブランド”を確立されている田路至弘弁護士だから、自分も当然期待して購入したのだけど、本書がここまで・・・とは思わなかった。編集サイドの思惑通り、「総会を知らない」人へのアピールとしても、現にいま、来年の総会に向けた準備に追われている玄人筋にも、十分“ウケる”一冊になっているといえるだろう。
あえて欲を言えば、おそらく若い先生方が分担執筆して一生懸命書かれたのであろう「解説」のパートの記述に、章ごとのバラつきが少々見られるのが気になったし*5、各章で時系列が前後していたり、登場人物の名前に誤植があったり、最後の株主代表訴訟の話が尻切れトンボで終わっていたり・・・といったところは、惜しいっ、と思うのだが*6、その辺を差し引いても、事務局の事前準備や当日の会場でのオペレーションのキモの部分がしっかり押さえられていて、本番での議事進行や答弁レベルの“空気”感も、臨場感ある「進行/事務局の動き/解説」の表などから伝わってくる上に、各書式のサンプルまできっちり掲載されている、となれば、これを勧めないわけにはいかない。
真にシビアな総会を毎年経験している玄人担当者から見れば、「何で『不正会計』なんて不祥事が起きているのに、この会社の総会担当者はこんなに呑気に準備を進めてるんだ?」とか、「大して荒れる要素もないのに、当日の議事進行がグダグダ過ぎじゃねーか」とか、「この本に出てくる弁護士は、まともなことしか言わないいい先生だけど、実際には・・・(以下自主規制 」といった突っ込みも出てくるところかもしれないが、そういった突っ込みを入れる余地が出てくるのも、本書がかなりリアルな筋で攻めてきている本だからゆえだと思うわけで*7、年が変わって総会のピークを迎える6月頃まで、本書の需要が衰えることはないんじゃないか・・・そんな気がする。
『逆転無罪の事実認定』
- 作者: 原田國男
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2012/07/01
- メディア: 単行本
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この本は、今年の夏頃に出版された本だが、ジャンルがジャンルだけに、さすがにBLJの企画の中では登場していなかったように思う。
ただ、刑事訴訟の分野では名の通った裁判官が、自らの下した判決を素材に書かれた本、ということで、それ自体に稀少価値がある上に、審理の過程で着眼したポイントの解説も分かりやすく、「熱心な裁判官というのは、こういうところに目を付けるのか・・・」ということを学ぶ上でも役に立つ一冊だと言えるだろう*8。
法務担当者が「刑事裁判官」になることはないとしても、職務上、刑事裁判官同様のシビアな事実認定を迫られる場面、というのは、(ないにこしたことはないが)現に存在するわけで、そういった観点からも、プロの発想に触れておくことには意味がある。
もちろん、純粋に、一般的関心から、あるいはネタ本としての活用を目論んで読んでみる、というのも、ありだと思う。
読み物としても十分に楽しめる構成になっているだけに、契約書の細かい文字を読み過ぎて疲れた頭へのサプリとしても、使える一冊である。
おまけ
本の紹介は以上だが、最後に、某SNSで議論になった「職場に備えるべき本は何か?」というネタについて一言。
TL上のやり取りをご覧になられたdtk氏がブログで書かれていることについては、確かに、その通りだなぁと思う。
特に以下のくだり。
「法務セクションの管理者の立場になったときに、その心構えを共有しない下の人に共有できるかというと、その点、時として疑問が生じる余地があるのではないか」
「法務にどういう人が配属されるのか、また、法務に配属される人について法務がどの程度コントロールできるのか、ということは、会社ごとの状況、その会社での法務の位置づけによって異なるかもしれず、先の命題は常に成り立つものとは考えにくいように思う。そして、そのような心構えのない人に自費で購入させるのは簡単な話ではないだろう。また、仮に心構えがあっても、法律書は、特に数を買うとフトコロにやさしくないので、給与の水準が一定以上ないと厳しいかもしれない。」
(http://dtk2.blog24.fc2.com/blog-entry-2552.html)
ただ、では、そういった「ライトな法務担当者」のために備えるべき本として、「(体系的な)基本書」が有効か?と言えば、そうでもないのでは?という思いもあるわけで・・・。
学者の先生が書いた「基本書」を読んで、体系的に特定の分野を理解する、という作業は、ある程度しっかり腰を据えて法務の仕事に打ち込みたい、というモチベーションのある人が対象でなければ意味がない(仮に無理やりそれをしようとしても、モチベーションがなければ右から左に抜けていくだけ。学部時代の自分がそうだったように)、むしろそういう「ライト」な人に、最低限のレベルで踏み外さないようにしてもらうために、OJT以外の独学ツールを用意するとしたら、「経営法友会大阪部会が出しているテキスト」とか、「スタートライン」シリーズのような「入門書」の方が遥かに有用では?というのが自分のもう一つの持論*9。
だから、コンメンタールや、エンサイクロペディア的な概説書と合わせて、そういった類のテキストは一応会社の書棚にも揃えているつもりだし*10、そういうのに触れて好奇心を掻き立てられた人なら、何も言わなくても自分で「基本書」を買ってもっとしっかり勉強するのでは・・・と思っている。
ということで、結論から言えば、
「やっぱり、(職場には)内田民法はちょっと・・・」
ということになる(笑)。
自分の場合、「基本書をしっかり読み込んで」という王道ルートでの勉強はほとんどしてこなかった上に、「基本書」という言葉にアレルギーを持つ人が多かった時代を生きてきている(?)ので、なおさら脊髄反射的な“反発”を感じてしまう、というところがあるのかもしれないけれど、法務部の書棚が「T大の先生の『基本書』」で埋め尽くされる光景は、(見栄えはするかもしれないが)実利的にはどうかなぁ、と思うだけに、あえて蒸し返してみた次第である。
*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20121224/1356647778参照。
*2:一部、事務所の宣伝まで入っているものまであって、正直引いた・・・。
*3:もっとも、柴田堅太郎弁護士は、担当する「会社法、金商法、M&A・組織再編」分野の「株主総会」の項の中で、早くもこの一冊をコメントつきで取り上げておられる(36頁)。このスピード感は素晴らしい。
*4:普通は「通読」などとても無理、というタイプのものが多いように思う。
*5:レイアウトも含めて工夫して書かれた章がある一方で、少し情報量を詰め込み過ぎかなぁ・・・と思えるところもあったりする。
*6:なお、最終章については・・・(笑)。業績が良く、会社が何らトラブルに直面していないのであれば、この形式をやってみても面白いかなぁ、と思うけど、毎年そういう美味しい状況で総会を迎えられるわけではないので・・・。ただ、株主の不規則発言に苦労させられるような会社であれば、いっそのこと議長を会社役員ではなく「第三者」にやってもらう、というアイデアもあるのかもしれないなぁ、とは思ったけど。ちなみに、編著者の先生方の「個別審議方式」への郷愁(?)なども何となく伝わってきて、読んでいて興味深かったところである。
*7:あまりに現実から乖離したテキストであれば、突っ込む気にすらならないことだろう。
*8:なお、本書では、ポイントの解説が書かれた上で、各章の末尾に引用された判決全文まで読んで、見比べることができるので、刑事事実認定&その起案の練習をしなければならない法曹の卵の方々にとっては、いわば必読の書だと言えるだろう。個人的には、刑事事件において証拠から事実を導き出し、検察官の主張を弾劾する、というプロセスの面白さを改めて発見できる、知的好奇心をくすぐられる一冊であった。残念ながら、実務では、弁護人がいくら頑張ろうとしても、それだけの材料を備えている被告人や、弁護人の頑張りに応えてくれる裁判官がどれだけいるのか・・・という問題に直面せざるを得ないような気もするが・・・。
*9:それで一通り押さえてもらったうえで、マニュアル本で頑張ってもらう、というのが、最も有効な“促成栽培”のやり方かと。
*10:まぁ、これは自分が買うまでもなく、先見の明がある先人が大概揃えてくださっていたりするものだが・・・。