出版者(出版社)著作隣接権の行方

先の総選挙で、権利者保護強化に熱心な自民党公明党が圧勝し、対極にいた「国民の生活が第一」な人々*1がほとんど落選してしまったこともあって、しばらくはユーザーには肩身が狭い一年になりそうなのだが、そんな中、MSNのサイトで興味深い「世論調査」が行われている。

eアンケート「著作隣接権http://sankei.jp.msn.com/life/news/130103/trd13010319380009-n1.htm

このアンケートは、

電子書籍市場が活気づく中、海賊版への訴訟を直接行えるようにし、電子化を推進する目的で、著作権に準じる著作隣接権を出版社に与える法制定の議論が進んでいます。一方、権利内容が不明確だとして反対の声もあります。

というリードで始まり、

(1)著作隣接権海賊版防止効果が期待できますか
(2)電子書籍市場の拡大に役立ちますか
(3)作家や漫画家ら著作権者に不利に働く可能性はありますか

という3つの問いと、それに対するYes/Noの選択肢に回答することで行われるもの(募集締め切りは1月8日午前11時)

まぁ、よほど著作権に対する関心の強い人以外は、これだけ見ても「ポカーン!?」という感じだろうから、果たしてどれだけの回答者が集まるのか、ハラハラドキドキなのであるが*2、せっかくの機会なので、回答の指針的なもの、を一応ここに残しておこうかと思っている。

なお、出版者(出版社)の著作隣接権については、当ブログの過去エントリー(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20121116/1353173781)に比較的詳しく書いているので、ご関心のある方はそちらもご参照いただければ幸いである。

著作隣接権海賊版防止効果が期待できるか?

このアンケートは、いきなりこの質問から始まる。
確かに議員立法推進派の方々は、メインの立法目的として「海賊版等の横行による出版物等に係る権利侵害への対応の促進」を掲げており*3、誰から見てもケチを付けるのが難しい「海賊版対策」を“錦の御旗”として、進めていこうと考えておられるようだから、そのような進め方が世の中の共感を得られるものなのかどうか、調査することには意義があると思う。

・・・とはいえ、この問いに対してYes/Noの二択で答えるのは非常に難しい。

理屈の上では、出版者への著作隣接権付与によって、差止請求権等の権利行使ができる(独自の法的対応をなしうる)主体が増えるわけだから、「海賊版業者」に対するアクションの幅も広がる→防止効果あり(Yes)という考え方も出てくることだろう。

だが、音楽等、他のコンテンツ業界の実態を見る限り、「著作権法上の権利を与える」だけで、画期的な「海賊版防止」対策につながるか、と言えば甚だ怪しい*4

いくら日本の法制度で「出版社」に権利を与えたところで、アップロードとその準備行為が海外で行われてしまえば、著作権者ではない「出版社」は手も足もでないことになるし、仮に日本の著作権法の範疇で対応できるとしても、今の出版社の体制では対応能力に自ずから限界があるから、一部の“海賊”行為をスケープゴートにして“啓蒙効果”を狙うくらいのことしかできないだろう。
それなら、作者自らが原告となって行う場合と、さして変わりはない、ともいえる。

後述するように、「出版者著作隣接権」の真の問題は、付与する権利がメリットをもたらす可能性と、デメリットをもたらすリスクのバランスが悪い、というところにあると思うので、今回の世論調査のように、それぞれの項目を分離して「世論」を問う、というのは、あまり良いやり方とは言えないように思うのであるが、そこに目を瞑ったとしても、ここで「Yes」と答えるのは、ちょっと憚られるところである。

海賊版対策」という言葉の裏には、ここ数年の“Googleブックス”問題や、“自炊”問題等で、「出版社」という存在が事実上、蚊帳の外に置かれてしまったことのトラウマが籠められている・・・という推測も成り立つところだけに、気難しい作者相手に、散々苦労して一冊の本を世に送り出している出版社に、著作権の世界での存在感を少しでも与えてあげたい、と考えるのであれば、バランス感覚を働かせて、この問いに「Yes」で答えてあげる、という発想も出てくるのかもしれないが・・・。

個人的には、「わからない」という選択肢がほしかったなぁ、と思うところだ。

出版者の著作隣接権の創設は電子書籍市場の拡大に役立つか?

一問目とは異なり、ここの回答は比較的シンプルに出せると思う。

なぜなら、権利があってもなくても、出版社は「事業として電子書籍の出版を行うことができる」し、「電子書籍の販売に際して一定の利益を得る」ことができるのであって、著作隣接権の創設と「市場」との間には、本来、何の関係も存在しないからだ。
むしろ、理屈の上では、電子書籍の流通にかかわる事業者(あるいは購入したユーザー)に対して、“権利を盾にしたちょっかい”を出せる主体が増える分、「流通が阻害される」と考える方が素直な考え方だろう*5

現に、当初は「出版物の利用・流通の促進」を立法目的に掲げていた議員立法推進派も、あまりの批判の多さに耐えかねたのか、昨年11月の段階になって、

「本権利の導入によりその実現は相当程度図られると考えられるものの、それらはあくまで権利付与による副次的又は波及的効果であると思われるため」

として、「利用・流通の促進」を「副次的目的」に後退させている。

出版社側の言い分としては、

「出版社が儲かるスキームを作れる保証がないから、出版社もその影響を受けた著作権者も電子書籍化に二の足を踏んでいるんだ。権利さえもらえれば、確実に利益が取れるのだから・・・」

ということなのかもしれないが、今でも力のある出版社は、賢いビジネススキームを作って着実に市場を広げているわけで、電子書籍のプラットホームも整い、何もしなくても飛躍的な市場拡大が見込まれる状況となっている今、出版社側の主張にはほとんど説得力はないと言えよう。

したがって、ここは「No」以外の答えは、論理的にありえないだろう、と思うところである。

著作隣接権の創設が著作権者に不利に働く可能性はあるか?

この点に関しては、議員立法推進派もかなり気を使っていて、前記勉強会のペーパーにおいても、

「当初出版の後であっても、著作権者において、自ら電子書籍化して出版することや、異なる出版者を通じた出版ができるため、自由な競争が促される。」

と、「著作権者の権利に影響を与えない」ということが、かなり強調されている。

著作権の法文上も、今回創設が検討されている権利が従来の「著作隣接権」と同等のものとして位置づけられる限りは、「著作者の権利に影響を及ぼすものと解釈してはならない」(90条)わけだから、「出版権の拡大」等の他の選択肢と比べると、権利それ自体が著作権者に及ぼす影響は、遥かに小さいと言える。

もっとも、紙の書籍の市場が年々縮小を続ける中、「電子書籍市場の拡大」は、著作権者にとって非常に大きなインパクトをもたらすものであるはずで、にもかかわらず、「著作隣接権の創設」によってその拡大が妨げられる可能性があるのだとすれば、間接的に著作権者に不利に働く可能性があることは否定できない。

もちろん、逆に、著作隣接権の創設により飛躍的な「海賊版防止効果」が期待できるのであれば、「電子書籍市場」が少々ぎこちないものになったとしても、結果的に今回の権利創設が著作権者にとって有利なものとなる可能性はあると言えるのだが、少なくとも「書籍」の分野では、「海賊版」の存在が、通常の書籍市場や「電子書籍」市場を縮ませる要因になっている、という話をあまり聞かない上に、権利創設による「海賊版防止効果」が限定的なものにとどまる可能性が高い、ということは、既に述べたとおり。

であれば、この権利がもたらす、プラスとマイナスを勘案した上で、ここでの問いに対しても(推進派の意に反して)「Yes」と答える、という選択は十分合理的なものではないか、と思う次第である*6

おわりに

おそらく、昨今の流れからすれば、今回のMSNの世論調査の結果がどちらに転ぼうと、「出版者の著作隣接権」は法制化されることになると思われる*7

また、音楽の世界における「レコード製作者」と比べた時に、「出版者」に著作隣接権を与えることが不合理と言えないのも事実なわけで*8、過度に広く権利範囲が解釈されるような立法にならなければ*9、出版社に著作隣接権を与えるくらい良いではないか、という考え方もありうるだろう。

ユーザーにとってみれば、「新しい権利が創設される」ということは、気持ち悪いことこの上ないのだが、だからといって、「何でもかんでも反対する」というのは、ちょっと能がなさすぎる。

ただ、今回のアンケートのように、立法の「建前論」について、逐一賛否を問われ、それに対する回答を真剣に考えようとすればするほど、「何でこんな権利を推進しないといけないの?」という素朴な疑問が出てくるのも確かなわけで・・・。

いっそのこと、

「あなたは、今の世の中における出版社の役割に鑑み、出版社の法的地位を今よりも強化すべきだと思いますか?」

といった、真正面からの質問を設定していただいた方が、シンプルに答えが出せるし、“世論”も把握しやすかったのではなかろうか。


以上、長文となってしまったが、このエントリーが、上記アンケートにこれから回答をしようと思っている方、あるいは、この問題に直面して、自分がどういう考えを持つべきか迷っている方々にとって、少しでも参考となるのであれば、何より・・・である。

*1:選挙の時は違う名前で戦っていたような気もするが、もう忘れた(笑)。

*2:そうはいっても、ネットに慣れ親しんでいる人なら意外に関心は高いのかな・・・?その辺は不明。

*3:印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会のペーパー(http://www.mojikatsuji.or.jp/benkyoukai121108.pdf)参照。

*4:音楽に関して言えば、既に著作権者、レコード製作者に権利が付与されているが、それだけではニッチもサッチもいかない、と言ってダウンロード違法化+刑事罰付与、という動きが加速しているのは、周知の事実である。

*5:巷では、いわゆる“出版社抜き”のビジネススキームの構築を防ぐために出版社が権利創設を求めている、という噂もまことしやかに囁かれているところであり、そういったことに鑑みると、著作隣接権が様々なスキームによる電子書籍市場の拡大を妨害する方向に機能するリスクも捨象することはできない、というべきである。

*6:ここも「わからない」という選択肢があれば、そこに付けていたかもしれないが・・・。

*7:先の違法ダウンロードに対する刑事罰導入を積極的に推進した下村博文氏が文部科学相に就任したことで、議員立法ではなく審議会経由での立法になる可能性もあるが、遅かれ早かれ・・・という感が強い。

*8:もちろん、著作権法上、「レコード製作者」の地位が過度に高く評価され過ぎている、という批判もありうるだろうが、ここでは触れない。

*9:この点については、http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20121116/1353173781参照。