アルジェリアの悲劇はこの国に何をもたらすか?

最初の一報と、その後の「制圧作戦」のニュースを聞いた時に、皆薄々と感じていたことだろうが、今日になって、とうとう「アルジェリアの日本駐在員7名死亡」という悲しい知らせを聞くことになってしまった。

なんだかんだ言って“平和な国、日本”に生きてきた我々が、欧州列強やイスラム原理主義者との闘いを通じて培われたアルジェリア指導層のリアリズムを真の意味で理解することは難しいし、同国政府の“選択”を、今、批判すべきでもないと思う。

ただ、やはり、これだけ多くの日本人が犠牲になった、という事実は重い。
そして、この重大な危機に直面して、情報収集という観点からも、現地政府に対する慎重行動の要請、という観点からも、この国の政府がほとんど何もできなかった、という事実も、それと同じくらい重いことだと自分は思っている。

一般の日本人には馴染みが薄い土地での出来事で、世論の関心がそんなに盛り上がらなかった*1ことに加え、政権が発足したばかりで、まだ“ご祝儀ムード”が残っていたことも、今の首相には幸いした、というべきなのかもしれないが*2、ここ数日の一連の報道と、ニュース番組の中でのその位置づけを見ていると、色々と引っかかることも多かった。


うがった見方をするならば、猫も杓子も「グローバル化」を唱え、そんなに外国に行きたいとも思っていない若手世代に海外に出ることを強要する風潮が強い、というのが、悲しい哉今の日本の実態だけに、そんな動きに水を差すようなニュースを大々的に報じることを、ためらったという面もあったのかもしれない*3

だが、この話を日本の中で大きく取り上げようが、取り上げまいが、日本企業が世界の隅々に活動圏を広げれば広げるほど、こういったリスクが増える、という事実に変わりはない。


最近、「若手社員には全員海外に行ってもらう」と言わんばかりに、鼻息荒く語る経営者の姿を良く見かけるのだが、スタッフとして派遣される社員が生身で抱える“リスク”にどこまで目を向けているのかなぁ・・・と考えると、ちょっと首を傾げたくなることも多い*4

もしかしたら、今、就職活動を行っている学生の中でも敏感な人々は、格段に高まってきた“リスク”に気付き、選好を微修正し始めたところなのかもしれないけれど、深く考えずに、会社に入ってから「あれ、自分の身は大丈夫かしら・・・?」という思いを抱く人も必ず出てくるはず。

そして、そうなった時に、使用者/労働者間の間で長年積み重ねられてきたルールに影響を及ぼすような新しいタイプの事案が裁判所に持ち込まれ、一石が投じられる、といったことも、考えられなくはないわけで・・・。

今回の件、そして、異国の地で悲劇に巻き込まれたスタッフとそのご家族の“無念”が、今後の海外における日本企業の事業活動と労働の在り方にどのような影響をもたらすことになるのか、もうしばらく追いかけてみることにしたい。

*1:むしろ、桜宮高校の“体罰自殺”とその後の入試中止問題の方が、国内におけるメディア占有率は高かった。こちらも、生徒が1名亡くなっている話だから、決して軽く考えるべきことではないが、本来であれば、アルジェリアの話の方にニュースの主役を譲るべきネタだったはずで、大手メディアの情報の取捨選択のあり方には、ちょっと疑問も残ったところである。

*2:もし、同じ事件がついこの前までの民主党政権下、あるいは、数年後の自民党政権下で起きていたら、今頃、「責任とれ」の大合唱が起きていたかもしれない、ということは容易に想像できるところであろう。

*3:もちろん、純粋に情報がなくて記事が書けなかった、ということもあるだろうけど、少なくとも日経紙の記事には、そんなトーンが垣間見えていたように思う。

*4:もちろん、多くの国民が思っているほど日本も“安全”な国ではもはやなくなっているのだが、それでも、万が一仕事に殉じて命を落とすようなことになるのであれば、遠い異国の地より、長年慣れ親しんだ自分の国で・・・と思う方は多いだろうし、そういった思いは尊重されるべきだろう、と思う。

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