即席麺業界の仁義なき戦いの源流にあるもの。

昨年末になって、「ストレート麺」をめぐる特許紛争が勃発した即席麺業界*1
多くの人に親しまれているヒットメーカー同士の争い、ということもあって、世間の関心も高まっているところだが、そんな中、同じ当事者の間で、ひっそりと争われていた別件訴訟の判決が、最高裁HPにアップされている。

知財高判平成25年1月30日(H24(行ケ)第10036号)(第1事件)*2

知財高判平成25年1月30日(H24(行ケ)第10048号)(第2事件)*3

第1事件、第2事件のいずれも、当事者は、別件特許権侵害訴訟の当事者と同じ、日清食品ホールディングス株式会社とサンヨー食品株式会社であり、争われている特許も即席麺とその製造方法にかかわるものである。

だが、話題になった紛争と異なるのは、上記2件がいずれもサンヨー食品側の特許の有効性を争う無効審判審決の取消訴訟である、ということ。

第1事件では、発明の名称を「即席麺およびその製造方法」とする特許第4671663号が、第2事件では、発明の名称を「即席乾燥麺およびその製造方法」とする特許第4693913号が、ターゲットとなった。

興味深いのは、これら2つの特許に関して、審判の結論は分かれており、第1事件、第2事件のそれぞれで審決の取り消しを求める原告・被告の立場が入れ替わっていることである。

第1事件で有効性が争われた特許第4671663号は、

平成16年11月1日 出願
平成23年1月28日 設定登録
平成23年4月21日 無効審判請求(2011-800067号)
平成23年7月19日 訂正請求
平成23年12月16日 訂正認容、審判請求不成立審決

と、日清食品HD側の請求が退けられたがゆえに、審決取消訴訟においても日清食品HDがそのまま原告に。

一方、特許第4693913号は、

平成21年3月6日 出願
平成23年3月4日 設定登録
平成23年6月29日 無効審判請求(2011-800111号)
平成23年12月28日 無効審決

と、審判段階で特許の有効性が否定されたがゆえに、取消訴訟においては攻守所を変え、サンヨー食品が原告に入ることになった。

いずれの事件においても、問題とされたのは、日清食品HD側が出した引用発明との対比におけるサンヨー食品特許の進歩性であり(訂正を経た第1事件特許については、さらに実施可能要件、サポート要件等違反についても争点とされている)、以下のような両事件特許のクレームを見ても、イマイチ掴み切れていないところも多いので*4、両事件とも、判決内容そのもののご紹介は割愛するが、結論としては、いずれも原告側の請求が棄却されている*5

第4671663号
【請求項1】
主原料と,粒子径0.15?以上の油脂又は/および乳化剤とを少なくとも含む麺原料と,水を混捏して得た混合物から麺線を作成し,
該麺線を蒸煮し,次いで, 熱風により,110℃以上の温度で膨化乾燥する即席麺の製造方法であって;且つ,前記主原料が,小麦粉,デュラム粉,そば粉,大麦粉および澱粉からなる群から選ばれ,前記即席麺の同一製品中から任意の5本を選んで測定した際の,麺線断面積の長さ方向の標準偏差が0.3以下であり,且つ,前記粉末粒状の油脂または乳化剤の添加量が,主原料に対して,0.5〜5%であることを特徴とする即席麺の製造方法。
【請求項2】
前記油脂又は/および乳化剤が,球状又は/および粒状である請求項1に記載の即席麺の製造方法。
【請求項3】
前記主原料が小麦粉である請求項1または2に記載の即席麺の製造方法。
【請求項4】
前記麺原料が更にエチルアルコールを含む請求項1〜3のいずれかに記載の即席麺の製造方法。
【請求項5】
前記粉末粒状の油脂または乳化剤がスプレークーリング法により製造されたものである請求項1〜4のいずれかに記載の即席麺の製造方法。
【請求項6】
前記粉末粒状の油脂または乳化剤の融点が50℃〜70℃である請求項1〜5のいずれかに記載の即席麺の製造方法。
【請求項7】
前記エチルアルコールの添加量が主原料に対して,0.3〜5%である請求項4に記載の即席麺の製造方法。

第4693913号
【請求項1】
主原料に対し固形状の油脂および/又は乳化剤を含有する麺原料により作成したドウを,押し出し成形機を用いて,減圧下において圧力を加え小塊又は板状となした後に製麺された麺線をα化し,次いで当該麺線を熱風により乾燥させることを特徴とする即席乾燥麺の製造方法。
【請求項2】
固形状の油脂又は/および乳化剤が,粒子径0.1?以上の粉末粒状の油脂または乳化剤である請求項1に記載の即席乾燥麺の製造方法。
【請求項3】
前記粉末粒状の油脂または乳化剤がスプレークーリング法又はドラムドライ法により製造されたものである請求項2に記載の即席乾燥麺の製造方法。
【請求項4】
前記固形状の油脂または乳化剤の融点が50℃〜70℃である請求項1〜3のいずれか一項に記載の即席乾燥麺の製造方法。
【請求項5】
前記固形状の油脂または乳化剤の添加量が,主原料に対して,0.5〜10%である請求項1〜4のいずれか一項に記載の即席乾燥麺の製造方法。
【請求項6】
前記α化の手段として,蒸気を用いる蒸し機を使用することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の即席乾燥麺の製造方法。
【請求項7】
前記即席麺を乾燥させる際の熱風が,温度60℃〜100℃の範囲の熱風を単独もしくは組み合わせたものである請求項1〜6のいずれか一項に記載の即席乾燥麺の製造方法。

なお、↑をご覧いただければ分かるとおり、ここで争われた特許は、通常の即席麺、即席乾燥麺の製法に関するもののようであり、出願登録されたタイミングも、例の「ストレート麺」関連の特許に比べると一回り早い。

しかし、第1事件で争われた第4671663号は、その後、分割出願を繰り返し、2012年に出願された3件の出願特許の“親”になっているものだし、いずれの特許も「「生麺のごとき粘弾性」を有し且つ「生麺のようなみずみずしい食感」を実現する」というニーズに対応するために行われた発明、とされていて、このあたりの目指す方向性は日清食品HD側のそれともおそらく一致するのだろう。

そう考えると、これら2件の特許を喉元に突き付けられた日清食品側が、対抗手段とばかりに、件の「ストレート麺」特許を持ち出し、攻撃こそ最大の防御・・・という発想で、「侵害訴訟」というシビアな舞台での決戦の火ぶたを切った、と考えたとしても不思議ではない*6

元々、日清食品サンヨー食品ともに、結構前から積極的に即席麺に関する特許を出願していたようで、お互いの特許を意識する、というのも昨日今日始まった話ではないだろうから、この辺の話をストレート麺の話に結び付けるのは、少々勘繰り過ぎなのかもしれないが、たまたま見つけた上記2つの事件の判決が、今まさに行われている訴訟の行方も暗示しているような気がして、ご紹介した次第である*7

*1:当時のエントリーはhttp://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20121205/1354993843参照。

*2:第1部・飯村敏明裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130131114752.pdf

*3:第1部・飯村敏明裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130131115137.pdf

*4:じっくり特許公報でも眺めて検討すれば読めるレベルの特許なのかもしれないが、そんな暇もない・・・。

*5:結果的に、第1事件の特許は生き残り、第2事件の特許は事実上無効審決が確定することになった。

*6:特許を大量に持ち合う、という業界でもないだけに、電機メーカーのように、スマートなクロスライセンスで処理する、という可能性も考えにくいだろうと思われる。

*7:なお、上記2件で日清食品HD側の代理人を務めているのが、弁護士法人関西法律特許事務所の岩坪哲弁護士らと三協国際特許事務所(小谷悦司弁理士ら)。一方、サンヨー食品側には、青和特許法律事務所(上谷清弁護士ら)が付いている、ということで、我が国有数の法律特許事務所による“東西対決”の様相を呈している、というのも興味深い。

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