“アマチュア”を超えて・・・

別府大分毎日マラソンで、川内優輝選手が、中本健太郎選手との終盤の激しいデッドヒートを制して、見事、2時間8分15秒の自己ベスト記録(かつ大会新)で優勝するという偉業を果たした。

既に世界選手権出場経験があるにもかかわらず、“公務員ランナー”とか“市民ランナーの星”とかいった、ちょっと色のついたフレーズが付きまとう川内選手だが、ロンドン五輪で入賞し、今、実業団No.1ランナーと言っても過言ではない中本選手と30キロ過ぎから抜きつ抜かれつの好レースを演じ*1、しかも、最後まで自分から仕掛ける姿勢を捨てることなく勝ちきった今日の姿を見ていると、もう、普通の選手と同じように扱ってあげた方が良いのではないか、と思えてくる。

勝ったら勝ったで、別大マラソンというレースの位置づけの微妙さ*2や、レースレベル、コンディションの問題等が取りざたされることになるのだろうが*3、今日のような走りが見られるのであれば、世界の舞台に堂々と送り出しても、何ら恥ずかしいことはないだろう。

もちろん、同じ「アマチュア」とはいえ、「走ることが仕事の一部」になっている実業団の選手と、県庁に勤めながら「趣味の延長」として自分のペースで練習を続けている川内選手とでは、根源的なところで違いがあるのは間違いない。

そして、自分自身の反省も込めて言うと、「仕事に専念しながらも、自分の余暇を使って仕事とは別の大きな目標に挑戦する」人たち、っていうのは、それ自体を継続して挑み続けることのハードルが極めて高いことの裏返しとして、

「挑戦して、そこそこの結果を残せただけで満足」

という心情に陥ってしまいがちだ。

本来は、どんなハンディがあろうと、他の“プロ”的な人々*4と同じ土俵に立つ以上は、同じ心構えで臨まないことには話にならないし、頑張っている自分に酔ってしまった瞬間に、もはや何も手に入れられなくなってしまうものだが、人間というのは本質的に極めて心の弱い生き物であるだけに、どうしても自己陶酔する方向に、自分の感情を持って行ってしまいがちである。

にもかかわらず、川内選手のレース本番の、しかも終盤での粘りと強さやいかに・・・。

もちろん、元々ふつうの一般人よりは、「走ること」についての適性、優位性があるのは間違いないし*5、もしかしたら、周りが思うほどストイックに自分を追い込まなくても、馬力を出せるだけの能力が彼にはあるのかもしれないけれど、そうだとしても、

「なぜ、そこまでできるのか?」

という素朴な疑問と感嘆の思いは、最後まで残る。

そして、この先、川内選手が今の立場のままでいつまで走り続けるのか、というのはさておくとしても、少なくとも今の状況で、彼が自分を追い込んでもなお結果を出し続けている、ということなのだとすれば、やはりそれは最大級の尊敬に値することだと自分は思うのである。

*1:日本国内のレースで、しかも日本人同士の争いで見ていて熱くなるようなレースは、近年そんなになかったんじゃないかと思う。

*2:中継では手前味噌的に「世界選手権代表選考会」とうたっていたが、陸連の基準では、選考レースはあくまで福岡国際、東京、びわ湖毎日の3レースで、別大マラソンはこれらのレースで条件を満たす選手が出なかった場合の“予備レース”に過ぎない(http://www.sponichi.co.jp/sports/news/2012/06/12/kiji/K20120612003452690.html参照)。

*3:別大マラソンのコースは2009年に変更されており、その際、風の影響を受けにくいコースに変わったようである。

*4:前の話でいえば、さしづめかつての“専業受験生”をイメージしていただければわかりやすいだろう。

*5:そもそも、学連選抜で2度も箱根駅伝に出場している。その実績だけで常人は大きく超えている。

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