混迷に終止符は打たれるのか?〜6賢人の提言と中川勉強会の“コペ転”が意味するもの

昨年初夏に日経紙にアドバルーンが上がって以来*1議員立法による著作隣接権創設の動き*2と、それに反対する動きが拮抗して、混迷した状況になっていた「出版者の権利」問題。

年が明けて以降は、経団連が「電子出版権」の創設を提言したこともあって*3、事態はますます混迷を深めていくかのように見えた。

だが、ここに来て、実に驚くべき展開が・・・。

超党派の国会議員と出版社、著作権団体関係者などから成る「印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会」(座長:中川正春衆院議員)は4日、電子書籍の権利に関する提言を発表した。紙の書籍における「出版権」の規定と同様、電子書籍を発行する出版社に対し、著者と出版社との協議により電子書籍の出版権を設定可能にすることが柱。出版社に著作隣接権を付与するという従来案から方針転換した。(強調筆者)

http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0402V_U3A400C1000000/

通称“中川勉強会”で知られる、「印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会」といえば、これまで「出版者に著作隣接権を付与する」という旗を立てて、積極的に活動を行ってきた団体であり、昨秋の時点で法案の骨子案(http://www.mojikatsuji.or.jp/benkyoukai121108.pdf、「『出版物に係る権利(仮称)』に関する検討の現状について)まで公表して猛烈なアピールをしていたことは記憶に新しい。

そして、彼ら自身が、骨子案のQ&Aの中で、

【出版権の拡張として構成することの問題点】
著作権者自身はもとより、競合他社による電子書籍の出版等も困難となり、結果的に電子媒体による出版流通が阻害されるおそれがある。
著作権者により出版権が設定されるケースが多くないという現状に照らすと、海賊版対策として十分にワークしない可能性が高い。
(「『出版物に係る権利 (仮称)』に関する検討の現状について」5頁)

と、ネガティブな評価をしていた「出版権」を、ここに来て自ら取り入れることになるとは、昨年の時点では誰も想像できなかった。
これを“コペルニクス的転回”と言わずして何と言おう(苦笑)。


記事の中でも紹介されているように、中川勉強会の大胆な“コペ転”の背景には、中山信弘教授、三村量一弁護士、福井健策弁護士、上野達弘教授、といった我が国の著作権法業界を代表する6名の学者、実務家が名を連ねた、

「出版者の権利のあり方に関する提言」(2013年4月4日付け)
http://www.kisc.meiji.ac.jp/~ip/20130404teigen.pdf

の存在があったのは間違いないものと思われる*4

結論としては、

「デジタル時代に対応すべく、現行出版権の拡張・再構成を文化審議会で検討する」

という極めてシンプルなことしか書かれていないものの、

「著作者との契約により設定される現行の出版権が、原則として電子出版にも及ぶよう改正」
当然に発生する隣接権ではなく、著作者との契約に基づく専用権である。

と、「著作隣接権」創設論を否定する方向性を明確に示し、しかも、さらに続けて「出版権の拡大」の具体的なメニューについても示唆されている、というこの提言は、提案者のネームバリュー等も考慮すれば、そう簡単に無視できるような代物ではない。

また、著作者サイドにも、ユーザーサイドにもあまり評判が良くない「著作隣接権」に固執して逆風を浴びるよりは、経団連の提言等にも近いこの「出版権拡大」案に乗っかる方が合理的、という皮算用をして、方針を変えた、というのも、一応は理解できるところ。


それでも、これまでの中川勉強会側の頑ななまでのスタンスを考えると、まだ半信半疑・・・という状況なのではあるのだけれど。


ちなみに、仮に、文化審議会著作権分科会に議論の場が設定された場合にどのような展開になるのか、ということまでは、今は全く想像が付かない。

ただ、以前、経団連の新提案が出てきた時にも言及したとおり、当の出版社側にとっては、著作隣接権よりも出版権拡大の方が「強力な武器」となるのは間違いないから、当初の構想と異なったとしても、正面から反対する理由はなさそうだし、経済界も経団連が出している意見と共通するところが多い以上、反対に回る理屈は恐らくないだろう。

となれば、後は著作権者サイドの反発さえ乗り切れば・・・というところだろうか。

個人的には、「出版権」も決して“優しい”権利ではないだけに、出版者に更なる保護を与える必要性と合わせて、規定の要否をまずじっくり検討してほしい、と思うところなのだが、中川勉強会からの「審議が長期化した場合には議員立法で」というメッセージを見てしまうと、あまり悠長な審議をするわけにもいかないのだろうなぁ・・・と悩ましく感じるところである。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120515/1337409515

*2:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20121116/1353173781

*3:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20130219/1362335830

*4:そもそも、4月4日に行われた中川勉強会では、冒頭でこの提言の説明が行われ、それを受けて「今後の方向性」が話し合われたようである(HPにアップされている当日の勉強会式次第(http://www.mojikatsuji.or.jp/benkyoukai130404.pdf)を参照)。

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