そもそも「法務による契約書の管理」が必要なのか?〜BLJ2013年6月号より。

ゴールデンウィーク」といっても、それらしい生活は到底送れそうにない状況ではあるが、それでも、雑誌に目を通すくらいの余裕はあった、ということで、遅まきながらBLJの最新号を開いてみた。

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2013年 06月号 [雑誌]

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2013年 06月号 [雑誌]

ボリューム的に言えば、債権法改正中間試案絡みの「第2特集」を中心に取り上げるべきなのだろうが、これについては(機会が本当にあるかどうかは分からないが)別の機会に書いてみようと思っているので、今回はもう一つの特集「契約書の管理」について触れてみようと思う。


・・・といっても、このテーマについては、既に「企業法務マンサバイバル」で、登場している9社の事例分析も含め、詳細なコメントがなされている*1ので、今さら書くこともそんなにないよなぁ・・・(笑)と。

しかも、このエントリーのタイトルをご覧いただければ分かるように、いつもなら、見解が真っ向から食い違うことが多い「企業法務マンサバイバル」の管理人氏と、この件に関しては、抱く感想までほぼ同じである(苦笑)*2

何と言っても、自分のところの場合、「契約書をみっちり管理するだけのリソースが法務部門にない」というのが一番大きな理由だし*3、そもそも自部門で担当している業務の中で、「契約書のリーガルチェック」が占めるウェイトがそんなに大きいものではない(それよりは、もっと経営サイドに近い“川上”のところで行う仕事や、逆に“川下”の紛争勃発後の処理に割かねばならないリソースの方が遥かに大きい)、という特殊要素もたぶんにあるので、一般的な“良い会社の法務”の皆様に対して、この件について何かを語るのはおこがましい、というべきなのかもしれない。

ただ、それでもあえて、法務ではなく事業部門に管理させるべき、とする実質的な理由を申し上げるならば、

・「契約」の内容を規定するのは「契約書」の記載だけではなく、契約交渉を実際に行った事業部門の相手方とのやり取りのすべてが、何らかの形で契約内容として取り込まれる可能性があるのだから、「契約書」だけを切り離して法務部門で管理していても仕方ない。
・契約に基づいてビジネスを行うのは事業部門であり、そこで行われる「実務」が「契約書」の中身と食い違っては困るので、契約書完成、捺印後も常に事業部門の担当者がそれを手元に置いて管理し続ける方が自然である。

といったところだろうか。

また、「全ての契約書について法務部長の決裁が必要」というルーチンになっている会社ならともかく、相談に来る契約案件が、全体の一部にとどまっている、という会社の場合、相談に来たものだけ原本を法務が管理しても実質的な意味はないし、逆に相談も受けていないような契約書の原本を法務で管理したところで、あまり機能しない。


ということで、各事業部門には、社内規程等で契約書の原本をしっかり管理してもらうようにし、法務の側では、相談を受けた際のメールのやり取りやらドラフトの修正経緯やらを電子化するなり何なりして、いざ、という時に備えて保管しておく、ということで良いのではないか、と思うところである*4

まぁ、半年、一年かけて粘り強く交渉して、ようやく締結に辿り着いたようなケースで、契約書の完成版が手元に届かなかったような場合は、「せっかくだから下さい」というお願いをすることもあるのだけれど・・・。


なお、今回の特集の中で、「契約書の管理方法」と合わせて、「(社内クライアントからの)法務部門への仕事の頼み方」(正式な手続きを要するのか、それとも事実上のお願いで足りるのか等)についても、会社ごとの違いが際立っていたような気がして、今後、こちらに特化した特集を組んでみても面白いのではないかなぁ、と思った(あくまで思い付きだし、過去の特集でガイシュツかもしれないが・・・)*5

*1:http://blog.livedoor.jp/businesslaw/archives/52315520.html

*2:まぁ、「法務部門がいつまでも同じように存在するとは限らないから」という理由については、あまり共感できないのだけれど(どうなるかわからない、というリスクを考えるなら、事業部門の方がもっと深刻なわけで、今の時代、下手をすると、一事業部門が複数に分割されて別々の会社に行ってしまう可能性もあるのだから、それなら法務でしっかり管理しよう、という発想の方がむしろ自然ともいえる)。

*3:その意味で、外資系メーカー日本法人の方のコメント(46〜47頁)には共感できるところが多い。

*4:なお、今回の特集の中では、「裁判になった時に原本が出てこないと困る」というような話もちらほら出てくるが、自社が原告になる立場で契約書が出てこなければ、そもそも訴訟提起なんて考えないし、逆に被告の立場になるのであれば、間違いなく相手方が契約書を書証として出してくるので(特に債務不履行構成の場合は)、それで問題なく乗り切れる。ゆえにそこまで心配しなくても良いのでは・・・というのが個人的な感想である。

*5:ちなみに自分は、どんな形であれ「敷居を高くする」ことには絶対反対、というポリシーなので、「部署からの正式依頼手続」をルーチン化するような取り組みには断固組せずにこれまでやってきたのだが、ここは部門マネージャーや担当者ごとの考えの違いがあるところだと思うので、いろいろ聞きまわると面白いのではないかと。

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