「直前には勉強しない」のすゝめ

例年、この時期になると、こんな感じのエントリーを書いているような気がするのだが、今年もシーズンということで・・・。

司法試験*1までちょうど1週間、ということで*2、今年受験される方々は、正に今、緊張感がピークに達しつつある、というところなのではないかと思う。

で、巷には、

「試験直前の勉強が合否のカギを握る」

だとか、

「最後まであきらめずに勉強しよう」

といった美しい精神論が未だにあふれているようだ。

だが、この点に関して、自分の経験則上導かれる「教訓」めいたものがあるとすれば、それは、

「試験直前期は頭を休めるに限る」

という一言に尽きる。

直前にいろいろやろうとした結果の“やり残し感”の問題等については、過去のエントリー(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20090713/1247498258)にも書いたとおりで*3、メンタルコンディションが本番での好不調に大きく影響することを考えると、目標を高いところに置いている人であればあるほど“追い込まれる”可能性がある直前の詰めこみ型勉強は避けるべきだと思うのだが、それ以上に、そもそも、

「大事な場面で良いパフォーマンスを発揮するためのコンディション調整」

という観点からも、「本当の直前期は勉強しない」ことが何よりも大事・・・と、いうのが、最近とみに良く感じることなので*4、以下、少し書き残しておくことにしたい。

なぜ、「頭を休める」必要があるのか?

「直前に必死で勉強をやる派」の人たちは、よく「直前に覚えたところが出ることだってあるんだから、ギリギリまでやるのが大事」みたいなことを言う。

だが、そういう理屈は、「市販のテキストの内容を7割方覚えて、マークシート塗りつぶせば合格ラインに達する」ような、ベタベタな知識確認テストには当てはまるかもしれないが、「司法試験」には今も昔も当てはまらない。

なぜなら、

司法試験=『考える試験』

に他ならないからだ。

特に、論文試験のように、基本的な知識確認をベースとしながらも、問題素材にも、論じさせ方の切り口にも、ちょっとした捻りを入れてあるようなタイプの試験になってくると、単なる「記憶データ」の蓄積と吐き出しだけでは到底乗り切れないのであって、知識の“引き出し”をフルに使いながら、“正確にかつ明快な”答案を作り上げるために、頭をフル回転させる必要がある。

一方で、頭脳は、使い続ければ疲労がたまるし、疲労が貯まれば、普段は出せるレベルのパフォーマンスも十分に発揮できなくなる。
その意味で、いわば「無理遣いが利かない消耗品」といえる。

だとすれば、野球のピッチャーが、登板予定日直前になると練習で投げる球数を減らす、あるいは、力のあるマラソンランナーが目標としているレースの直前になると走り込む量を落とす、といったことと同じで、「本番」で力をフルに発揮しようと思うならば、

「本番が始まる時点での頭の疲労をいかに減らすか?」

ということを最優先にするのは、当たり前のこと、といえるのではなかろうか。

そもそも、仮に、試験の直前期に必死で何か新しい知識を詰めこもうとしても、それが記憶に定着して、誤りなく答案上に表現できる可能性は極めて低い*5と思われるのだが、仮に、僅かな知識の上乗せができたとしても、肝心の試験本番で、「頭そのものが回らない」状態になってしまえば、それを得点に結びつけることなど到底できないのだ・・・。

そうでなくても、今の試験は4日間(日程的には5日間)の長丁場。
試験特有の緊張感と、連日、張り詰めた空気の中、机に張り付くことによる身体の疲労が、平常時の感覚を狂わすことは大いに予想されるところなので、せめて頭だけでもクリアな状態で臨む・・・ということが何よりも大事なことだと自分は思う。

残された日々の過ごし方

ということで、参考にするもしないも、信じるも信じないも自由だが(かつ信じて実践した結果については保証の限りではないが)、直前1週間の過ごし方として自分が勧めるのは、

「何にもしない」

である。

特に(今も少数派かもしれないが)、現在フルタイムで仕事をしている受験生であれば、「普通に仕事をして、飲み会があれば体調崩さない程度に付き合って、家に帰ったら余計なこと考えずにさっさと寝て睡眠時間を確保する」というのが一番だと思う(ノートを開くにしても一日30分くらいにとどめておくのが無難だろう)。

また、“専業”の受験生の場合は、さすがに一日何もせずに過ごす、というのは、かえって精神衛生上よろしくないと思うので、適度に何かやる分には構わないと思うのだが、せいぜいやるとしても、一日2〜3時間、それも、「その辺のカフェで温かいコーヒーを飲みながら、自分がこれまでに作ったノートを舐めるように読み返す、あるいはそれがなければ、『完択』等の網羅的な受験本(もちろん、これまで自分が使ってきたモノに限る)の見出し項目と、強調部分を舐めるように読み返す、といった程度で構わないだろう。

大事なのは、この期に及んで「新しいモノに手を出さない」ということと、「特定の科目、論点等に固執しない」ということ。

そもそも、2年ないし3年、法科大学院に通って、必要な単位を取っている、という前提で試験を受けるのだから、スタートラインに立つ上で必要な知識は、誰しもが備えている。

あとは、それを本番で引き出せるかどうか、だけの差なのだから、やるべきことは“アウトプットのためのウォーミングアップ”だけで良い。そして、そのためには、薄く、広く、「答案を書く(あるいは、明らかに誤った肢を速攻で切る)ための手がかり」を頭の中で整理しておくだけで十分だと自分は思うところである*6

そうはいっても、短答式試験などは論文式試験と違って、ベタな知識だけで解ける問題もないわけではないし、以前とは違って、短答式試験論文式試験が同じ機会に実施されるようになったことで、その辺の勉強の仕方は少し難しくなっているのかもしれないが、詰め込んだ知識で増える少々の点数よりも、思考が乱れることによるダメージの方が、遥かに大きいと思うので、それでもやっぱりすべきことは同じなのではないかなぁ・・・と。

まぁ、今、このエントリーに目を通しているような受験生であれば、それだけで、メンタル的には他の受験生よりも余裕がある状態、ということができるだろうし*7、その時点で、優位に立っている、といえるはずだから、あまり心配はしていないのだけど(笑)。


なお、言うまでもないことだが、上の話は、2〜3年しっかり勉強してきた、という人を想定しているもので、本格的な勉強を始めて日が浅い予備試験チャレンジ組や、“あまり勉強しないまま修了してしまった”とか、“センスだけで予備試験を突破してしまった”という本試験受験組については、別途考慮が必要になるのは言うまでもない。

いくら定着する可能性が低い知識とはいえ、“全くないよりはまし”だし、試験直前に無茶をして、本番で苦しい思いを味わう、というのも、人生の肥やしの一つにはなるだろうから、受験機会1回分を捨てる覚悟で、「本番で力を出せるかどうか」というところを度外視した“直前詰め込み型勉強”にチャレンジしてみる、というのも、それはそれで有り得べし、だと思う*8

*1:ギリギリ「旧」世代の人間としては、未だに“新しい”試験をこう呼ぶことへの違和感はあるのだが、まぁ、正式名称なので・・・。

*2:今年の日程は、http://www.moj.go.jp/content/000101142.pdf参照。

*3:ちなみに、最後の年もポリシーを貫徹して無事乗り切れたのは短答試験と論文試験だけで、口述の方は、舞い上がって直前1週間近く有給休暇を入れる、というアホなことをしてしまったせいで、肝心の本番で、かなり不本意な冷や汗をかいた・・・。

*4:特に、ここ数年、ロー生時代から凄く良いセンスを発揮していたのに、試験で結果を出せずに散った、という元受験生の話を聞く機会が多くて、そういった人たちが「試験直前にどういう過ごし方をしていたか」というところに、必ず共通する傾向があったのでなおさら。

*5:中途半端な知識は、かえって明快な思考を妨げ、問題作成者の“トラップ”に引っかかる要素を増やすのみだから、それが増えても良いことなど何もない。

*6:よく誤解されがちだが、司法試験の論文は、問題素材の材料を素直に使って、問いに応える形で論理的に文章を構成していけば、たとえそれが判例、学説の規範等々と食い違う論理であっても、ちゃんと点数は来る。問題は、問題文の中のヒントを見落としたり、本来、論述すべきところ(基本的な法律関係だとか、結論を導くために必須の“つなぎ”の論理等)を失念したりした結果、採点者から見た時に“見当違い”、あるいは“論理飛躍”の答案になってしまうこと。それを防ぐためには、気が逸って“論点飛びつき”に走らないように、十分頭のコンディションを整えるとともに、余裕があれば、最終チェックの段階で、網羅的に全体像を俯瞰しておくことが大事で、かつそれで足りる、と自分は考えている。

*7:いや、もしかしたら、どうしようもなくなって現実逃避しているだけの人もいらっしゃるかもしれないが、そういう方は、これ読んで元気出してください・・・。

*8:旧試験なんかだと、そもそも今のロー生が院に入る前のレベルで受け始めることが多かったから、自分も含めて、1,2回詰めこんでそれで失敗して、その次くらいからようやくコンディション管理を考えるようになった、という人がむしろ多数派ではなかったかと思われる。

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