保護期間延長問題は再び燃え上がるのか?

TPP交渉参加の“旗振り役”を長らく担ってきた日経新聞だが、いざ交渉に参加する、となると、多少はバランス感覚も働くようで、13日付の法務面には、以下のような記事が掲載されている。

「日本が環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に参加することになり、著作権保護期間を70年程度に延長するかどうか注目を集めている。ディズニーアニメなど息の長い映画作品を抱える米国が、延長を求めているからだ。知的財産保護につながる一方、図書館の蔵書デジタル化や一部ビジネスの制限につながる側面があるとの声も出ている。」(日本経済新聞2013年5月13日付け朝刊・第17面)

この問題が業界を二分するほどのホットイシューとなって、審議会等を舞台に華々しく議論が戦わされたのは、いったいいつのことだったか。

少なくともこのブログを書き始めたころは、まだまだ炎が燃え盛っていた、と記憶していたし、それと並行して争われた「映画の保護期間」をめぐる裁判例の嵐などもあって、「著作権といえば“保護期間問題”」といっても過言ではない時期は、確かにあったように思う。

だが、いつしか世の関心は、「補償金」だの「自炊」だの「クラウド」だの「フェアユース」だの・・・といったところに移っていき、気が付けば、文化審議会著作権分科会の下に設けられていた小委員会(過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会)も、延長に向けての明確な結論を出さないまま、いったん役目を終えて終了。

TPPをめぐる「リーク文書」で米側の要求項目に含まれている、という話が浮上したことで、再び話題に上る兆しはあったものの、「TPP」というイシュー自体が極めてセンシティブなものであることもあって、00年代中盤のような盛り上がりを見せるにはまだ至っていないように思われる。

日経紙の記事にもあるように、そうこうしているうちに「青空文庫」や「Googleブックス」発の“古典”電子書籍が相当数流通するようになったし、海外の映画の廉価DVDも引き続き出回っている*1

かつて権利者側の“闘士”として鳴らした三田誠広氏のコメントに、

「簡単な手続きで作者の所在が分からない著作物を使えるようにすべきだ」

というフレーズが出てくることからも分かるように、かつて多くの時間を費やして行った「保護期間延長」をめぐる議論は、“孤児著作物”問題への着目等、単に保護を強化するか否か、という視点に限られない、幅広い観点からの議論を行う土壌をこの国に作った、という点でも大いに意義があったといえるだろう*2

なので、仮にTPPを契機として、再び「保護期間延長論」が本格的な政策課題として浮上してきたとしても、かつて行われたものよりは、冷静な議論ができるのではないか、と思われるのだが・・・。


個人的には、TPPの主要な争点となるであろう、より特定業界にフォーカスされた要求事項をめぐる攻防に世間の耳目が集まる中で、「実際の影響は世の中に幅広く及ぶが、特定の団体の利益に直結する可能性が必ずしも高いとは言えない」この問題が、最重要論点の一つとして取り上げられることになるとは、あまり思えないだけに、

“いつの間にかさらっと”

的な話にならなければ良いなぁ・・・というのが気になるところである。

*1:国内の名画のDVDについては、映画会社が、公表時ではなく監督個人の死亡年を“起算点”とする、という作戦をとったこともあって、格安DVD会社に訴訟で連戦連勝する結果になったため、未だに市場に十分流通している、とは言い難い状況もあるようだが・・・。

*2:特に、福井健策弁護士が果たされた功績は大きかったように思う。http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20130224/1361987368のエントリーも参照のこと。

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