名門企業の解職劇の衝撃。

3月決算の会社は、どこもこの時期、株主総会に向けた準備でてんやわんやの真っただ中、という状況なのではないかと思われる。
どこまで意味があるか分からないながらも、株主からの様々なアクションを想定し、練り上げたシナリオと入念なリハーサルをもって、壮大な“儀式”に臨む・・・というのが、多数の一般株主を抱える一定規模以上の会社にとっては、毎年のルーティンになっているはずだ。

だが、そんなさなか、準備疲れでぼんやりしている頭に冷や水を浴びせるようなニュースを目にし、ささやかな衝撃を受けた。

川崎重工業は13日、臨時取締役会を開いて長谷川聡社長(65)を解任し、三井造船との経営統合交渉の打ち切りを決めたと発表した。同日付で社長に村山滋常務(63)が昇格した。26日の株主総会を直前にした異例のトップ解任について、記者会見した村山氏は「取締役会を軽視する行動があり、これ以上、業務執行体制の中核を担わせることはできない」と説明した」(日本経済新聞2013年6月14日付け朝刊・第1面)

川崎重工からの公式発表は、http://www.khi.co.jp/news/20130613_2.pdf であり、そこに書かれた代表取締役社長以下3役員の解職理由は、

「多数の取締役の意向に反した業務執行を強行しようとするなど取締役会を軽視した行動があった」

というごくあっさりしたものであるが、同じリリースの中に、三井造船との事業統合に関する過去の開示情報の一部訂正なども出されており、新聞各紙が報じているように、「造船事業の統合」をめぐる川重経営陣の一連の動きが、解職の引き金になった、ということは、容易に見てとることができる。


大企業のトップが臨時取締役会で解職される、というのは、頻繁とまでは言わないまでも、時々起きることだし(記憶に新しいところではオリンパスの例など)、「本人都合による辞職」とされていても、実質的には限りなく解職に近い例(例えば某F社の例など)もある。

そして、何らかの“不祥事”が絡むことが多かったこれまでの解職劇と比べると、今回の話は、単純な「経営をめぐる路線対立」の帰結のように思われる分、今のところ、企業存続に与えるインパクトは最小限にとどまっているように見える*1

ただ、この話が衝撃的なのは、株主総会を今月26日に控えている、という状況の中で、総会の招集者である代表取締役社長が解職されたこと、さらに、解職した3名の取締役を、そのまま事実上の「解任」に追い込むために、このタイミングで取締役選任に係る会社提出議案の差し替えを余儀なくされた(http://www.khi.co.jp/news/20130613_2.pdf参照)ということにある。

通常このパターンの“社長交代劇”であれば、解職された取締役が、次の総会前に自ら取締役辞任の途を取るのが普通だし、本人が辞任に難色を示すようなら、改選期に会社側が最初から再任取締役候補者に名前を入れない、という形で処理されるのが一般的だと思うのだが、今回は、社長解職のタイミングが、(総会担当者的な視点で言えば)あまりに悪かった。

新経営陣としては、3名の取締役を「コーポレートガバナンス及びコンプライアンスの見地より、不適格といわざるをえない」とまで断罪した以上、彼らを再任候補者とする選択肢は到底考えられないだろうから、この議案の一部撤回、新議案の付議、という手続きは理解できるところだとしても、事務方としては、総会の運営全般も含めて、通常の数十倍も神経を使わないといけなくなるのは間違いないところで、筆者自身も、毎年何らかの形では自分のところの総会に関与しているだけに、この会社の担当者の方々には、深い同情を禁じ得ないところである*2


なお、この解職劇によってもたらされた結果だけ見ると、今回の総会で、社外取締役が新たに選任された上に、取締役全体の員数も3名減少し(13名→10名)、世間的に見れば、“好ましいガバナンス体制が構築された”ということになるのかもしれない。

件の三井造船との事業統合にしても、短期的には決して収益に貢献するとは言い難い案件だったように思えただけに*3、会社にとっても話がポシャった方がプラスだった、という見方もできるところだろう。

ただ、臨時取締役会を経て、この先の株主総会を乗り切っても、「一部部門の取締役だけを切る」という、いびつな軌道修正を行ったツケは、必ずどこかで回ってくるはずで、総会後のマネジメントはおそらく一筋縄ではいかないはず。

いずれ、どこかで明らかにされるであろう内幕も含めて、この会社の「この先」が気になるところである。

*1:先述のとおり、過去の開示の修正はなされているし、当初の「そのような事実はない」というリリースでせっかくの特ダネに水を差された日経紙は、今回の報道のなかで、川重側の情報開示に対するスタンスをやんわりと批判していたりもするが、だからといってそこに何らかの違法行為があったとまで言えるわけではない。

*2:そもそも、社長が変われば、総会の議長も変わるのが普通で、それだけでも事務方の負担は相当大きい。13日の臨時取締役会でこうなることが決まった時点で、既にシナリオ変更の準備がフル稼働で始まっているのだろうと思うのだが、おそらく1ヶ月にも満たないであろう準備期間の中で、それを全部やり切らなければならない・・・というのは、想像しただけでぞっとする。

*3:中長期的なシナジーどうこう、という話もあるが、短期的に利益改善が望めないようなM&A案件が、中長期的にシナジー効果を発揮して会社の業績に貢献する、などということは、よほどのことがない限り、ありえない。

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