昨年以来、出版者隣接権創設、電子出版権創設、現行出版権の拡大(いわゆる中山提言)と、様々な案が目まぐるしく登場してきた「出版者の権利」問題だが、文化審議会著作権分科会に出版関連小委員会が設置され、審議が開始されてから3ヶ月も経たないうちに、何と「方針が固まった」という報道が流れた。
「文化庁は29日、インターネット上で電子書籍の海賊版が出回った場合、出版者が裁判で差し止めを請求できる『電子出版権』を創設する方針を決めた。来年の通常国会に著作権法の改正案を提出する考え。海賊版を抑止する法的な権利を出版社に与えることで、電子書籍が飛躍的に普及する期待がある。」(日本経済新聞2013年7月30日付け朝刊・第3面)
5月に審議会での議論が始まった時に示されていた「4つの選択肢」*1は、第2回(5/29)までのヒアリングで、早々と「(B)電子書籍に対応した出版権の整備」に絞られ*2、あとは各論をどう詰めるか、という話だけだったはずなのに、その後は、公表された議事録やTwitter実況等を見る限り、権利の主体、客体の問題に始まって、再許諾可能規定や出版義務の問題等まで、ずっと議論は錯綜したまま・・・。
また、「中山提言」の中にひっそりと盛り込まれていた「特定の版面に係る権利」という著作隣接権創設案の生き残りのような規定についても、複製権センター等の強い反対によって「企業内複製に対しては権利を及ぼさない」ということだけは決まったものの、それ以外の点については、まだ良く分からないまま議論が進んでいるように見える。
いつもの審議会メンバーの先生方(研究者、実務法曹)や出版関係者だけでなく、著作権者からユーザーまでを幅広くテーブルに付かせ、これまでそれぞれのステークホルダーが一方的に主張するだけだった「電子化時代の出版の在り方」について、インタラクティブな議論ができる場を設けた、という点で、今回の小委員会には画期的な意義が認められるのは事実であろう。
しかし、その一方で、利害関係者が一同に会した場を設けようとしたために、著作権に関するややこしい議論を本格的に行うにはあまりにも多人数で*3、かつバックグラウンドも異なり過ぎるメンバー構成になってしまったこと、しかも、依然として“議員立法”等のきな臭い動きが陰でちらつく中、この種の審議としては異例ともいうべき短期間でことを進めようとしたことが、傍から見ているものにとって、議論の行方を分かりにくくした面はあるのではないかなぁ・・・と思わずにはいられない。
「4つの選択肢」の中から、「出版権の整備」を立法手段として選択すること、さらに、その建付けとしては、「電子書籍に係る権利」を意識したものにすること、だけは、29日の審議を終えた時点でコンセンサスが得られた、というのが、所管庁の判断なのだろうし、今後の報告書のとりまとめも、おそらくはその線で進んでいくことになるものと思われる。
ただ、肝心の「各論」に関して、コンセンサスどころか、議論の足場すらまだ固まっているとは言えないような状況で、果たしてどのような形にアウトプットをまとめていくことになるのか、何とも予測しがたいものがある。
日経紙の記事の本文は、
「小委員会は今後、電子書籍の法律上の定義や電子出版権の存続期間など法的論点を協議、8〜9月をメドに中間報告をまとめる」(同上)
というところで締めくくられているのだが、これから暑い夏の真っただ中、納期に追い立てられながらの突貫工事を経て、中間報告に向けてどのような“たたき台”が示されるのか、そして、それを元に出版権の議論はどこへ向かっていくのか。
関係者のご尽力には敬意を表しつつも、拙速に過ぎる議論と理念なき妥協の上に出来上がった法律で、後々高い評価を受けられたものはそんなにあるわけではないんだよなぁ・・・という独り言をつぶやきながら、一体何が出てくるのか、生暖かく見守ることにしたい。
*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20130514/1368984520
*2:http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/shuppan/h25_03/pdf/sanko.pdf参照。あれだけ盛り上がっていた「著作隣接権の創設」については、経団連、JEITA、MiAUといったユーザー団体から、漫画家協会のような著作権者団体まで、予想された通りの反対意見が出された上に、積極的な賛成意見に括られたのは楽譜出版協会のみ、と、少なくとも審議会の場では、散々たる状況となった。
*3:第1回の出席委員は24名。http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/shuppan/h25_01/pdf/meibo.pdf。ヒアリングのみの出席者や、事務局等も合わせると、相当の人数になる。