「違法ダウンロード刑事罰化」規定をめぐる解釈論の終着点。

(注:記事タイトルを修正の上、加筆しました 8/4 18:30)

振り返るとちょうど1年前の今ごろは、改正著作権法の成立を受けて、様々な議論がなされていた時期であった。
立法に関わった文化庁の中の方々の講演だとか説明会だとかが、あちこちで行われて「公式の解釈」が示される一方で*1、それに対する疑義もあちこちで示されていて、果たして法施行後にどういう運用がなされるのか、担当者は軒並み困惑していた、というのが当時の空気だったと言えるだろう。

現実には、法施行後もそんなにドラスティックな運用がなされている、という話を聞かない上に*2、「違法ダウンロード刑事罰」に関しては、その後、各種改正法のコンメンタール等でも、“謙抑的な解釈”を志向する解説が定着しつつあることもあって、世の中的にはだいぶ落ち着いているように思える。

そして、そんな中、更に世の中を落ち着かせる“良薬(?)”として、平成24年著作権法改正に関与された池村聡弁護士の論稿がジュリストに掲載された。

連載中の「著作権法のフロンティア」*3の第8回、「違法ダウンロードの刑事罰化」というタイトルで掲載されたこの論稿*4

これまでの連載と同様に、サンプルの「設問」事例とそれに対する解説、により全体像を明らかにする、という構成なのだが、興味深いのは、10個挙げられた設問のうち、改正著作権法119条3項に照らして「違法」という見解が示されているのは、「典型的事例」として紹介されている、

(1)東京在住のYは、発表直後のアーティストAのシングルCDの音声ファイルがインターネット上にアップロードされているのを発見し、著作権者等に無断でアップロードされているファイルであることを十分認識しながら、個人で楽しむ目的で、自宅のパソコンにダウンロードした。Yの行為は著作権法119条3項により刑事罰の対象となるか(74頁)。

と、「第三者がパロディ化した場合」*5との比較で設けられている、

(6)(1)の事例で、ファイルはC国のサーバに無許諾でアップロードされていたものであった場合はどうか。なお、当該アップロードはC国においても著作権等侵害に該当するものとする(74頁)。

という設問の2つだけ。

それ以外の設問については、一見、刑事罰規定の対象となりそうで、「有償著作物等」の要件解釈等でことごとく「対象とはならない」という結論を導いている。

また、論稿の中でも、特に力を入れて書かれているように思われるのが、

(9)(1)の事例で、アップロードされているサイトには、権利者公認の期間限定無料配信である旨の虚偽記載があり、Yは、「もしかしたら違法にアップロードされたものかもしれない」という認識の下、ファイルをダウンロードした場合はどうか(74頁)。

(10)Yは、発売直後のアイドルDVDの収録映像が動画投稿サイトに投稿されているのを発見し、著作権者等に無断で投稿されたものであることを十分認識しつつこれを再生し、閲覧した。Yの行為は著作権法119条3項により刑事罰の対象となるか。Yがその後、パソコンのキャッシュフォルダからキャッシュデータを取り出し、これを再生することにより映像を閲覧した場合はどうか(74〜75頁)。

という2つの設問に対する解説である。

(9)は、「自らその事実を知りながら行って」という要件に係る認識の程度について考える設問なのだが、池村弁護士は、

刑事罰に関する規定である以上、条文の文言に忠実に解すべきであり、利用者において現実に知っていることが要件となるものと解される」(79頁)

とされ、従来の30条1項3号(「その事実を知りながら」)に関する「ダウンロード者の現実の認識ではなく、客観的に判断すべきである」*6という考え方は、119条3項の解釈としては採用できない、という見解を示したうえで、さらに「『違法かもしれない』程度の認識で足りる」*7という見解を、

故意犯である本項において、敢えて重ねてこうした要件を付している以上、ある程度確定的な認識が求められると解する」(79頁)

と退けている。

また、(10)については、YouTube等の動画投稿サイトで視聴した場合の119条3項該当性をめぐる議論*8を踏まえつつも、

「動画の視聴に伴うキャッシュデータの一時的保存については、47条の8(電子計算機における著作物の利用に伴う複製)、102条1項が適用されることにより権利が制限され、その結果、「著作権又は著作隣接権を侵害した者」との要件を充たさないことになり、本項の対象とならない」(80頁)

という見解を示しているし、「パソコンのキャッシュフォルダから取り出して再生する」という行為についても、法49条1項7号(複製物の目的外使用)を根拠に本項の対象となる見解があり得ることに言及しつつ、

「同号(注:49条1項7号)は、あくまでキャッシュデータを独立して視聴等したことをとらえ、複製物の目的外使用と評価し、視聴等をした時点で複製を行ったものとみなすのであって、ダウンロード時の録音録画が47条の8の適用により適法であるとの評価には影響を及ぼすものではない。」(80頁)

として*9、結論としては、視聴、再生のいずれの行為についても119条3項の刑事罰の対象外、という見解を示されている。


池村弁護士が、巷で流布されていた“あれもこれも処罰対象になってしまう”的な、“ダウンロード刑事罰規定怖い怖い論”に与されていないことは、共著で書かれたコンメンタールでのコメント*10等からも明らかだし、今回の論稿の中でも、「結びに代えて」の章(80頁)の中で、「罰則の適用範囲を拡大しようとする方向の見解」に触れつつ、「抑制的な解釈が強く望まれる」というご主張を改めて繰り返されている。

そして、そういった“抑制的解釈の精神”を具体的に示したのが、今回の論稿における各設問への回答だ、と理解することができるだろう。

解釈論以前に、今回のような立法が議員主導で行われた、ということ自体を問題視すべき、と考えるならば、新規定が孕むリスクを強調する、というプロパガンダにも一定の意義はあると思われるところで*11、昨年4月に立法の動きが現実化してから、今日に至るまでの“怖い怖い論”すべてを否定すべきではない、と自分は思っているのであるが、その一方で、現実に制定されてしまった以上は、法執行部門に安易な罰則適用を許さないような厳格な解釈論を意識的に展開すべき、というリアリズムにも共感できるところは多い。

その意味で、格調高い「ジュリスト」に、今回の池村弁護士の論稿が掲載された意義は大きいのではないか、と思うところである。

今後、不幸にも具体的な事例が現れた時に、この“謙抑的な”解釈がそのまま維持されるのか、それとも、現実に直面して初めて顕出する論点がまだ新たに出てくるのかは分からないけれど、個人的には、ここで示されている解釈論を一応の終着点として、違法ダウンロード刑事罰化規定をめぐる一連の議論が落ち着きを見せてくれることを願っている。

*1:永山前著作権課長のご講演などが、まさにその象徴と言えるべきものであった。

*2:技術的保護手段に関しては、改正法に基づく摘発のニュースもちらほら聞くところだが、違法ダウンロード刑事罰化については今のところニュースになったようなものはないし、当然ながら、新しい権利制限規定に関するあれこれが表舞台に登場することもまだない。

*3:中山信弘明治大学特任教授監修、小泉直樹慶応大学教授編集協力。

*4:池村聡「違法ダウンロードの刑事罰化」ジュリスト1457号74頁〜80頁(2013年)。

*5:三者著作権者に無断でパロディ化した場合においては「日本国内においては正規流通していない」ことから、「有償著作物等」の要件を欠き、119条3項の対象とならない、という見解が示されている(78頁)。

*6:ここでは、茶園成樹教授の見解として紹介されている。

*7:ここでは、鳥飼総合法律事務所の出版に係る解説書が引用されている。

*8:ここでは、週刊朝日の記事の壇俊充弁護士のコメントが例として引かれている。

*9:若干説明としては分かりにくいところもあるが、要は、「目的外使用」により権利制限規定が適用されず違法とされる、というのは、あくまで民事的規律の枠内での評価に過ぎず、そのような評価が、刑事罰規定における厳格な構成要件該当性判断に対して事後的に影響を与える、と考えるのはおかしい(ダウンロードの時点で「録画」行為自体が適法と解される以上、構成要件に該当しないという整理をすべき)、というような趣旨で理解できるのではないかと思われる。最初からキャッシュデータを繰り返し視聴する意図をもって動画投稿サイトにアクセスした場合は、理屈の上では別の考え方も出てくる余地もあるような気はするが、個人的には、このレベルの行為を刑事罰の対象とすること自体どうかと思うので、結論には全く異論はない。

*10:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20130503/1367858825参照。

*11:これは「罰則の適用範囲を拡大しようとする」ために行っているものではなく、更なる安易な議員主導の立法の動きへの“牽制”の意味合いが強いものだと自分は理解している。

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