白旗を上げるにはまだ早い。

夏の世界陸上、女子に続いて“復活”の狼煙が上がることが期待された男子マラソンは、中本健太郎選手が終盤まで先頭集団で粘り、五輪に続いて5位入賞、というまずまずの結果となった。

とはいえ、他の日本人選手は、中盤のペースの上下動に振り回されて、軒並み2ケタ順位に沈み*1、一番期待されていた堀端宏行選手は途中棄権、という結果だけに、まだまだ復活に向けては道半ばと言わざるを得ない。

で、レース後に注目されたのが、川内優輝選手に関する以下のような報道である。

「両手がしびれ、両足がつった川内はゴール直後に医務室に直行。約1時間後に報道陣の前に現れると、肩をがっくり落としていた。「冬の選考レースで結果を出しても、本番の夏でこれじゃ…。秋、冬だけ走る選択肢もある。いろいろ考えなければいけない」。16年リオ五輪を一度は断念する可能性も示唆した。」
「ほかの代表の方のすさまじい練習を聞いて、実業団の実態を知らなかったことを気づかされた。追い込みが足りない」。挑発を続けてきた実業団にも非礼をわびた。公務員ランナーは一からの出直しを誓った。」(強調筆者)

http://news.livedoor.com/article/detail/7961684/

今年の別大マラソン後のエントリーにも書いたとおり*2、フルタイムで仕事をしながらも、大きいレースに出て結果を残す川内選手の姿は、かつての“リーマン受験生”と共通するところがあるだけに、自分としては、↑を目にしたとき、“分からないでもないけどちょっと残念な”気持ちになった。

「今回こそは」と思って真剣に臨んだ舞台で結果が出せないと、当然落ち込む。
そして、日頃制約された環境の中で、本番に向けた準備を強いられている人であればあるほど、

「一日24時間をフルに本番への準備のために使うことができたなら・・・」

という思いに駆られがちだ。

自分もかつては、論文試験が終わるたびに凹んで、周りの受験生を見回しながら、「せめて直前期だけでも、一日6時間なり8時間なり、集中して机に向かうことができれば・・・」という気持ちが頭をよぎったものだし、そういった環境を確保するために“専業”に転身することも何度となく考えた。

「実業団の実態」云々の発言などを見ると、川内選手にも、もしかしたら、リオ五輪のために「実業団入りする」とか、「プロランナーになって専属コーチを付ける」とかいった気持ちが、芽生えていないわけではないのかなぁ・・・と思ったりもする。

だけど、冷静に考えれば、すでに一定のレベルをクリアしている人*3が、さらにその上のレベルを目指すために、そんなベタな選択肢を取ることがベストだとは必ずしも言い切れないわけで・・・。

環境が変わることがマイナスになることもあるし、目指すものに専念できる時間がたっぷりとれる分、考えすぎてスランプに陥ることだってあるだろう*4

そして何より、「時間を確保してたくさん練習すること」が本当にブレイクスルーを生み出すことにつながる、という保証はどこにもない。
「あと一歩」の原因は、本当はもっと違うところにあって、それまでと同じやり方を続けていればもう少しのところで、それに気づけていたはずなのに、ガラッと環境を変えてしまうことで、自分が抱える課題の本質的な解決からかえって遠ざかることもあるかもしれない・・・。


川内選手が勝負をかけている世界は、自分のような人間に想像できるような世界では、本来ない。
単に五輪に出る、にとどまらず、その中でさらに高みを目指そうと思えば、一般人の経験則など何の参考にもならない、というべきなのだろう。

ただ、それでも自分は、川内選手には、“雑音”に負けずに、今の環境のままで世界の頂点を目指してほしい、と思っている。
追い込みたい時に、満足いくまで追い込めない環境でも、白旗を上げることなく、工夫を重ねることで、目指した場所に辿り着ける可能性はきっとあるはず。

リオまであと3年。
元“社会人受験生”としては、“兼業ランナー”としての川内選手の活躍を願ってやまない。

*1:いったん大きく後退してから、終盤にかけて盛り返したところは評価されるべきだと思うけど・・・。

*2:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20130203/1359914301

*3:ラソンで言えば、冬場のレースで国内の代表選考をクリアできるレベル、(だいぶ低い次元の話になるが)司法試験で言えば、短答試験をクリアして論文の上位半分くらいに食い込めるレベル、くらいだろうか。

*4:慌ただしく時間に制約のある環境では、考えなくてよかったことまで考えて込んでしまって、かえって調子を崩すこともあるんじゃなかろうか、というのは、自分が“専業”の人たちを見て思ったことでもある。あくまで想像だけど。

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