天国と地獄へのエレベーター

今年のJリーグで開幕当初から勝ち点を積み重ね、5月6日の第10節(サンフレッチェ広島戦、2-1)で「J1・21戦無敗記録」という驚異的なリーグ新記録を打ち立てた大宮アルディージャ

代表に入るような華のある日本人選手こそいないものの、初めて日本のチームで監督を務めてからはや10年以上経つ、名将ベルデニック監督が手堅く守備を固め、スロベニアから来た長身FW2枚看板を攻撃の切り札にして、鹿島、浦和、柏、そして広島という上位チームをなぎ倒していく姿は、マンネリ気味だったJ1の優勝争いに新風を吹き込むもの、として、様々なメディアで驚嘆の声とともに報じられたものだった。

だが、首位を快走していた前半戦の日々は幻だったのか、コンフェデ再開後3戦目の横浜Fマリノス戦で今季2敗目を喫したのを境に、負けが込み始める。

あれよあれよ、という間に、8月28日の川崎フロンターレ戦を落としてとうとう8連敗。

プロ野球とは異なり、試合間隔が比較的空く上に、かなりの確率で引き分けになることが多いプロサッカーの世界で、8試合も連続して「黒星だけ」というのはそうでなくても珍しいのに、ましてや、それが、7月10日までは快進撃を繰り広げていたチームがこれをやってしまった、とくれば、何を信じれば良いのか分からなくなる。

「21戦無敗のころに比べてプレスが2歩も3歩も甘く、相手に自由にプレーするスペースを与えすぎた。8連敗中の失点は計19点。リーグ屈指といわれた堅守が一転、ザルのようになっている。FWノバコビッチは「プロとして修正すべきだ」と苦言を呈した。」(日本経済新聞2013年8月29日付け朝刊・第39面)

ちなみに、大宮が「21戦無敗記録」を達成した5月6日(第10節)と、7連敗となった前節(第22節、8月24日)の先発メンバーを比べてみると、実に興味深いことが分かる。

5月6日 対サンフレッチェ広島(第10節)
GK1 北野 貴之
DF2 菊地 光将
DF8 下平 匠
DF17 高橋 祥平
DF27 今井 智基
MF6 青木 拓矢
MF9 チョ ヨンチョル
MF13 渡邉 大剛
MF23 金澤 慎
FW11 ズラタン
FW19 ノヴァコヴィッチ

8月24日 対柏レイソル(第22節)
GK1 北野 貴之
DF2 菊地 光将
DF8 下平 匠
DF17 高橋 祥平
DF34 片岡 洋介
MF6 青木 拓矢
MF9 チョ ヨンチョル
MF13 渡邉 大剛
MF23 金澤 慎
FW11 ズラタン
FW19 ノヴァコヴィッチ

太字にしたのは、第10節と第22節の両方に先発メンバーとして出場している選手。
要するに、先発メンバー11人中10人は、無敗記録を継続していた時も、連敗の泥沼に嵌っている時も変わっていない、ということになる*1

通常、Jリーグで強かったはずのチームが泥沼に嵌る時、というのは、主力選手(特に外国人選手)がリーグ中断期間中に中東あたりのリーグに引き抜かれてしまったり、あるいはチームの支柱になっていた選手が負傷で長期離脱を余儀なくされたり・・・というパターンが多いのだが、今回に関しては、必ずしもそういった決定的な事情があるわけでもなく*2、一番大きな変化は、連敗が原因で、ついこの前まで“神”扱いされていた監督が変わったことくらい・・・というのは、何と皮肉なことか*3

サッカーは、ずば抜けた能力のある選手をいくらかき集めても、「チーム」として機能しなければ、個々の選手の力量では明らかに格下のはずの相手にも、容易には勝てない、という“リアル・チームスポーツ”である*4

そして、それゆえ、つい前年まで優勝争いに絡んでいたチームであっても、開幕前のチューンアップに失敗したがゆえに、シーズン初めから調子を立て直せないままガラッと崩れ、そのままJ2降格の憂き目を見る、といったシーンもこれまで何度も見てきた。

だが、今年の大宮は、メンバーも戦術も大きく変わったわけではないのに、前半戦と後半戦とで、全く“別の顔”を見せている、という点で、後にも先にも比類なき、「歴史に残るチーム」(笑)だと言える。

前半戦の貯金が未だに残っている(8連敗してもまだ6位に踏みとどまっている)がゆえに、このまま今季の残り試合で負け続けたとしても、大宮がJ2に陥落することはないだろうけど、今の泥沼を抜け出せないまま来シーズンに突入してしまうと、そちらの方がいよいよ危ない。

「誰の心の中にもある 天国と地獄へのエレベーター 考え方一つでどちらにでも行けるのさ」
♪「天国と地獄へのエレベーター」詞・槇原敬之

と歌ったのは槇原敬之だが、地獄に向けてまっさかさまに落ちているように見える急降下エレベーターを、いつ、どんなきっかけで、再び“天国行き”に変えられるのか。

ここから3試合は「好調な前半戦でも全部で勝ち点1しか取れなかった相手」(横浜F・マリノス、新潟、仙台)との対戦が続くだけに、依然として正念場が続くと思われるが、いつ、どのような形で、大宮の名門チームが「急降下」を食い止められるのか・・・ということも気になるだけに、もう少しこのチームをフォローしてみたい、と思うところである。

*1:なお、7連敗した後の今節では、GKを含むメンバー入れ替えを行っている。

*2:もちろん後半戦が始まってまもなく、両スロベニア人FWの欠場が続いた時期が、連敗街道が始まった時期と重なっており、全く影響がなかったとまでは言えないと思うし、決して平均年齢が若くないチームで、前半戦から記録のプレッシャーの下で走り続けたツケが、(露骨な故障離脱こそないものの)各選手のパフォーマンスの低下、という形で現れている、という見方もできなくはないのだが・・・。

*3:ジェフでもグランパスでも名将として評価されながら、優勝タイトルには縁がなかったベルデニック監督に、今年は遂に光が当たる年になる・・・はずだったのだが、一体チームの中で何が起きたのか。いつか語られる日が来ることを待ちたい。

*4:その点、絶対的エースが相手を完封する、あるいは上位打線が頑張って点を取れば勝てる野球とはだいぶ趣を異にする。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html