「Jリーグ」が守らねばならないもの。

リーグ開幕からはや20年。
小ぢんまりと10クラブでスタートしたリーグは、じわじわと裾野を広げ、まもなく「J3」というカテゴリーまで出来ようとしている。

最近では、全国どこへ行っても、“おらが町”のチームの応援ポスターを見かける機会が増えた。
企業スポンサーに頼ることなく、地域に密着して全国の街にクラブ文化を広げる、という壮大な理念が、緩やかなペースながらも、確実にこの国に浸透してきているのは間違いない。

だが・・・

ここに来て唐突に浮上した「2ステージ」制復活計画、そして、その理由として語られる“深刻な事態”を目の当たりにすると、理念の実現に向けて進んでいくことの難しさを改めて感じさせられる。

Jリーグは11日、J1・J2合同の実行委員会を開き、2015年からJ1を2ステージ制に戻す方針を決めた。最大5クラブが出場するプレーオフも同時に導入する。シーズンの山場を増やし、注目度の高いプレーオフを行うことで、ファン獲得や収入拡大につなげる狙いがある。17日の理事会で正式に決める。」(日本経済新聞2013年9月12日付け朝刊・第37面)

かつて2ステージ制をとっていたJ1リーグが「1ステージ」制に移行したとき、多くのサポーターは、「これでJリーグも本場のリーグに一歩近づいた」と思った。

そして、それから何シーズンも重ね、長いシーズンを通じての浮き沈み、喜怒哀楽、それゆえの面白さ・・・を、誰もが素直に味わえるようになっていたはずだった。

なのに、そんな熱心なサポーターの思いに背を向けるような「2ステージ」制への“再移行”。
これを“愚策”と批判することはたやすい。

だが、欧州のサッカーシーンにまで目配りしてサッカーを楽しむコアなファンなら、皆、がっかりするのは分かり切っているこの施策を、分かっていてもあえてやらなければならない、というところに、自分は事態の深刻さを感じざるをえなかった。

記事によれば、今年の1試合平均の観客動員数はピーク時より約3000人少なく*1、昨季のJ1クラブの営業収益はピーク時より3億円少ない。

BS、CS放送が充実し、コアなファンが試合を見られる機会がJ開幕当時と比べて大幅に増えた一方で、地上波の中継は年々減少し、昨季はわずか7試合。Jクラブに関心がある人とそうでない人がくっきりと分かれてしまっている、というのが、現状だと言えるだろう。

普段Jの試合を見ない一般人をもう一度振り向かせ、サポーターの裾野を広げるためには、メディアがこぞって取り上げるような「目玉」が必要。そしてそのためには、普通のリーグ戦とは異なる“新たな舞台”を築くしかない・・・

関係者がそういう思いに駆られて、「2ステージ制回帰」を打ち出さざるをえなくなったのだとしたら、一体誰を責めることができようか。

長年、日本のサッカーに対して厳しいコメントを残してきた日経の吉田誠一記者をして、

「これはリーグのあり方としては理想形でない。理想の追求を後回しにして、実を取りにいく。そこまでリーグは追い込まれている。」

と言わしめた今回の“決断”の裏には、これまでリーグを育ててきたスタッフたちの涙が見えるような気がしてならない。


自分は、この際、「実」を取るために、2ステージ制&プレーオフを一時的に導入すること自体はやむを得ないことだろう、と思っている。

1ステージでも2ステージでも、一つひとつの試合を切り取れば、そこには変わらないサッカーの熱狂がある。
そして、そういう試合一つひとつを積み重ねていけば、その時々の試合を応援しにスタジアムに足を運ぶサポーターの気持ちは満たされる。

Jリーグが真に守らなければならないのは、全国にあまねくクラブ文化を広める、という壮大な理念であり、どんなに素晴らしい欧州基準に合わせたリーグのスタイルを作ったところで、“おらが町”のチームが経営難で続々と姿を消すようになってしまっては元も子もない。

ただ、同時に、恥も外聞もかなぐり捨てて「クライマックスシリーズ」で誘客を図ったプロ野球が今陥っているような、「最後の何試合かの重さゆえにリーグ戦自体が低調に推移する事態」は、何としても回避されなくてはならない・・・と思うのも事実なわけで、ズルズルと“プレーオフ慣れ”してしまうチームが出てくる前に、どこかでもう一度、軌道に乗ったら“理想形”に戻す、というポリシーを、関係者の方々には忘れずに持ち続けていてほしいなぁ、と思わずにはいられない。

当面は「最後」の1シーズン制となるであろう、来年のリーグ戦の真ん中当たりの時期に、日本代表がブラジルで“奇跡”を起こし、サバイバル的なちまちました発想が一掃されるような大ムーブメントが湧き起こる・・・なんてことになれば、シナリオとしては最善の展開、と言えるのであるが・・・。

今はもう少し、この国の(まだまだ)若いリーグの行く末を見守っておくことにしたい。

*1:今年に関しては、サポーターの動員力があるG大阪と神戸がいずれもJ2に落ち、代わりに大分や湘南、といったチームが上に来ている、という事情もあるので、数字だけ単純に比較するのが妥当かどうかは怪しいのだが、年々動員数が低下傾向にある、という事実はやはり否定することができない。

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