これもまた「断層」

最近、スポーツライター金子達仁氏の「断層」という名作の記憶が、頭の中で蘇った。

金子達仁ベストセレクション〈2〉「伝説」

金子達仁ベストセレクション〈2〉「伝説」

久々の五輪に乗り込み、しかも初戦でブラジルを倒して世界に一歩近づいていたはずのアトランタ五輪U-23代表の運命が、攻撃陣と守備陣の亀裂の中で暗転していく、という実に興味深いノンフィクションで、Numberに記事が掲載された直後も、金子氏の単行本が出版された時も、何度となく読んだ作品である。

そして、海外の強くて大きい選手たちと対峙したDF陣が、必死の思いで相手の攻撃に耐え、数少ないボール保持の機会を生かすべく攻撃陣にパスを出しても、前線の選手たちがボールをキープできずに、あっという間に再び相手の攻撃にさらされることになる・・・具体的な選手名まで書かれていたかどうか、といった記憶は定かではないが、そんな状況に苦しめられた当時のU-23代表守備陣の選手たちの悲痛な叫びがそこに描かれていたことだけは、鮮明に覚えている。


・・・で、今、そんなことを思い出しているのは、2試合続けて、日本代表の不甲斐ない試合を見せられたせいでも、あの時のU-23代表のヒーローだった元サッカー選手に変なところで注目が集まったニュースを耳にしたせいでもない。

ただ、条件提示の仕方にしても、ブラフの利かせ方にしても明らかに上手な相手方から、自陣に容赦なく仕掛けられる無茶なオーダーの嵐を必死で受け止め、自分でもこれまで何度も味わったことのないスピード感で切り返し続けているつもりなのに、前線で相手と対峙しなければいけない立場にある部隊が、勝負を挑むことすら避け続けて、一瞬で攻撃権を相手に譲り渡してしまう・・・

そんな状況を短期間のうちに何度となく味あわされるうちに、ふと頭に浮かんだのが、あの作品だった。

せめて、「ライン押し上げろ」と叫んでくる、当時の中田英寿みたいなプレイヤーがいれば、もっと闘志もかきたてられるのだろうけど、現実には、そんな野心を示すものすら誰もいないまま、前線との距離ばかりが開いていってしまう。

それが今は、とってもさびしく、残念に感じられる。


まだ、当時、W杯に出場した歴史もなく、世界の大舞台に駒を進めるだけで舞い上がって我を忘れてしまっていたようなジャパンブルーが、その後、W杯出場常連国となり、時々は強豪相手に“あわや”を演出できるようなチームになって、ドーハもオーランドも懐かしい記憶にできるようになったのと同じように、いつか、我らも・・・という思いはもちろん持ちながらやっているし、それゆえに、この過酷な何週間かの間も、気力と根性で睡眠不足を補っているのだけれど・・・。

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