負けてなお強し。

日本列島を直撃するはずだった台風が、名残雨だけ残して南海上に去っていった週末、今年も秋の天皇賞が行われた。

土曜日の時点では、それまでの大雨の影響もあって、かなり重めの馬場状態。
そして、それゆえ、元々、“逃げて勝ち続ける上がり馬”として注目が集まっていたトウケイヘイローに一気に注目が集まった感があった。

だが、ペース配分が難しい2000mのG1、そして、何度も劇的な逆転劇を我々の脳裏に刻みつけてくれた東京の長い直線を、最後まで先頭で突っ走ったまま逃げ切るなんて芸当は、ポッと出の馬にできるものではない*1

テレビメディアでは、1番人気に推されたジェンティルドンナに対して、やれ休養明けが不安、だとか、今年に入ってから1勝もしていない、とか、所詮は牝馬、といった不安材料を煽りたてて盛り上げようとする独自の演出(?)が2日間にわたって試みられていたが、彼女の場合、“ただの三冠牝馬”ではなく、“3歳秋にジャパンカップを勝った「年度代表馬」である。

今年の戦績にしたって、ドバイでの2着と宝塚記念の3着、と2走続けて牡馬と混じってのG1好走を果たしているのだから*2、本来なら今年のメンバーで死角などあるはずがない。

そして、ゲートが開いた後は案の定。

最初の1000mを58秒台前半、と速めのラップ*3で刻んでいくトウケイヘイローを、2番手でぴったりとマークして突っつき、直線の入り口ではもう余裕のない状況にまで追い込む。

本来であれば、もう少し後ろから追走して、末脚の切れ味を生かすのがジェンティルドンナ本来の持ち味だと思うのだが、この馬には先行しても簡単にはバテない強みがあるし、雨上がりでも比較的状態が良好な内側のコースを押さえたい、という岩田騎手の判断もあったのだろう、残り4ハロンの標識を過ぎ、トウケイヘイローを横目に見ながら交わし、最内絶好のコースでジェンティルがまさに抜け出さんというアクションを取った時には、無人の荒野を行くがごとき圧勝・・・という翌日の新聞の見出しが、一瞬頭の中をよぎった。


結果的には、32秒台の末脚を持つジャスタウェイに、まさに“はまった”という感じの出し抜けを食らい、4馬身差を付けられての完敗。

先週念願の牡馬クラシック制覇を果たしたばかりの福永祐一騎手の勢いゆえか、あるいは、ジェンティルの父に国内唯一の黒星を付けながらも最後まで“主役”の座は奪えなかったハーツクライの血が東京コースでリベンジを果たさせたのか*4、は分からないけれど、今回のレースに限っては、ジャスタウェイに流れが来ていたのは認めざるを得ない。

でも、休養明け初戦に、あれだけのハイペースを追走しながら、最後の直線に入っても勝ち馬を除いては、文字通り影を踏ませないまま駆け抜けた*5、という結果を見て、改めて彼女に惚れ直したのは、筆者だけではないだろう。

陣営が睨んでいるこの秋の本番が、一叩きした後のジャパンC連覇、なのだとすれば、負けてなお強し、だった今日のレースも、きっと次につながる。

そう思いながら、年内の彼女の雄姿を、再び楽しみに待つことにしたい。

*1:ついでに言えば、いくら今シーズン乗れている、といっても、武豊騎手がG1レースを逃げ切りで勝つ、というイメージはなかなか湧かない。横綱勝負ができる馬に、ミスなく横綱勝負をさせて勝つ、というのが武豊騎手のこれまでの大舞台での勝ち星の大半を占めるパターンであり、騎乗馬の超越的な力ゆえ、唯一“影すら踏ませずに”勝つ可能性があった1998年の秋の天皇賞も、結局は悲劇の幕切れだった。

*2:宝塚記念は本来なら勝ってほしかったレースで、自分もあの敗戦には失望を隠せなかった(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20130623/1372179204)のは事実だが、だからといって、ここまで貶められては良いはずがないだろう・・・と、メディアの一連の解説には憤りすら感じた。

*3:今年は若干雨の影響が残っていたのと、シルポートが出走していなかったw分、去年(56秒台)、一昨年(57秒台)に比べると遅めの数字になっているが、それ以前の数字と比べると、明らかに速い。

*4:前年の有馬記念で無敗の三冠馬ディープインパクトに初めて土を付け、その後の海外遠征で結果を残した後、ディープを返り討ちとすべく臨んだ2006年のジャパンカップで、ハーツクライは大惨敗を喫し、そのまま引退に追い込まれた。

*5:昨年の覇者、エイシンフラッシュ以下に、2馬身以上の差を付けた。

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