真の勝者を忘れるなかれ。

日本シリーズも終わり、これから来年のソチ五輪に向けて、ウィンタースポーツ系のニュースがヒートアップしそうな気配もある中、フィギュアスケートの「東日本選手権」に突如としてスポットライトが当たった。

「4月に女児を出産して3季ぶりに復帰したフィギュアスケートの元世界女王、安藤美姫(新横浜プリンスク)がソチ五輪へ望みをつないだ。4日に前橋市群馬県総合スポーツセンターアイスアリーナで行われた東日本選手権で、合計147.21点の2位となり、五輪代表最終選考会となる全日本選手権(12月、埼玉)への進出を決めた。」(日本経済新聞2013年11月5日付け朝刊・第33面)

元々、この競技では(というか、五輪競技全体を見回しても)、極めてレアな“母でも五輪”というストーリーを抱えて表舞台に復帰し、好奇の視線に晒されながらも、五輪代表選考を賭けた決戦の場へ、一歩一歩近づいている安藤選手は、そうでなくても注目の的。

そして、前日、ショートプログラムの演技を終えた時点で「13位」と大きく出遅れたことが報じられ*1、本人も、

「日本で滑る最後の試合になるかもしれない。悔いの残る終わり方をしたくなかった」(同上)

という悲壮な覚悟で臨んだ演技だっただけに、そこにスポットライトを当てること自体は悪いことではない。

ただ、自分は、ネット上のスポーツニュースや日経紙の紙面で大きなボリュームを割いて報じられた安藤選手のニュースを見るたびに、名実ともに東日本フィギュア(女子シニアの部)を制した選手のことを思わずにはいられなかった。

ショートプログラムは59.81点で首位。
フリーでも、安藤選手に僅かに届かなかったものの、PCSでは5要素すべてで安藤選手を上回り、計104.54点。
そして、2日間の合計スコアは、堂々の164.35点で、2位・安藤選手には20点近い大差を付けたのが、明治大学所属の西野友毬選手である*2

かつてジュニアの新星としてスポットライトを浴びたのは、もう6シーズンも前のこと(2007-08年)になるが、その後も粘り強く競技を続け、全日本フィギュアではここ3シーズン8位以内の成績。そして、東日本選手権では一昨年3位、昨年2位、と来て、今年は遂に初優勝を果たしている*3

フリーのスコアシートを見ても、冒頭の3回転ルッツ-2回転トゥループ(基礎点7.30点)に加点を付け、終盤の3回転サルコウ-2回転トゥループも決めている*4。しかも、元々得意ではないスピンでレベル2までしか出せていない安藤選手を後目に、足替え、レイバックと2種類のスピンでレベル4を叩きだしている*5

先述したPCSのスコアの高さと合わせて推測するならば、明らかに“見栄え”では、安藤選手を上回る演技だったはずなのだ。

なのに・・・

一種の“予選会”に過ぎないローカル大会で、例年なら一般紙ではほとんど報じられることがない大会、とはいえ、わざわざ安藤選手の取材に大量の報道陣が押し寄せていながら、名実ともにこの大会の勝者だった西野選手の存在に全く触れていない記事があまりに多かった、というのは、とても残念な気がした。


ちなみに、大会も審判員も異なる、という環境の下で、スコアの単純比較などできないことを承知で乱暴に論じるならば、今回の西野選手の優勝スコアは、同じ日程で行われた西日本選手権の女子シニアの優勝者(中塩美悠選手)のスコアを8点近く上回っており、昨年の日本選手権での自身のスコアをも上回っている*6

それでも、昨年の全日本では7位相当のレベルに過ぎないし、グランプリシリーズ常連組+台頭するジュニア世代、という強敵たちを前に、上位に食い込むには、もう一段登っていかないと厳しいのかもしれないけれど*7、グランプリシリーズ参戦組の中ですんなり五輪代表が決まりそうな男子とは異なり、女子に関しては、まだ一波乱ありそうな予感がするだけに、全日本の舞台でベストを尽くして、11月には自らの脇を通り過ぎて行ったスポットライトを引き寄せるような結果を残してくれたらなぁ、と思わずにはいられない。

移り気な世の視線は、ちょっとしたきっかけで、新しい“主役”を生み出すものだから・・・。

*1:といっても、純粋にスコアだけ見れば、全日本圏内だったSP5位の選手(庄司理紗選手、最終結果は4位)と、僅か5.58点の差しかなかったから、フリーで普通に演技すれば逆転できる状況ではあったのだが・・・。

*2:スコアはhttp://www.jsfresults.com/National/2013-2014/fs_j/east/data0290.htm参照。

*3:http://skatingjapan.or.jp/national/detail.php?athlete_id=42参照。

*4:安藤選手が加重がかかる中盤以降のジャンプをほぼノーミスで決めたために、TESのスコアでは後塵を拝したが、それでも3点弱の差しかない。

*5:http://www.jsfresults.com/National/2013-2014/fs_j/east/data0205.pdf

*6:ちなみに昨年の全日本フィギュアで西野選手はSPで4位発進。フリーは最終グループに入ったものの、そこで崩れて7位、という結果だった。

*7:今回発表されている五輪選考基準による限り、世界ランキング上位にいない選手が大逆転で五輪切符をつかむためには、全日本フィギュアで2位以内に食い込むことがほぼmustな条件だと言える。

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