「みずほ」という名の“生贄”と、それに抗する事業者の矜持

今年の10月末に特別調査委員会の調査報告書が公表され、その内容を見る限り、「もうこれで十分でしょう」という感想しか出てこなかった「みずほ銀行提携ローン問題」。

このブログでも、2回に分けてエントリーをアップし*1、世の中の批判の多くがいかに的外れなものか、ということを指摘したところだったのだが、落ち着いたはずのこの話が、年末に来て再び蒸し返され、日経紙の紙上を連日賑わせることになってしまった。

そのきっかけとなったのが、12月26日付けで金融庁が発表した行政処分http://www.fsa.go.jp/news/25/ginkou/20131226-1.html)であるのは間違いない。

平成26年1月20日(月)から平成26年2月19日(水)までの間、4者提携ローンにおける新規の与信取引を停止する」

というメインの処分自体は、提携ローン業務のみずほBKの業務全体におけるボリュームを考えると、決して見かけほど重い処分ではない、という見方があり得るのかもしれないし、事態を収拾するための落としどころとしては、穏当なものと評価する余地もあるのかもしれない。

ただ、それと合わせて出されたみずほ銀行に対する、

2.業務の健全かつ適切な運営を確保するため、以下を実施すること。
(1)本処分を踏まえた経営責任の所在の明確化
(2)内部管理態勢及び経営管理態勢の強化
(3)当行が当局に提出した業務改善計画(平成25年10月28日付) について、(株)みずほフィナンシャルグループと協同して、その後の進捗状況及び今回の業務改善命令を踏まえて修正するとともに、速やかに実行すること。

といった命令、さらには、持ち株会社であるみずほFGに対して出された、

1.銀行持株会社の子会社である銀行の業務の健全かつ適切な運営を確保するため、以下を実施すること。
(1)本処分を踏まえた経営責任の所在の明確化
(2)傘下の金融機関に対して適切な経営管理を行うための態勢の強化
(3)(株)みずほ銀行が当局に提出した業務改善計画(平成25年10月28日付)について、当社も協同して、その後の進捗状況及び今回の業務改善命令を踏まえて修正するとともに、速やかに実行すること。

といった命令は、正直言ってこれ以上何を・・・という感があるし、さらにこの処分への対応策、という趣旨なのか、処分発表以降、「みずほFGが委員会設置会社へ移行」(日本経済新聞2013年12月26日付け朝刊・第1面)だとか、「塚本会長、来年3月辞任」(日本経済新聞2013年12月27日付け朝刊・第1面)といった大見出しが次々と登場してきたことについては、全くもって驚きを禁じ得ない。

そもそも、上記金融庁HPで公表されている「処分の理由」に記されている内容は、10月時点でみずほ側が公表していた内容と何ら変わりないわけで、既に行われている処分以上の何かが必要な状況とまでは言えないはず。にもかかわらず、次々と出てくる一連の報道を見ると、「反社」という切り口を使って、我が国有数のメガバンクグループの経営体制に必要以上に介入しようとする何者かの“思惑”があるのではないか・・・とすら、勘繰りたくなってしまう*2


奇しくも、みずほFGに対する金融庁の処分を待つかのように12月27日付けで公表されたオリコ側の「検証報告書」*3においては、オリコと反社勢力との“癒着”の疑惑をきっぱりと否定した上で、みずほ側の報告書では「不十分」と指摘されていた“入口チェック”に関する反社会的勢力排除体制について、以下のような見解が示された。

「もっとも、反社会的勢力排除のためのデータベースに登録される情報としては、反社会的勢力に該当する「疑い」のある情報まで広く含めて登録し、完全な情報の一致をみなくとも、疑いのある顧客との契約はより広く排除すべきという考え方もあり得ると思われる。この問題は、契約の相手が反社会的勢力であることにつき「疑い」がある場合に、その不利益を誰に帰せしめるのが相当か 、という問題である。確かに、反社会的勢力排除の観点のみを重視すれば、もとより「疑い」にとどまる情報まですべて含めた幅広いデータベースを構築して排除し、それにより、結果として、本来排除すべきでない相手まで排除してしまうこととなったとしても、反社会的勢力排除のためのやむを得ないコストと捉えるという考え方(「疑わしきは顧客の不利益に」との考え方)もあり得るであろう。しかしながら、企業は、反社会的勢力排除のみを目的とする存在ではもとよりなく、営利を目的とする経済活動を行う主体であり、その本来の存在意義を忘れることがあってはならない。 また、いかに契約自由の原則とはいっても、属性に関する根拠を得ていない情報に 基づいて顧客からの申込みを拒絶することは、企業の経済的自由を逸脱する不適正な与信判断と解される余地がないとはいえない。 政府指針も、あくまでも企業の保護という観点から策定されたもので、いまだ反社会的勢力かどうか確実にはわからない相手との一切の関係遮断までをいうものとは到底思われない。 当検証委員会としては、排除されるべき反社会的勢力を取引から排除することはもとより重要であるが、逆に、排除されるべきでない者を取引から排除することがあってはならないこともまた同様に企業に求められた社会的な要請と考えられる。反社会的勢力の「疑い」による不利益をすべて顧客に帰せしめたうえ、「疑わしきは顧客の不利益に」として、属性根拠を確認できない顧客や必ずしも登録情報との厳密な一致まで 確認されない顧客を取引から排除してしまうことは、信販会社に求められる社会的要請に必ずしも沿うものではないと考える 。その意味で、反社会的勢力排除のための基幹システムの登録にあたり、自社の「反社会的勢力」の定義の該当性や人物を特定するに足る十分な情報を要求するオリコの体制・運用は、取引から排除すべき人物を排除すると同時に、取引から排除されるべきでない顧客への配慮をも伴ったものといえ、信販会社における反社会的勢力排除のための相当な措置として評価し得る。」(3〜4頁、強調筆者、以下同じ)

「オリコは、平成 23 年1月以降、みずほ銀行から「反社会的勢力」に該当すると認定された顧客情報の提供を受け、自社の基幹システムへの要注意情報の登録を行い、当該顧客との間で、新たな契約関係が生ずるのを防止する措置を講じた。オリコがみずほ銀行から提供された反社会的勢力に関する情報には裏付け資料がなく、反社会的勢力の「疑い」があるにとどまるもので はあるが、その一方で、両社間で反社会的勢力の定義をすり合わせるなどして限定的に提供された情報であるから、一応の信用を措くことのできる情報といえ、これに基づき基幹システムへの要注意情報の登録を行い、以後の新たな契約取扱いを禁止するとの措置を講じたことは、 オリコにとってはやむを得
ない措置であったと考えられる。 他方、それよりさらに進んで、当該顧客との即時の関係解消まで行うには、みずほ銀行より提供された情報は十分なものとはいえない。また、反社会的勢力の「疑い」が生じたことによる不利益を常に顧客に帰せしめることができないことは先に述べたとおりであって、 オリコが、みずほ銀行から提供された情報に基づいて、顧客との即時の関係解消 まで行うべきであったとの見方については、当検証委員会としては与することができない。また、オリコは、みずほ銀行とのキャプティブローンに関し、顧客が正常な弁済を継続している限りは、連帯保証人兼集金代行業者の地位にあるにとどまり、主債務そのものには何ら管理処分権を有しない立場 にある。オリコは、主債務者が債務の弁済を怠ったことにより、みずほ銀行に対して代位弁済を行うことにより初めて主債務者に対する求償権者としての地位を取得するに過ぎない。したがって、顧客が反社会的勢力である疑いが生じた場合であっても、正常な弁済が継続している限りは、顧客に対する債権者の地位にないオリコのなし得る対応には自ずと限界があり、その意味でも、債務の完済を待ったうえで顧客(主債務者)との関係を解消するとのオリコの措置に疑問はない。(5〜6頁)」

いかに所管官庁が異なるとはいえ、金融庁が、「入口チェック導入等の態勢整備に主体的に取り組んでいなかったこと」を理由の一つに挙げてみずほ銀行への処分を行っていることを考えると、ここまで断言して大丈夫か・・・という気がしないでもないのだが、その一方で、「不利益を全て顧客に帰するべきではない」というポリシーに貫かれた上記オリコの報告書には、多くの一般顧客を相手にサービスを行っている事業者としての矜持が感じられ、個人的にも共感できるところは多い*4

大変残念なことに、「みずほ」をめぐる狂騒的な報道の前に、すっかり黙殺された形になってしまっている上記報告書だが、世論に晒された“生贄”に対して表面的な批判を加える前に、メディア関係者も法務・コンプライアンス業界の関係者も、是非一度目を通しておくべきだと思う。

そして、世論の風が、“反社”以上にいかがわしい“思惑”に手を貸すようなことがないように、責任ある立場にある者は、皆、“健全なコンプライアンスとは何か?”ということを常に自覚しながら、自らを律した報道、そして言動をしていただきたいものだ、と、年の終わりに強く願っている。

“風評バッシング”による不幸な被害者がこれ以上増えることがないように・・・。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20131106/1384103308http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20131107/1384103399参照。

*2:例えば「委員会設置会社化移行」を報じる記事においては、「取締役会の議論を洗い出してみると、議案1件につき平均5分程度しか時間を割いていないなど、活発な議論は行われていない」(2013年12月26日付け朝刊・第5面)といったコメントも付されているが、「委員会設置会社」にしたところで、今回問題とされたような「提携ローンへの反社入口チェックの導入」といった細やかな各論ベースの話題について「活発な議論」が行われるとは到底思えない(むしろ、そういった些末な話は、委員会設置会社の取締役会においては付議事項から外される傾向すらあるし、仮に付議、報告されたとしても、実務に通じていない社外取締役たちに実質的な議論を期待することは難しいだろう)。それゆえ、ここには「社外取締役を増やして委員会設置会社に移行させる」ことを信念としている何者かの影を感じざるを得ないのである・・・。

*3:みずほ銀行・オリコ間の提携ローン問題等に関する検証委員会」(宗像紀夫委員長)検証報告書(要約版)( http://www.orico.co.jp/company/news/2013/pdf/20131227_1.pdf

*4:「反社排除」という最終目的自体には何ら異論がないところだとしても、それを実現するための過程では、無辜の善良な市民に不当な不利益を課さないようにするための繊細な配慮が欠かせない。「反社」をめぐるステレオタイプの報道の多くには、この視点が決定的に欠けている、と自分は思うし、その視点を欠いたまま、慎重な配慮を行っている事業者を「取組不足」と批判して世論を煽るのは、社会のバランスを無視した暴挙だと思うところである。

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