年末に打ちあがった奇妙なアドバルーン。

今年も一年間、みっちりと審議が進められた債権法改正。
残念なことに、意見が分かれている論点については、明確な方向性があまり見えないまま、年を越すことになりそうだ・・・と思っていたら、年末の日経紙に突如として、一つのアドバルーン記事が掲載された。

「銀行などが中小企業へ融資する際の個人保証の制度改正を巡り、引き受け側の自発的な意思が確認できれば、経営者以外にも保証を認める方向となった。民法改正を検討する法務省が法制審議会の民法(債権関係)部会に素案を示し、ほぼ同意を得た。経営者に限定すると資金繰りや起業への影響が大きいとの懸念に配慮し、厳格な条件を満たせば例外を認める。」(日本経済新聞2013年12月29日付け朝刊・第1面)

この「個人保証の制限」をめぐる問題については、「保証人となった個人が保証債務の履行を迫られることによって悲惨な生活を迫られることになってしまう」という実態があることを重く見て、何としても制限する方向に持っていこうとする側と、「現在においても個人を保証人とする金銭貸付や継続的契約が広範に行われている以上、全面的な制限は混乱を招く」として制限に反対する側の意見が真っ向から対立しており、中間試案の段階でも、

第17の6
(1)次に掲げる保証契約は,保証人が主たる債務者の[いわゆる経営者]であるものを除き,無効とするかどうかについて,引き続き検討する。
ア 主たる債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(貸金等債務)が含まれる根保証契約であって,保証人が個人であるもの
イ 債務者が事業者である貸金等債務を主たる債務とする保証契約であって,保証人が個人であるもの

と、「引き続き検討」のステータスにとどまっていた。

そして、第三読会に入る直前の今年6月18日の法制審部会において、「部会資料62」(http://www.moj.go.jp/content/000111989.pdf)以下のような整理が示され、

1 経営者の範囲
仮に,中間試案第17,6(1)に従い,事業資金の貸付けについての個人保証は経営者によるものを除いて無効とするという考え方を採る場合に,経営者の範囲をどのように考えるか。例えば,次のような者による保証の効力について,どのように考えるか。
・法人の代表者
・理事,取締役,執行役又はこれらに準ずる者
・組合員,無限責任社員
・総社員又は総株主の議決権の過半数を有する者
・主債務者の業務を実質的に支配している者
・元経営者
・親会社,関連会社の経営者
・経営者の配偶者その他の近親者

第三読会に入り、11月19日に開催された法制審部会において、「部会資料70A」(http://www.moj.go.jp/content/000116375.pdf)の中で、

2 保証人保護の方策の拡充
(1) 個人保証の制限
次のような規定を新たに設けるものとする。
ア 主たる債務者が[事業のために負担した]貸金等債務を主たる債務とする保証契約(保証人が法人であるものを除く。)又は貸金等根保証契約は、保証人が次に掲げる者である場合を除き、効力を生じない。
(ア) 主たる債務者が法人その他の団体である場合のその代表者
[(イ) 主たる債務者が法人その他の団体である場合のその業務を執行する権利を有する者]
(ウ) 主たる債務者が法人である場合のその無限責任社員
[(エ) 主たる債務者に対し、業務を執行する権利を有する者と同等以上の支配力を有するものと認められる者]
(オ) 主たる債務者が法人である場合のその総社員又は総株主の議決権の過半数を有する者
イ 主たる債務者が事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権についての保証契約(保証人が法人であるものを除く。)は、保証人が前記ア各号に掲げる者である場合を除き、その効力を生じない。
ウ 保証人(法人を除く。)が自発的に保証する意思を有することを確認する手段を講じた上で、自発的に保証する意思を有することが確認された者による保証契約は、上記ア又はイにかかわらず、有効とするものとする。

という提案が示されているというのが現状である。

そして、日経紙の記事が、「保証人の範囲」として列挙している内容や、「厳格な条件」に関する、

「一方で保証を自ら進んで引き受ける意思を確認できた個人に限り、例外的に保証人となることを認める。(略)意思確認は公正証書の活用を求めるなど厳格な手続きを設け、法の趣旨を逸脱した拡大解釈の防止につなげる。」

という説明を見る限り、この報道が、上記部会資料70Aの提案を意識したものであることは間違いないように思われる。

で、不思議なのは、部会で上記提案が審議されたタイミングではなく、年末も押し迫ったこのタイミングで、「経営者以外も容認へ」という記事が掲載されたこと。

残念なことに、法務省のサイトでは、(部会資料はアップされても)議事録がアップされるまでには相当の時間がかかるのが常だから、上記提案に対する部会委員の反応がどうだったのか、ということを、今明確に知ることはできないのだが、おそらく、「70A」で提案された「自発的に保証する意思を有することを確認する」という考え方は、それまであまり議論されてきたものではなかったゆえに、その場で全員一致で異論なく同意する、ということにはならなかったものと推察される。

そして、日経紙の記事が確かな裏付けに基づくものなのだとすれば、その後の更なる説得によって、年の瀬も押し迫ったこの時期に、全部会委員(及びそのバックにいるサポート団体)の了解を取り付けた、ということなのだろうが・・・


第三読会の審議の途中、かつ、「保証」に関してだけでも、まだまだたくさん論点を残している*1今の状況において、なぜ「経営者保証」の問題だけがこういう形で報じられるのか、そして、そういった情報が一体どのような意図をもって流されているのか、考え出すと、いろいろとうがった見方もしてみたくなるわけで、少々気分が悪くなった。

おそらく、保証以上に賛否が拮抗している他の論点(特に「約款規制」等)についても、これから年が変われば、次々とこの手の風船がふわふわと舞うことになってしまうのだろう。

個人的には、今年一年だけでも、この話に随分と振り回されてしまった感はあるのだが、年を越せばさらに様々な思惑が交錯する中で、債権法改正に関わる実務者が振り回されることになるのかと思うと、正直うんざりする。

まぁ、最後は落ち着くところに落ち着くのだろうけど・・・。

*1:例えば、保証人保護のための説明義務、情報提供義務、といった問題についても、部会資料70Aの提案で、そのまままとまるとは到底思えない状況である。

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