王道ドラマの復活と一抹の寂しさ。

思えば、去年のNHKは、随分と冒険をしたものだと思う。

“分かる奴だけ分かってくれればいい”という香りすら感じさせる、宮藤官九郎脚本のサブカル系野心作を毎朝放映したかと思えば、多くの日本人の明治維新観を、真逆から捉えた“会津人のためのドラマ”を日曜の夜に堂々と放送する・・・。

「朝ドラ」、「大河」、という長い伝統がある“二枚看板”のドラマ枠で、これだけのチャレンジが同時に行われた、というのが、単なる偶然なのか、それとも狙ってのことなのかは知るところではないが、いずれにしても、これが自分にはハマった。

去年の夏くらいからは、毎日、随分長らくチャンネルを合わせていなかった「朝のNHK」に生活リズムを合わせる形になり、結果、「あまちゃん」のDVDを全巻ブルーレイで購入*1
一方、大河の方は、休日に仕事を積み残す身の上ゆえ、ちょうど一番忙しい時間帯*2にあたってしまい、なかなかリアルタイムで見ることはできなかったのだが、たまに見た回は、一話一話シビレながら見ていたし、鶴ヶ城攻防戦のところだけは、万難を排して、3回連続、釘づけになって見ていた*3

元々根がひねくれ者なもので、誰もが知っているような“歴史の主役”が活躍する時代劇だとか、王道を行くようなホームドラマを見ると、どうしても、チャンネルを変えたくなってしまうものだが、少なくとも去年のNHKの二枚看板ドラマは、そんなひねくれ者を画面に惹きつけるような、着想の意外さだとか、いい意味で期待を裏切る冒険心に満ちていたように思えてならない。


だが、この日、第一回が放映された今年の大河ドラマ、「軍師官兵衛」を見ると、やっぱり・・・と思うと同時に、少々がっかりしたところはある。

何故かと言えば、幼少の頃の父母との美しいエピソードといい、成人して立派になった姿がジャニーズのイケメンそのものであることといい、どう見ても「大河」の王道路線を進むことが明々白々な展開からスタートしたから。

制作サイドとしては、“軍師”にスポットを当てた、というところに、捻りを入れたつもりなのだろうけど、黒田孝高という武将の歴史は、基本的には“勝ち組”とともに紡がれているものだろうと思うし、信長が江口洋介、秀吉が竹中直人、というこれまた主役級の人選になっていることを考えると、数少ない見せ場になりうる“官兵衛を使い倒した主君の汚さ”をどこまで描けるかも、ちょっと微妙なところはある*4

そういう意味では、同じ歴史ものでも、「平清盛」なんかの方が、ストーリー的にもキャスト的にもずっと渋みがあったし、同じ戦国時代の軍師もの、という点で言えば、山本勘助が主役だったドラマ(「風林火山」だったか)の方が、キャストだけで比較しても、ずっと奥が深かったような気がする。

おそらく、こんな感想を抱く人間はそんなにおらず、多くの視聴者は、良く知ってる信長、秀吉といった歴史のスターたちが天下取りに向けて活躍し、それにイケメン官兵衛が絡んでいくシーンを見て、好感と予定調和的な安心感を抱くのだろう。
そして、通好みの面白さがあった反面、視聴率の数字的にはさっぱりだった「清盛」や「八重の桜」とは異なり、今度の大河は、馴染みやすさゆえ、多くの支持を受けるものと推察する。

思えば、去年の秋から始まった朝ドラ後半クールの「ごちそうさん」も、先日偶々ダイジェストを見たら*5、嫁姑の話あり、夫婦の愛あり、子供が出て来てワイワイガヤガヤ・・・というコテコテの展開になっているようで*6、道理で数字も取れるわけだなぁ・・・と、納得してしまった。


主従が逆転して、歴史上の価値観をひっくり返されるようなドラマより、予定調和的な安心感を得られるドラマの方が人気があることも、朝からリアリティのないドタバタハプニング劇を見せられるよりは、これまた予定調和的な「鉄板一代記」を見られた方が喜ぶ人が多い、ということも、理屈としては分かっているつもりだし、それゆえNHKがそこに回帰した、というのは分からんでもないのだけれど、個人的にはやっぱりそれだけだとちょっと寂しいなぁ・・・と思った次第である。

*1:最後の巻はまだ届いていないが・・・。

*2:土日休みがある、と思って油断していると、月曜の朝までに仕上げなければならない仕事を日曜のちびまる子ちゃんタイムあたりから、身に鞭打って片づけなければいけなくなる・・・。

*3:そして、年末に総集編を見てしまったのを契機に、改めてDVDで全話見るかどうか思案中である。

*4:竹中直人には期待してもいいのかもしれないけど、20世紀の「秀吉」を見た世代だけに、年齢のアンバランスさが気になって仕方ない・・・。

*5:自分は、基本的に「女の一代記」系の朝ドラには、あまり共感できるところがないので、「おしん」以来ほとんど見ていない・・・。

*6:そして、そのうちに戦火の下で・・・という展開に入っていくものと思われる。

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