美しいコントラスト〜歴史と心に刻み込まれた決勝戦

史上初の北信越勢同士の決勝戦となった、第92回全国高校サッカー選手権大会

昨年のエントリー*1で、“裾野が大きく広がったなぁ”と呑気にコメントしていたのだが、それからわずか1年で、石川県代表と富山県代表、という、これまで決勝戦のピッチには縁がなかった両県の代表が、最後の1試合まで覇権を賭けて戦う、という驚くべき結果となった。

もちろん、星稜高校富山第一高校のいずれも、“ポッと出”のチームではない。

星稜高校は、多くの方がご存じのとおり、約10年ほど前には既に本田圭佑選手を擁してベスト4まで進出していたチームだし、昨年のチームも、優勝した鵬翔高校をあと一歩のところまで追い込んだ実績があった*2

また、富山第一高校は、柳澤敦選手の母校として有名だし、柳澤選手卒業後の2000年、2001年と、北陸勢初の2年連続ベスト4、という偉業も成し遂げたチームである。

だから、いつかはこういう日が訪れても不思議ではなかったのだが、やっぱり、準決勝で星稜が優勝候補の京都橘(昨年準優勝)を粉砕し、富山第一が名門四中工とのPK対決を制して勝ち上がったシーンを見た時は、そこに、関東勢も九州勢も静岡のチームもおらず北信越の学校だけが残った、という事実を、何と表現すべきか、とっさには良い表現が思いつかなかったのも事実である・・・*3

ということで、テレビ実況の煽り以上に、関係者にとっては「感無量」の試合だったであろう北信越ダービー。
本来であれば、この種の対戦にありがちな、両校がここで「対決すること」それ自体で話題が終了し、試合の中身は二の次・・・という展開になっても不思議ではなかった。

だが・・・

蓋を開けてみると、これまでにない好勝負。

準決勝まで無失点、体格に勝る守備陣の選手を揃えて、相手の攻撃陣の良さを封じ込め、ひとたび攻撃に転じれば正確なボールを的確に前線の選手につないで、効率的に得点を稼ぐ星稜高校のスタイルと、体格では劣ってても、優れたテクニックでGKからきちんとショートパスでボールをつないでいこうとする富山第一高校のスタイルが、お互い見事に発揮されて、今のサッカー界を象徴するような実に美しい試合となった。


序盤は、富山第一が攻め込みながらも、星稜高校のカウンター的逆襲の前にPKを献上してあえなく先制を許す。
そして、富山第一が今一つリズムをつかめず、相手陣内に攻め込んでもなかなか最後の詰めまで結びつかない、というじれったい展開の中で、後半25分、星稜高校の森山選手が決定的ともいえるヘディングシュートを決め、そこでいったん勝負は決した感あり・・・。

U-18のプレミアリーグでJユースクラブにもまれているだけあって、富山第一の選手たちの技巧は星稜の選手と比べても一枚上手だったと思うし、攻撃スタイルも多彩で見ていて面白いのだが、如何せん、最後の詰めのところでのセンタリングへの競り合いだとか、こぼれたボールに対する二次攻撃、といったところで、ことごとく体格に優れた星稜DF陣に負けてしまう。

かつて日本代表が欧州の中堅チーム相手に良く陥っていたのと同じようなパターンで、確率論的には、最後は力尽きて終わるのだろうな・・・と思ったのは、自分だけではなかったはずだ。

ところが、星稜高校が先制点を決めたキャプテン寺村選手を下げ、殊勲の2点目を挙げた森山選手も下げて逃げ切りを図りだした頃から、富山第一のサイドからの崩しが機能し始める。

結果、残り5分を切って一気に流れは富山第一に傾き、後半42分に途中交代の高浪選手が思いきり良く持ち込んでゴール。
さらに、ロスタイムに入ってから、キレキレの動きで星稜DF陣を翻弄していた左サイドの竹澤選手が、ペナルティエリア内で倒され、富山第一がPKを得る。
そこを、キャプテンであり、監督の息子でもある大塚翔選手がきっちり決めて、まさかの同点・・・。

PKになってしまったのは不運のようにも見えるが、そこに至るまでの竹澤選手の“後ずさりするようなトリックフェイント”でDFを置き去りにしたプレーなどを見ていたら、流れの中で同点に追いついても、決して不思議ではなかった。

そして、こういう展開で追いつかれてしまうと、不利なのは圧倒的に星稜高校の側*4
明らかに意気消沈してズルズルいっても不思議ではない展開の中で、延長戦の後半残り1分くらいまで良く粘ったとは思うが、最後の最後、「左脚のミドルシュートには自信がある」という実況のコールとともに途中出場した村井選手をゴール前でフリーにし、漫画のような豪快なミドルシュートを突き刺されてしまった時点で、もはや星稜に勝機はなかった*5

これぞまさに歴史に残る大逆転・・・である。

試合の流れを見通したかのような選手交代が見事にはまった*6富山第一の監督の采配は、称賛されるべきだろうし、逆に、星稜高校の選手交代のカードの切り方にも難癖を付けようと思えば付けられるところだとは思う*7

でも、自分がこの試合に感じたのは、この決勝戦の「1試合」だけでは語れないような、監督、コーチングスタッフから控え選手までが一体となった両チームのチーム作りの歴史の重みと、それを大舞台で出し切った両チームの選手たちの潔さ。何年もの準備を積み重ねて辿り着いた舞台で、両者がぶつかり合った結果、ほんの少しだけ富山第一が上回る結果になったからといって、誰が敗れた星稜を責められようか・・・。


Jリーグが始まった年に生まれたのが今年の新成人・・・ということは、今日フィールドに立っていた選手たちは、あの瞬間、われわれが味わった興奮を、歴史的な出来事、としてしか知らない世代、ということになるのだけれど、そんな選手たちが、あれから20年かけて、全国津々浦々にサッカーを根付かせるための関係者の様々な取り組みが、北信越の地においても実を結んでいることを、対戦カードのみならず、試合の中身でもきちんと証明した、というのは、かの地域に何ら縁がない自分にとっても、実に感慨深いことだ、と思った次第である。


来年の決勝で、再び新興地域の学校が主役になるのか、それとも、古豪が再び名を轟かせるのか。
そんなところも楽しみにしながら、今年はもう少し全国のプリンスリーグの結果も気にしながら、シーズンを追いかけていくことにしたい。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20130105/1358016805

*2:本田選手の時も、昨年もいずれもPK戦で惜しくも敗退している。

*3:最初に思いついたのは、“新幹線開業の前祝い?”という安直なキャッチコピーだったが、両県の関係者のこれまでの辛苦を思うと、そんな軽い表現では到底済まないだろう。

*4:これは2年前の決勝戦で、市船がやってのけた展開でもある。

*5:富山第一は、PK戦に備えて準決勝と同様に、第2GKの田子選手を投入する準備もしていたようだが、村井選手の勝ち越しゴールの直後に、3人目のカードを別の選手に変えた。

*6:富山第一の3点のうち、1点目と決勝点は途中投入した選手が決めている。

*7:2-0になった時点で、試合の流れを見切ってしまったようなところがなかったのか・・・ということを関係者は当分悔やみ続けるのかもしれない。