オリコへの業務改善命令に見る世間の温度差

昨年秋以降、話題が絶えることがなかった「提携ローン暴力団関係者融資事件」。

融資元であるみずほ銀行に対しては、何度となくメディアからの集中放火が浴びせられ、結果、持ち株会社の人事にまで飛び火して、上に下に、と大騒ぎになっていたのだが、一方で、顧客との直接の取引相手、として、与信を担当していたはずのオリエントコーポレーションに対しては、メディアの関心は低かったようで、昨年末には、第三者委員会報告書まで出されているのに、新聞紙面上ではベタ記事扱いとなっていた(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20131228/1388655226参照)。

そんな中、ようやく、というべきか、経済産業省による、割賦販売法に基づく業務改善命令が出されたようである。

みずほ銀行が提携先の信販会社オリエントコーポレーション(オリコ)を通じて暴力団構成員らへの融資を放置していた問題で、経済産業省は17日にもオリコに割賦販売法に基づく業務改善命令を出す方針を固めた。」(日本経済新聞2014年1月17日付け朝刊・第5面)

という記事を読んだのが朝のこと。そして夜には、オリコのホームページ上に、実際に命令を受けた旨のリリースが公表されていた。
http://www.orico.co.jp/company/news/2014/0117.html

処分内容は、http://www.orico.co.jp/company/news/2014/pdf/20140117_1.pdf に記載されており、処分内容自体は、この種の行政処分の内容としては、(みずほ銀行に対するものと比較しても)決して軽いものではないように思われる。

1. 処分内容
法第35の3の26第1項第9号に定める個品信用購入あつせんの公正かつ適確な実施を確保するために必要なものとして割賦販売法施行規則 (昭和36年通商産業省令第95号。以下「省令」という。) 第101 条に定める体制を整備するため、貴社が提携する金融機関との提携ローンに係る個別信用購入あつせん関係受領契約 (以下「個別クレジット契約」という。) において、反社会的勢力との関係遮断に向けた対応を速やかに行わなかったことについて原因究明を行った上で以下の措置を講ずること。
(1)個別信用購入あっせんの公正かつ適確な実施を確保するため十分な社内規則等を定めること(省令第 101 条第1項第3号)
 代表取締役等の経営責任者の指揮の下、反社会的勢力との関係遮断に向けた対応について、実効性のある社内規則等 (当該社内規則等について適切な見直しを行うための措置に係る規定を含む。) を定めること。
(2)法の規定若しくは法の規定に基づく命令又は社内規則等を遵守するための措置を講ずること(省令第101条第1項第4号)
1 上記(1)の社内規則等の策定及び遵守に係る体制を見直し、充実・強化すること。
2 上記(1)の社内規則等について、遵守状況を定期的かつ必要に応じて検証すること。
3 反社会的勢力との関係遮断に向けた対応の実効性を確保するため、内部管理態勢及び経営管理態勢を充実・強化すること。
4 反社会的勢力との関係遮断に係る経営姿勢を明確にするとともに、役職員の反社会的勢力との関係遮断に係る意識の醸成・徹底を図るための研修の実施等の措置を講ずること。
(3)上記(1)及び(2)の措置は、この改善命令を行った日から1月以内に講ずること。

そして、「処分理由」では、以下のとおり、「反社会的勢力との関係遮断に向けた対応を行っていなかった」という点が明確にされているし、

「貴社が提携する金融機関との提携ローンに係る個別クレジット契約において、貴社は、当該金融機関が契約の相手方が反社会的勢力であると認識した取引が多数存在していることを把握したにもかかわらず、反社会的勢力との関係遮断に向けた対応を速やかに行っていなかったことが判明し、以下の事実が確認された。」

具体的な事実としても、以下、1(イ)のように、「契約の相手方を反社会的勢力と認識した提携ローンに係る個別クレジット契約が多数存在していることを認識していた」にもかかわらず、事後排除対応を行っていなかった、という不作為を指摘されている。

(1)個別信用購入あつせんの公正かつ適確な実施を確保するため十分な社内規則等を定めていなかったこと (省令第101条第1項第3号)
貴社は、反社会的勢力との取引を解消するための対応 (以下「事後排除対応」という。) に関する十分な社内規則等を定めていなかった。
(2)法の規定若しくは法の規定に基づく命令又は社内規則等を遵守するために必要な体制を整備していなかったこと (省令第101条第1項第4号)
1 貴社のコンプライアンス委員会は、「コンプライアンス委員会運営規程」第4条第2項において、「社長の所轄に属する」と定めている。また、平成25年12月9日付け報告書によれば、同委員会は「「反社会的勢力に対する基本方針」の策定の審議をはじめとして、「反社会的勢力対応規程」の制定、顧客や加盟店の取組方針の検討等、反社会的勢力排除全般に関して審議を行って」いる。また、「コンプライアンス委員会運営規程」第8条第1項第1号において「当社または当社のグループ会社 (以下「当社等」という) のコンプライアンスに関する事項を審議し、社長および取締役会に具申または報告すること。」と定め、平成25年11月22日付け報告書によれば、「経営責任者(各代表取締役) へは、コンプライアンス委員会資料に議事録を添付し回付による報告を行って」いる。また、貴社は、「The Orico Group Code」において、「暴力団をはじめとする反社会的勢力や団体との関係を断固として拒絶」すること、及び「反社会的勢力に対する基本方針」において、「反社会的勢力との関係を一切遮断するため、全役職員が断固たる姿勢で取組」むことを定めている。さらに、貴社は、「反社会的勢力対応規程」第9条において、「各部室店は、反社会的勢力であることを知らずに取引をしていた場合、相手先が反社会的勢力であると判明した場合、可能な限り速やかに取引を解消できるよう取り組むものとする。」と定めている。
しかしながら、貴社は、平成23年1月以降、株式会社みずほ銀行 (以下「みずほ銀行」という。)から同行が契約の相手方が反社会的勢力と認識した提携ローンに係る個別クレジット契約に関する情報の提供を多数受けていたにもかかわらず、個別クレジット契約における事後排除対応について、第112回コンプライアンス委員会 (平成23年10月27日開催) において、「完済すれば、取引が自然に解消されるため、完済するまで月次で債権状況を監視する。」、第 123回コンプライアンス委員会 (平成25年3 月11日開催) において「個品契約については、取引解消に備えながら、契約終了での自然解消を図る。」と「反社会的勢力対応規程」とは異なる方針を定め、以下のとおり、反社会的勢力との関係遮断に向けた対応を速やかに行わなかった。
(ア)貴社は、みずほ銀行が、契約の相手方が反社会的勢力と認識した提携ローンに係る個別クレジット契約について、同行から平成25年5月に多数の代位弁済請求を受けたにもかかわらず、当該契約に対する事後排除対応を速やかに行わなかった。
(イ)貴社は、平成23年3月以降、平成25年10月16日付け報告書参考資料8「契約約款・会員規約」保証委託契約条項第4条において、申込者が反社会的勢力に該当した場合、貴社が「申込者に対し、保証債務の残債務全額について事前求償権を行使できます。」と定めている。
しかしながら、貴社は、みずほ銀行が契約の相手方を反社会的勢力と認識した提携ローンに係る個別クレジット契約が多数存在していることを認識していたにもかかわらず、当該条項の発動による事後排除対応又は当該条項の発動に代わる事後排除対応についての十分な検討を行っていなかった。
2 貴社は、「反社会的勢力対応規程」第8条において、「各部室店は、所管業務において新規に取引を開始しようとする先が反社会的勢力に該当することが判明した場合、その取引を中止もしくは謝絶するものとする。」と定めている。
また、平成25年10月16日付け報告書によれば、貴社の基幹システムに「反社会的勢力専用の社内コード (59) (以下「要注意情報 (59)」という)を新設し、反社排除の判断業務を判りやすくすると共に、「要注意情報 (59)」に該当する顧客の申込の与信時の照会結果において当該情報に該当した場合の与信判断を、「全面禁止」」としている。しかしながら、平成25年11月22日付け報告書によれば、「審査担当者による審査時の「要注意情報 (59) 」の見落とし」により「要注意情報 (59) 」に該当した者との個別クレジット契約を締結していたものがあった。

だが・・・

自分が違和感を抱いてしまうのは、ここまで、みずほ銀行と同様の問題点を指摘されながら、この後に出てくる「今後の当社の対応について」の内容(http://www.orico.co.jp/company/news/2014/pdf/20140117_2.pdf)や、それに対するメディアの対応が、“みずほ”の時とはあまりに違いすぎるからだ。

「反社会的勢力と認識したにもかかわらず対応しなかった」という点については、全く同じ。
しかも、オリコの場合、みずほ銀行側から、契約上代位弁済請求を受けたにもかかわらず対応しなかった、という問題や、「審査時の情報見落とし」により契約してしまった、という、みずほ銀行の時以上に、“大丈夫か・・・?”と思うような問題点も指摘されている。

それなのに、今回発表した「対応」は、

1)社内規則等の遵守状況の定期的な検証
2)社外取締役の追加選任等についての検討

の2つだけ。

もちろん既に、昨年11月22日付けで再発防止策を提出し、報酬減額等の社内処分も行っているとはいえ(http://www.orico.co.jp/company/news/2013/pdf/20131122_1.pdf)、上記の対応を公表しただけで、「追加の処分は行わない」と言い切ってしまっているところなど、“みずほ”の時とのギャップとは驚くばかりである。

個人的には、これまでこのブログの中でも書いてきたように、一連の提携ローンに関する問題の本質的な側面(企業組織のあり方、仕事の進め方、という観点からの問題はともかく、「反社」的切り口から見た時には決して問題性が高いとは言えない)を考えると、“みずほ”の方が明らかに騒ぎ過ぎなだけで、事業者に対する処分やそれを受けての対応にしても、メディアの報じ方にしても、事柄とのバランスでは、今回のオリコくらいの方がちょうど良いのではないかと思っているから、これでいいんじゃないか、と言いたいところではあるのだけれど・・・。

ここまでの露骨な「温度差」を見てしまうと、いろいろなことを考えずにはいられない。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html