ついに来る決着の時?〜著作権法改正法案閣議決定

「電子出版権」に関する話題については、ついこの前、日経紙の記事からの示唆により、「なかなか落ち着きどころが見えない・・・」的なコメントをしたばかりだったのだが*1、この件に関してはとにかく仕事が早い文化庁の努力の甲斐もあってか、このタイミングで著作権法改正法案の閣議決定、国会提出がなされることになった。

「政府は14日、紙の書籍にだけに認めてきた「出版権」の対象を、電子書籍にも広げる著作権法改正案を閣議決定した。電子書籍海賊版の流通が判明した際、著者など著作権者だけでなく、出版社側も差し止め請求訴訟を起こせるようにする。2015年1月施行予定。」(日本経済新聞2014年3月14日付夕刊・第14面)

文部科学省のホームページにも、堂々と法律案の概要から、案文まで掲載されている。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/detail/1345237.htm

この件に関しては、審議会(文化審議会著作権分科会出版関連小委員会)が報告書をまとめて以降もいくつかの論点で、議論がくすぶっていたのであるが、結論から言うと、

1)「出版権」の定義の中に、従来の「頒布の目的をもって、文書又は図画として複製する権利」に加え、「記録媒体に記録された電磁的記録として複製する権利」や、「記録媒体に記録された著作物の複製物を用いてインターネット送信を行う権利」を新たに追加する、という形で整理した*2
2)出版権の設定を受けられる主体として、「記録媒体に記録された当該著作物の複製物を用いて公衆送信を行うことを引き受ける者」が追加されたため(法79条1項)、いわゆる“伝統的な出版社”以外の配信事業者も、出版権設定を受けられる余地が出てくることになった。
3)電子出版物の公衆送信を行う権利についても、原稿等の引き渡しから6月以内に出版(公衆送信)する義務及び継続出版(公衆送信)義務が生じることになった(法81条、違反した場合の消滅請求についても同じ。法84条参照)。
4)「みなし侵害」に係る規定の導入は見送りとなった

と、概ね無難と思われる落ち着き。

これまで、規定の性格をめぐって議論になることが多かった、

「出版権者は、他人に対し、その出版権の目的である著作物の複製を許諾することができない」

という法80条3項の文言を、

「出版権者は、複製権等保有者の承諾を得た場合に限り、他人に対し、その出版権の目的である著作物の複製又は公衆送信を許諾することができる。」

と改めた点についても、かつて田村教授らに激しく批判された*3「利用許諾不可規定説」を完全に葬り去った、という点で評価してよいと思われる*4


このテーマに関して、これまで、政治も巻き込んだ華やかな論争が展開されてきたことを考えると、国会に舞台が移った後にも、まだ一波乱、二波乱あっても不思議ではないのだが*5、全体的に、定義部分も含めてそんなに違和感なく仕上がっているように見える案文だし*6、いずれの利害関係者の顔も立てる形になっている、立法担当者の苦労の跡が滲み出ている法案だと思うだけに、ここは預かった国会の側も、ロビー団体の意見に振り回されずにすんなりと可決成立するのが筋なのではなかろうか・・・(笑)。

この一、二年、電子出版権関係のあれこれに、当局や関係者の貴重なリソースが多く割かれてしまっていた現実もあるだけに、ここはさっさと片付けて、まだまだ山積している次の著作権法制の課題への対応に関係者がリソースを割けるようにしていただきたい、と思うところである。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20140303/1394380770

*2:この点に関しては、出版社側が求めていた「一体型」の定義となったということができるのだろうが、条文上、複製権に係る権利(法80条1項1号)と公衆送信権に係る権利(法80条1項2号)は別立てで規定されており、さらに、「出版権者は、設定行為で定めるところにより、その出版権の目的である著作物について、次に掲げる権利の全部又は一部を専有する」と、一部のみの設定が可能であることが明文化されることになったため、デフォルトで紙・電子の両方について出版社側が出版権の設定を受けられる、という解釈になるかは微妙な状況となった(契約書に単に「出版権」と書いただけでは、紙・電子双方について出版権の設定を受けたとは認定されない可能性もあり、両方について設定を受けたい場合には、80条1項1号、2号双方の権利を設定する旨を明確に契約書に記載することが、今後求められて来るのではないかと思う)。

*3:田村善之『著作権法概説[第2版]』497頁〜498頁など参照。

*4:この点については、設定された出版権の内容を「再許諾権まで含む複製、公衆送信権」とする制度設計(複製権等保有者の承諾なく再許諾可能とする制度設計)もあり得たとは思うが、審議会での著作権者側の強い反対意見等に配慮した結果、「承諾を得た場合に限り再許諾できる」という、ある意味当たり前と言えば当たり前、の条文で落ち着いたのだろうと推察される。なお、80条3項が完全に改められたことにより、損害額推定に関する114条3項、4項の主体にも、「出版権者」が明記されることになった(これまでは「出版権者は独占的に出版をすることができるので逸失利益はあるが、他の者に出版を再許諾する権原はないので、ライセンス相当額を損害とみなすという根拠がない」(中山信弘著作権法』498頁)と説明されていた)。

*5:しかも前回の著作権法改正の例のように、他の知的財産諸法と比べて、必要以上に政治マターになりがちなのが、著作権法の気の毒なところでもある。

*6:附則第3条の「この法律の施行前に設定されたこの法律による改正前の著作権法による出版権でこの法律の施行の際現に存するものについては、なお従前の例による。」という規定については、法律施行前であっても、出版権設定契約の内容の意思解釈(あるいは契約書の文言解釈)により「公衆送信」まで含めて出版権が設定されている、ということができるのであれば、遡及的な適用を認めても良いのでは?と思えるところはあるだけに、ちょっと余計かな・・・と思えなくもないが、気になるところはそれくらいである。

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