ひっそりと通過した著作権改正法案

出版権の電子書籍等への拡充を主要な内容とする著作権法改正案が今国会に提出された、というのは、既に当ブログでもご紹介したとおりなのだが*1、審議状況が新聞報道等で大きく取り上げられることもないまま、4月4日に衆議院文部科学委員会で全会一致で可決、さらに4月8日、衆議院本会議でも可決され、めでたく参議院に送付されることになった。

2年前に国会に提出された著作権法改正案が、提出された当初から「審議会報告書骨抜き」等と有識者の批判を浴び、さらに議員修正によって違法ダウンロード刑事罰化規定が追加されたあげく、決して少なくはない数の反対を受けながらようやく可決された・・・という経緯を辿ったことを考えると、今回は何ともすんなりここまで来たものだなぁ、という印象を受ける。

もちろん、国会に法案が提出されるまでの間に、このブログでもずっと追いかけてきたような、出版社、著作権者、ユーザーが入り乱れての激しい動きがあったのは事実だし、立法の方向性も、当初の「著作隣接権」創設構想から、落ち着きどころである「出版権拡充」案に至るまで二転三転していたのは事実。

それでも、審議会報告書を受けてひとたび法案ができあがった後は、一部で噂されていたような国会議員による修正や別法案の提出といった事態もなく、平穏にことが進んでいるように見える。

背景事情として考えられるのは、昨年多数回にわたって開催された審議会で、主たる利害関係者の議論が概ね尽くされていたこと。
そして、その後の根回しも含め、法案を提出した所管官庁が、かなりの汗をかいて法案成立に向けて奔走したことも、ここまでの展開に影響しているのかもしれない。

2年前とは違って、国会審議全般が落ち着いているのは事実だし*2、いわゆる「権利者」側のための改正法案なのだから、ひとたび決まればスムーズに進むのは当たり前、という意地悪な見方もあるところだろう。

だが、長年燻っていた「出版社への権利付与」という一大問題に対して、ひとたび話題になって以降、これだけのスピードで一つの解が示された、というのは、やはり著作権法の歴史上も特筆すべきことなのではないかと思う。

ちなみに、衆議院の委員会決議の段階で、↓のような「附帯決議」が付されている。
http://www.jbpa.or.jp/pdf/documents/c-futaiketugi20140404.pdf

第1項が、「出版権制度の更なる利用促進に向けた対策を講ずること」、第2項が、「従来の出版事業の尊重」、第3項が「具体的な契約モデルの構築についての支援等」、第4項が「一体的な出版権設定の推奨と塩漬け問題が生じないようにするための対策」・・・と、「みなし侵害規定」検討の必要性について言及した第7項まで、全10項目のほとんどを出版権関係のメッセージが占めている。

障害者のために「37条3項の改正」にまで踏み込んだメッセージを示した第9項などに比べると、出版権関係の規定は若干抽象的で、内容的にも玉虫色のものが多いような気がするのだが、それでも一定の“ガス抜き”にはなるはず。

まだ残っている参議院の展開次第ではどうなるかは分からない、という波乱要素は残っているものの、ステップをひとつ乗り越え、「電子出版権」問題の落ち着きどころもいよいよ見えてきた感がある。

立法過程の奥深さを知らしめてくれたこのテーマを取り上げる機会も、もうそんなにないと思うとちょっと寂しい気はするが、最後まで生暖かく審議経過を見守ることにしたい。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20140315/1395600917

*2:2年前は、ちょうど当時の政権与党が分裂したタイミングと、著作権法改正案審議のタイミングがまともにぶつかったこともあり、自民・公明+民主(残った組)に対抗する材料として、法案が使われた面があったことは否めないが、今の「野党」にあの頃のような元気はない。

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