これが最後の大仕事?〜アップル対サムスン大合議判決の報道に接して

ここのところ、ほとんどこのブログを更新していなかったのにもかかわらず、突如として昨日大量のアクセスが殺到し、「一体何事か?」と思ったら、“知財高裁所長のお名前”での大量検索の仕業であった(笑)。

確かに、昨日から、以下のような記事がずっとネット上ではトップ扱いで流れていたから、初めて“知財訴訟の業界”に関心を持った人々が、検索をかけたくなるのも一応は理解できる。

スマートフォンスマホ)に関する韓国サムスン電子の特許を巡り、同社と米アップル日本法人が争っている訴訟の控訴審判決が16日、知的財産高裁であった。裁判官5人による大合議(裁判長=飯村敏明所長)は、アップルが同特許を使っているとしてサムスンの損害賠償請求権を認める一方で、「ライセンス料相当額」にあたる約995万円以上は請求できないとの判断を示した。また、サムスンが求めていたアップル製品の販売差し止めの仮処分は認めなかった。」(日本経済新聞2014年5月17日付け朝刊・第38面)

昨年2月に出された地裁の判決は、裁判所のHPにアップされて早々に入手したものの、コメントをブログにアップする機を逸したままほかしている・・・という状況だっただけに、知財高裁が、これほどの世界的スケールの訴訟を、地裁判決から僅か1年数か月で判決まで持って行ってしまったことは、個人的には残念というほかない(笑)のだが、記事の中で紹介されている要旨を読む限りは、まっとうな方向で落ち着かせたのではないかな、という印象である*1

一部のアップル支援者、あるいはアンチ・サムスン系の方々からは、“サムスンを一部でも勝訴させたこと”への怨嗟の声が出ているのかもしれないが、この日の新聞に掲載された、「裁判所がサムスンに対し、国際特許制度の整合性を守ろうと毅然とした対応を取ったことを高く称賛する」というコメントからも明らかなように、この判決内容は、事実上アップルにとって限りなく勝訴に等しいものであるはず。

そして、「全世界的な規格形成の過程でFRAND宣言がなされていた特許」というかなりの特殊事情があることを割り引いても、これまで、「侵害したかどうか」というメルクマールによって、ゼロか1か、という判決を書くことしかできなかった裁判所が、具体的事情を踏まえた合理的解決、という道を判決により導いたことの意味は大きいのではないかと思っている*2

これまで、知財の分野で、数々のムーブメント(?)を起こしてきた飯村所長も、このまま行けば、来月半ばには定年退官されることになる。
ブログを立ち上げて以来、「飯村コート」を対象とした裁判例分析を数多くアップしてきた身としては、大変さびしい限りなのだが、カウントダウン間際に残されたこの大仕事の成果を、しかと受け止めさせていただくこととしたい*3

*1:さすがに、地裁判決の「誠実交渉義務違反で権利濫用→損害賠償請求権の行使を否定」という論理は、いろいろと突っ込みどころが多すぎた。

*2:自分はまだ、知財高裁が公表した要旨すら読んでいないし、判決文を目にして、それに対してコメントできるようになるまでに、どれほど時間がかかるのかは想像もつかないのだけど、どうやって、“多くの専門家が落としどころだと思っていたレベル”に(和解ではなく)判決の形で持って行ったのか、ということは、きちんと検証してみる価値はあると思っている。

*3:ちなみに、大合議事件としてはもう1件、ジェネンテック社の特許延長登録拒絶不服審判に関する取消訴訟も5月30日に判決言渡し予定である。