そして繰り返された悲劇

フジキセキ産駒(×母父コジーン)じゃ距離持たないよ」という風評は、皐月賞での見事な伸び脚で、根拠がないことを証明したはずだった。

毎年この時期になると湧いて出る根拠薄弱な“惑星”の出現による混戦観測も、笑い飛ばせばよかったはずだし、「騎手がエビショーだから」という不吉なジンクスは、蛯名正義騎手自身が、今年の騎乗で吹き飛ばしてくれるはずだった。

東京コースでこれまで4戦4勝。
今年の日本ダービーは、

ハープスター以外の馬に負けたことがない(男馬には少なくとも負けていない)」

イスラボニータ蛯名正義騎手のためのレース、になるはずだったのに・・・。


残酷なまでの結果を突きつけられた今もなお、自分は「3歳牡馬で最も強いのはイスラボニータだ」という結論を変えるつもりはない。

先手切って堂々と逃げるはずだったウインフルブルーム皐月賞3着)が、直前で出走取り消し。
江田照騎手が宣言通り、見事な逃げ脚を引き出していた(本当はダート馬の)エキマエは、4コーナーを前に故障発生でまさかの大失速。
さらに先頭に押し出されたトーセンスターダムは、最後の直線で内ラチに大激突する逸走で、あっという間に最後方に・・・*1

脚を溜めて直線に賭ける、という戦術をとろうとしていた馬としては、完全に誤算の「直線半ばで先頭に押しだされる展開」の中でも、上がり34秒3。
最後は、ぴったしマークされていたワンアンドオンリーとの直線勝負に屈して0.1差の2着、ということになったものの、常に先手を取って堂々の正攻法で、3着以下を大きく引き離したのだから、力としては間違いなく“横綱級”だったと思う*2


それでも、負ければ「ダービー馬」の称号を得ることはできないし、鞍上も「ダービージョッキー」の肩書は得られない。

負けた相手が、低迷する関東陣営を長年支えてきた盟友であり、わずか1期違いの先輩である横山典弘騎手だった、というのは皮肉な限りで*3、個人的には、4年前のオークスの時のように「競り合った末に同着」という結末が一番美しかったと思うのだけれど*4、これもまたドラマの一つ、というほかないのだろう。

ワンアンドオンリーの調教師が、定年まであと2年弱の橋口弘次郎師(そしてダービー初制覇)だった、ということも、「なら仕方ないかな」という気にさせてくれるし*5ハープスターイスラボニータ、という二冠を取って話題を独占するはずだった馬たちが、「負けてなお強し」の内容ながらあと一歩のところで伝説になり損ね、その替わりに、2週続けて、“空気を読まない”ハーツクライ産駒が勝ったことが、単純なヒーロー譚ではない、「競馬」という筋書きのないドラマの厚みをより増したともいえる*6

なので、この先の楽しみが増えた、ということで、自分を慰めているところではある。

そして、蛯名正義騎手に、一日でも早くダービージョッキーとしての名誉を勝ち得ていただきたいなぁ・・・、という思いは、来年の今ごろまで、しっかりと温めておきたい、と思うところである。

*1:鞍上が武豊騎手だったとはいえ、この日のトーセンスターダムは、序盤、エキマエと不可解な先頭争いをしようとしたところから、最後の逸走に至るまで、終始不可解な競馬だった・・・。

*2:ワンアンドオンリーが交わしかけたタイミングで、一瞬差し返したあたりなどは、本当にしびれる勝負だった。

*3:横山典騎手も、苦労して5年前にダービージョッキーになったばかりだっただけに、勝ってしまったその次の瞬間に、多少は複雑な思いが胸をよぎったのではないか、と勝手に推察している。

*4:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100523/1274637484

*5:なんといっても、ダンスインザダークで、20年近く前に、ダービーをほぼ手中に入れていたはずの先生だから・・・。

*6:ディープインパクト有馬記念で完勝し、ドバイをも制したにもかかわらず、最終決着の場面で無念の引退を余儀なくされて、最後まで主役になれなかった血の恨み(?)なのかもしれない。いずれにしても、ジャスタウェイも含めて“伏兵的存在から這い上がる”という点で、この馬の産駒には共通したキャラがあり、この先追いかけていくと面白いのではないかと思う。