必要なのは、格付ける者への「格付け」。

先週、「最低レベル」の格付けを行った、というニュースが報じられた時点では、まだホームページすら開設していなかった「第三者委員会報告書格付け委員会」が、いよいよ本格的に動き始めた。

「独立機関の『第三者委員会報告書格付け委員会』は5月30日、みずほ銀行の第三者委員会が昨年まとめた報告書に対し『最低レベル』とみなす評価を付け、新設のサイトで正式に公表した。」
「今回は9人のメンバーのうち8人がみずほ銀第三者報告書を精査。評価はD(悪い)とC(比較的悪い)が4人ずつだった。メンバーの1人は所属法律事務所が、みずほ銀第三者委員の1人と同じため、公正を期すため審査を回避した。」(日本経済新聞2014年6月2日付け朝刊・15面)

一見爽やかな印象を与える「格付け委員会」のホームページ(http://www.rating-tpcr.net/)だが、そこに掲載された第1弾の「評価」は、記事にも書かれているとおり、かなり辛辣なものになっている印象を受ける。

A〜DとF、という5段階評価の中で、Cを付けた委員が4名、Dを付けた委員が4名(http://www.rating-tpcr.net/result/#01)。
「個別評価」に関する各委員のコメントも、

金融庁改善命令に対する銀行調査の丸投げ丸受けの感が否めない」(個別評価*12頁)

という久保利英明委員長のコメントなど手厳しいものが目立ち、この「第三者委員会」にかかわった方々にとっては、実に気の毒なことになってしまっている。

このみずほ銀行の第三者委員会による「報告書」は、自分も読んでいるが、昨年、当ブログで詳細に取り上げたとおり*2、少なくとも実務にかかわる者の目から見れば、(他業種の話とはいえ)「なぜ問題が長期間放置されたのか」、「こんな重大事になってしまったのか」ということが非常によく理解できるものになっているなぁ、というのが自分の感想で、短期間でまとめた報告書としては非常に良くできている、という印象を受けたものだった。

それだけに、上記「格付け委員会」が「最低ランクの格付けをした」という報道が流れたのを見た時に、自分は、なんでこんなことになってしまうのだろう?という訝しさを感じたし、「個別評価」を読んで、より忸怩たる思いに駆られている。

確かに、多くの“格付け委員”が指摘している「調査スコープの的確性、十分性」の問題については、上記報告書を読んだときに、自分も若干の物足りなさを感じた。

特に、國廣委員が指摘するような、記者会見における「危機管理の致命的ミス」について、

「この重大論点について、最終ページで『本件については、経営陣への過去の報告の有無に関する貴行の説明が変転したこともあり、実態以上にこの問題に対する社会の疑惑を増大してしまったことは否めない』とわずかに言及されるのみであり、この問題に対する調査は全く行われていない」(4頁、國廣委員のコメント)

というのは、当時、おや?、と思ったところではある。

だが、そのことをもって、

「これは第三者委員会の問題であると同時に、委員会に調査を委嘱した銀行自体がこの問題から逃避しようとする意図があったことを窺わせる」(3頁、久保利委員長コメント)
「第三者委員会に対するみずほ側の依頼事項は(意図的であるか否かはともかく)『提携ローン問題』に限定されていた。しかし、第三者委員会は、不祥事の本質究明を目的とする調査委員会であり、そのためには依頼者からの独立性を前提として、調査スコープも依頼者の言いなりにならずに設定することが不可欠である。」(4頁、國廣委員コメント)

とまで言ってしまうのはどうなのか*3

また、齊藤誠委員以下、他の多くの委員が指摘している

「内部統制システムが十分に機能するためには何が不十分であったか」といった点についての掘り下げた原因分析

や、

役員の責任への言及

といったことについても、(上記第三者委員会報告書にこれらの記述がないのは事実だとしても)本件で「報告書」の価値を大きく下げる材料になるか、と言えば、大いに疑問がある。

この件が「歴史的な大型企業不祥事」のレベルにまで“炎上”してしまったのは事実だとしても、その原因の多くは、断片的な情報を憶測*4で、あたかも「銀行と反社会的勢力との癒着」事象であるかのように取り上げてしまったメディアの報道姿勢に存在するのであり、この調査報告書が公表された時点で求められていたのは、まさに、そのような「憶測」を払拭するための「正確な事実関係の説明」であったはずだ。

だとすれば、

金融庁の改善命令の対象となった「キャプティブローン」というのがいかなるもので、

報道では「暴力団関係者への融資」と乱暴に括られていた契約の実情が、いかなるものなのか。

ということが明らかにされれば、この時点ではそれで十分だったといえる*5

調査期間の短さ、という点に関して言うと、竹内朗委員が指摘するように、

「その後も活動を継続し、ステークホルダーの関心事に応える調査スコープまで拡大して追加調査を実施し、最終報告を出すことも考えられてよかったのではないかと思われる」(15頁)

というやり方も、あり得たのだろう。

ただ、「原因の原因」という話になってくると、それこそ、組織論にはじまって、行動学だの、心理学だのの領域にまで入りこまないといけない話であり、畑村洋太郎先生的なアプローチでもしない限り、正確な問題特定、原因究明をすることはできないのであって、それは、法律家だけで構成されている「第三者委員会」の守備範囲では、もはやなくなっているように思う。

今回「格付け」を率先して行っている委員の方々は、おそらくそういった“法的評価を超えた”ところにまで、法律専門家の活動領域を広げたい、と考えておられるのかもしれないが、所詮は“素人の憶測的な判断”に過ぎないその種の評価を、報告書に付け加えることに、一体どれだけの意味があるというのか*6

もう一つ指摘されている、「取締役の責任」についても、「問題のレベルが取締役の法的責任を問うような話ではない」ということは、報告書の中で、既に、暗に、表現されていることであるわけで、そこを「責任がない」と断言しなかったのは、それこそ“危機管理上の問題”に過ぎないということは、読む人が読めば分かる。

要は、今回の格付け委員の「評価」なるものは、一定のバイアスのかかった立場から、個別の「第三者委員会報告書」の位置づけを無視した“ないものねだり”の評価に過ぎず、押しつけがましいことこの上ないものになってしまっている、と言わざるを得ないのではなかろうか*7


本件も含めて、外部専門家が作成した「第三者委員会報告書」が、会社の描いた“収束シナリオ”に利用されることは多いし、そういった報告書の中には、「会社が利用するためだけに」作成されたようなものがあるのも確かだから、最低限の規律と、関わる人間の緊張感を保つために、「報告書」に対する第三者評価の機会が設けられること自体は、あっても良いと思う。

だが、評価された側からの対抗言論の機会が期待できない状況において、あたかも自らが“スタンダード”であるかのようにふるまい、「格付け」を行った結果をメディア等に大々的に報道させようとするのは、いささか“やり過ぎ”の感は否めない。

そして、人間というものは、ともすれば、自分たちのスタンスとは異なるものをあえて取り上げ、低い評価を与えて叩くことで、自らの存在感を誇示し、自らの主張の正当性をアピールしようとする存在である、ということも忘れてはならないと思われる*8

自分としては、今回格付けを公表した委員会以外にも、複数の「格付け」者が業界に登場し、一般人が複数かつ公正な評価を目にすることができるようになることが一番だと思っているが、(上品な人々が多い業界ゆえ(笑))それを期待するのが難しいのだとすれば、既存のこの「第三者委員会報告書格付け委員会」が、メンバーの人選はともかく、せめて、「評価対象として、なぜこの第三者委員会報告書を選定したのか?」ということを明確に公表することを、まずは望みたいところである*9

*1:http://www.rating-tpcr.net/wp-content/uploads/fccfdeac65688725d484784e82ca152d2.pdf

*2:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20131106/1384103308http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20131107/1384103399

*3:「危機管理のプロ」と評される一部の格付け委員の方々の立場からすれば、この問題が最大の関心事であることは良く理解できるにしても、そうであれば、「他人が書いた第三者委員会報告書の評価」という形ではなく、ご自身で資料を集めて分析されればよろしいではないか、と自分なんぞは思ってしまう。

*4:・・・というよりは妄想に近い。

*5:内容を見れば、メディアの報道がいかにバカバカしいものだったか、ということは分かるし、根拠のない“風評”によって、みずほFGの周辺の取引が混乱することも、避けることができる。

*6:ついでに言えば、そのあたりの事柄は、担当した社員の個人的な資質の評価にもかかわってくるものであるから、元々公表対象とすべき内容には馴染まない。

*7:切り口の違いがあるとはいえ、委員の評価が「C評価」、「D評価」に偏ってしまっているところにも、評価者側に一定の“バイアス”がかかっていることが疑われる。

*8:これはプロの評論家から、当ブログを含む(苦笑)個人ブログの類に至るまで、例を挙げればキリがないが、同じことをやるにしても、無名の匿名ブロガーがやるのと、社会的地位・名声がある人がやるのとでは、インパクトが全く異なる、ということには十分注意する必要があるし、“鑑賞”する側としても、大いに警戒する必要がある。

*9:次回は「リソー教育」の第三者委員会報告書だそうだが、なんでこれなの?というのが、HPの記載からは全く伝わってこない。

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