景表法が新時代に突入したことを象徴する答申。

景表法、と言えば、“偽装表示”問題で、昨年後半の法務業界の話題を独占し、今の国会でもその辺を受けた法改正がなされたばかり、という旬な法律なのだが、ここに来て、さらに、業界的には物議を醸している新制度導入の動きが進んでいる。

不当景品類及び不当表示防止法上の不当表示規制の実効性を確保するための課徴金制度の導入等の違反行為に対する措置の在り方について(答申)」
http://www.cao.go.jp/consumer/iinkaikouhyou/2014/20140610_toshin.pdf

消費者委員会が設置した「景品表示法における不当表示に係る課徴金制度等に関する専門調査会」において、今年の2月から6月まで僅か4ヶ月の間に計13回、と非常に急ピッチで行われた検討の結果、取りまとめられたこの答申。

ページ数自体はそんなに多くないのだが、冒頭に書かれた「消費者法としての景品表示法(1頁)というフレーズに象徴されるとおり、かつて公取委が所管していた時代とは大きく異なる制度設計思想に立脚した、消費者行政関係者サイドの思惑が強く込められたものとなっている。

以下、ざっと見ていくと、まず答申は、「課徴金制度導入の必要性」について、

「現行の措置命令は、違反行為者の不当な利得を剥奪するものではなく、経済的な観点からは違反行為の抑止機能を実効的に果たしているとはいえない。違反行為者に対して経済的不利益を賦課する課徴金制度の導入により、不当表示で顧客を獲得した事業者から不当な利得を剥奪することは、その抑止力により消費者被害発生の未然防止に有効であるばかりでなく、法令を遵守している事業者との公平が図られることにより健全な消費市場の構築にも効果を有すると考えられる。 したがって、不当表示を事前に抑止するための方策として、現行の措置命令に加え、違反行為者に経済的不利益を賦課し、違反行為に対するインセンティブを削ぐ課徴金制度を導入する必要性は高い。」(2〜3頁、強調筆者、以下同じ。)

と、一部で見られた慎重論を一笑に付すかのように、制度導入の「必要性」を力説する。

そして、続いて「制度の趣旨・目的」について、公取委所管時代の平成20年改正法案提出、廃案の経緯に言及した上で、「消費者庁に移管された」後の景品表示法の位置づけに鑑み、以下のように述べる。

「現行の景品表示法は、消費者による自主的かつ合理的な選択の確保を目的としており、同法に導入すべき課徴金制度の目的も、消費者の自主的かつ合理的な選択の確保のために、それを阻害するおそれのある不当表示を実効的に抑止することにあると考えるべきである。」(3頁)

そうはいっても、ここまでなら、「市場」というものを供給者の側から捉えるか、それとも需要者の側から捉えるか、という視点の切り替えだけで、実質的には公取委時代と同じ発想の制度に過ぎない、という評価もありうるだろう。

だが、今回の答申のキモは、さらにその先にある。

このように、課徴金制度は消費者の被害回復を直接の「目的」とするものではない。しかし、消費者法としての景品表示法の目的に鑑み、また、不当表示事案における被害回復が困難であることから課徴金制度の導入による抑止の必要性が高いと判断したこと、剥奪すべき違反行為者の不当な利得は被害者の出捐に由来するものであること等も踏まえ、この制度を消費者の被害回復にも資するものとすることは重要である。このため、要件・手続等の検討に際しては、被害回復の観点にも留意した。」(3頁)

結論を先取りするならば、「被害回復の観点にも留意した」といっても、その仕組みは、

「その手法としては、課徴金納付命令に際し、違反行為者がとった消費者への返金等の自主的対応を勘案して、課徴金額から一定額を控除する制度を採用すべきである。本来、課徴金により剥奪すべき違反行為者の不当な利得は被害者に還元されるべきものであるところ、違反行為者が得た不当利得を自ら消費者に還元した場合に、これを課徴金の賦課に当たって考慮することとすれば、課徴金制度の抑止効果を維持しつつ、被害回復を促進できると考えられるからである。」(9〜10頁)

という、一種の損益相殺的な規定を設ける*1レベルのものにとどまっており、そんなにドラスチックな規定になっているわけではないのだが、これまで一緒こたに評価されることも多かった「課徴金」の世界に、新しい着想を持ち込むものであることは確かなわけで、立法後の運用と合わせて注目すべきところだといえるだろう。

事業者側には厳しい(?)ルール

さて、上記のとおり「消費者保護法としての景表法」というスタンスを明確に打ち出したこの答申においては、具体的な要件についても、事業者側にとって、相当優しくない内容になっている。

規制対象の実質の相違ゆえ、「優良誤認表示」、「有利誤認表示」と並べて一律に課徴金賦課処分を課すことに議論があった「不実証広告」については、

「課徴金賦課処分において不実証広告規制の手法を取り入れるに当たっては、この違いを踏まえ、措置命令に関する第4条第2項とは別に、効果・性能に関する表示について事業者から一定の期間内に合理的根拠資料の提出がなければ課徴金を賦課することとした上で、被処分者の正当な利益を保護する観点から、被処分者がその後の訴訟において合理的な根拠資料を提出して不当表示でないことを立証することにより、賦課処分について争うことができるものとする手続規定を設けるべきである」(5頁)

として、手続き面での一定の配慮がなされた。

しかし、最大の争点の一つである「主観的要素の要否」については、

「課徴金を賦課する要件としての主観的要素の要否については、不当表示の抑止という制度目的に照らして違反行為者に課徴金を賦課すべきと考えられる程度の主観的要素が必要であるとの基本的認識に立ちつつ、不当表示がなされた場合においては原則として課徴金を賦課することとし、違反行為者から、不当表示を意図的に行ったものではなく、かつ、一定の注意義務を尽くしたことについて合理的な反証がなされた場合を、例外的に対象外とすれば足りる。」(6頁)

として、公取委時代の平成20年改正案で採用されていた「故意・重過失」を要件とする考え方を採用しない方針が明確に示されている。

この論点に関して一番問題になるのは、「小売業者が仕入先の表示をそのまま信じて販売したら優良誤認表示だった」というタイプの事案で、小売業者に対して「その商品を売るな」というだけであればともかく、課徴金まで課すのはいくら何でも酷いだろう、というのが、「主観的要素」必要論者の主張だったはずなのだが、今回の答申は、6頁の脚注において、

軽過失か重過失かの認定は民事裁判実務においても困難である場合が多く、認定主体が行政機関であって、かつ迅速性が要求される賦課手続において重過失を要件とすれば、課徴金を賦課することが困難になる。また、例えば、仕入れ先からの情報の誤りを把握できなかったような場合に問題となるのは重過失ではなく過失の存否であり、仕入れ先に対し社会通念に照らして必要とされる確認を行ったにもかかわらず誤解させられたのであれば軽過失もないと考えられ、重過失による線引きには実質的な意味はないと考えられる。」(6頁・脚注9)

と述べて、主観的要素必要論を一蹴している*2


今回の答申がこのような方向性となった原因が、本答申を出した消費者委員会傘下の専門調査会のメンバー構成にあるのか*3、それとも他のところに由来するのかは分からないけれど、このままことが進めば、装いを変えた景表法が、規制当局にとっても(そして、一般消費者にとっても)、大きな武器になるのは間違いないわけで、今後の立法プロセスと合わせて注目したいところである。

*1:具体的には、「消費者への返金」や「寄附」を行った場合に、課徴金額が減額されることになる。

*2:個人的には、ここで挙げているような場合でも「過失があるかないか」というゼロか一かの話だけではなく、「重過失かどうか」という評価を入れる余地はあるのではないか、と思うし、立証責任を課徴金賦課処分を受ける側に全面的に転嫁することがフェアだとは決して思わないのだが、ここでは問題点の指摘だけにとどめることにしたい。

*3:今回の専門調査会は、この種の法改正においては珍しく、産業界の代表者がメンバーに入っていない。答申では「事業者からのヒアリング」を多数回行ったことが強調されているが、調査会に消費者側の委員が何名も入っていることを考えると、やはり、事業者側のメンバーを入れて議論した方が良いのではないか、という気がしてならない。