埋まらない最後の1ピース。

日本中が「ここで勝つしかない」という煽りに乗せられたまま、キックオフの時を迎えたグループリーグ2試合目のギリシャ戦。

早めに出勤して、職場のテレビで戦況を見守った人もいれば、出勤時間を遅らせて最後まで自宅でテレビにかじりついていた人もいただろうけど、結果だけ見れば、0-0のスコアレスドロー。試合前に散々打ち鳴らされた“希望の鐘”は、試合終了の笛とともに、絶望の溜息に変わってしまった・・・そんな後味の悪い試合だった。

冷静に試合の内容だけ振り返れば、日本代表の長い歴史の中でも、決して悪い部類に入る試合ではなかったと思う。

前半、カウンターに色気を見せるギリシャ攻撃陣を手堅い守備で封じ、数少ない相手側の決定的場面も、GK・川島選手が好セーブでカバー。
その一方で、サイドバックの内田、長友両選手が果敢に攻め上がり、初戦に比べれば遥かに軽快なボール回しで、ギリシャ陣の空いたスペースを何度となく切り裂きにかかる。ゴールこそ奪えなかったものの、リズムを乱したギリシャが退場者を出すなど、試合の流れも確実に日本に来ていた。

この試合で始めて先発した大久保選手も、今野選手も、役割はかなり明確で、しかも期待通りの良い働き。
相手が一人少なくなったのを見計らって、後半開始から遠藤選手を投入し、精度の高いパスサッカーにより磨きをかけて攻め立てたあたりも、ゲームプランとしては完璧に近い形でハマっていたと思う。

その結果が、W杯の試合としては、日本代表史上最高の「ボール保持率68%」という驚異的な数字。放ったシュートも相手の倍近い16本。

いかに堅い守備を信条とするギリシャといえども、あれだけボールを回されて守らせ続けられれば、体力も必然的に消耗するわけで、試合終盤の相手DF陣は、攻撃に頭を切り替える余力が一切ないと思われるくらいフラフラの状態になっていた*1

アジア予選レベルの試合でもなかなか見たことがないようなワンサイドゲームを、わが日本代表がW杯の舞台で演じる日が来るなんて、手も足も出ないまま3連敗を喫する姿を指をくわえたまま見ているほかなかった16年前には、想像すらできなかったことだ。


もちろん、“だからこそ”結果も伴わせて欲しかった、というのはある。

どんなに圧倒的な試合をしても、「勝ち点3」が手に入らなければ、僅か3試合しかないW杯グループリーグの舞台での戦い(しかも初戦黒星でスタートした後の2戦目での戦い)としては“失敗”の部類に入ってしまうし、それ以上に、日本にいる多くの人にとっては、「0-0」なら2006年のクロアチア戦も、2010年のパラグアイ戦も、そして、今回の試合も「同じもの」という見方にどうしてもなってしまう。

とかくこういう時に自虐的になりがちな国民性と、手のひら返しが得意な一部の通好みのメディアの影響で、あちこちで「ほれ見たことか」とか「やっぱり弱いじゃねーか」的な、嘲笑と怨嗟の声が湧きあがっているのを見るのは、(ある程度理解はできる心情とはいえ)これまでのプロセスを考えると、ちょっと寂しいものがあるなぁ、と思うだけに、“トドメの一点”が奪えなかったことが、つくづく惜しまれてならない*2


勝ち点1を取って、まだ最終戦に決勝トーナメント進出の可能性を残しているとはいえ、それはあくまで机上の話。

ギリシャコートジボワールに勝ってくれる、という可能性は否定しない*3が、少なくともここ2試合を見る限り、今のコロンビアに日本が勝つのは、トーナメントに上がってくる他のチームに1つ勝つよりも難しいのは明らかだと思う*4

それでも、今の日本代表には、相手が文句なしの世界の一流チームだからこそ引き出される“何か”が、まだ残っていると自分は信じているし、たとえ「グループリーグ敗退」という結果で終わったとしても、将来、日本のサッカーの歴史を振り返った時に、一つのトピックとして語り継がれるような“何か”が見られれば、一観戦者としては十分。

あとは、願わくば、敵将ぺケルマンが、「この先4年間、このチームの面倒を見てみたい」と思うような試合ができれば言うことなしなのであるが・・・*5

*1:まるで、コートジボワール戦の日本の姿を鏡映しにしたような試合だった。

*2:窮地に立たされたギリシャの“最後の一枚”の守備が、アジア予選で対戦している格下のチームとは比べものにならないくらい堅かったことに加え、肝心の日本代表の方にも、“トドメ”の一点を奪うための1ピースが欠けていたのは確かで、ダイジェストで繰り返し放映されている「惜しい場面」(大久保選手や内田選手がシュートを外したシーンや、本田選手、遠藤選手のフリーキックのシーンなど)以上に、ここに香川、岡崎といった選手たちが1,2歩先まで飛び込んできてくれていれば・・・という場面がこの試合ではあまりに多すぎた。肝心なところで選手交代枠を余してしまったことや、初戦に続いての不可解な“パワープレー”で、ザッケローニ監督が、平時では優れた戦術家ではあっても、戦場で輝く「勝負師」ではない、ということも、白日の下に晒されてしまった。その辺が批判の対象となるのは、理解できるところもあるのだが、だからといって、代表チームのこれまでの歩みそのものを否定してしまうようなコメントがあふれているのは、正直、どうかと思う。

*3:コートジボワールのディフェンスの弱さはこれまでの2戦で証明済みで、ギリシャに蟻地獄のようなねちっこい守備を90分続け、隙あらば速攻でカウンターをかけるような余力がまだ残っていれば、勝機は十分にあるような気がする。

*4:小気味良い攻撃のリズムといい、テレビ画面を見ているだけでも伝わってくるチームのまとまりの良さといい、コロンビアは今や、今大会屈指の好チーム。いかにベスト16進出を決めた後の消化試合だといっても、7分の力で日本を粉砕するだけの力は持っている。

*5:2010年のW杯終了後、岡田武史監督の後任探しの際に、この稀有な名将の名前がメディアに踊ったのは記憶に新しい。この監督が率いた2006年W杯アルゼンチン代表のグループリーグでの戦いぶりがあまりに見事だっただけに(最後は惜しいPK戦で、準々決勝で散ることになってしまったのだが・・・)、まだ「次」の可能性があるなら、日本協会にはぜひチャレンジしてほしいものだと思っている。