徹底的なリアリズムの先にあるもの。

名実ともに、“世界最高峰”と称するにふさわしい戦いの舞台となっているブラジルW杯2014。
フットボールの美しさと残酷さを思う存分堪能できた幸福な日々も、残りあとわずか。

グループリーグから決勝トーナメントの1回戦くらいまで続いていたいかにも南米の大会らしい華やかな戦いは、準々決勝あたりから影を潜め、4強間の対決となるに至って、遂に“華”とは真逆のところに行き着いてしまった感がある。

先に行われたブラジル対ドイツの試合はまだきちんと通して90分見られていないのだが、ネイマールとチアゴシウバを欠くブラジルに対して、「冷徹」という言葉がぴったりとハマるような正確無比なパスワークと、相手のミスを一瞬たりとも見逃さないシンプルな速攻の連続でゴールを浴びせ続けたドイツの選手たちの姿は、いかにも・・・な、徹底したリアリストの姿そのものであった。

開催国が相手だからといって、前半は向こうの出方を見ながら・・・などという悠長なことは決してしない。

ミュラーの先制点によってバランスを失い、クローゼの追加点によって完全に混乱に陥ったブラジル守備陣の心理状態を見透かすかのように、一気にスイッチを入れて集中力を高め、現代サッカーにおいてはほぼ挽回不可能な、「5」という点差を前半のうちに付けてしまう。

コロンビア戦の後半の日本代表のように、ビハインドを取り返そうとして前がかりになったところをカウンターで狙われてズタズタにされる、というのは良くある話だが、この試合に関しては、少なくとも得点シーン前後の映像を見る限り、自陣ゴール前の人数では、ブラジルも、相手チームの攻撃の枚数とそんなには違わないように見えた。

違ったのは、双方の選手たちのメンタルで、ドイツ攻撃陣の選手たちが落ち着いてボール回しをする一方で、ブラジルDF陣は、肝心なところで寄せることができず、自分が本来いるべきポジションも取れず、その結果、ターゲットになりそうな選手のマークもガラガラ。
そもそも、ブラジルが自軍のキックオフでゲームを再開してから1、2分も経たないうちに、相手にボールを渡してしまっていて、相手陣内の奥深くまで攻め込む、という「前がかりな状況」を作る以前に、ドイツの選手たちに、あっという間に決定的な場面まで持ち込まれていたのだ。

そんな悪夢のようなデジャブを何度となく繰り返した結果が世紀の大惨事・・・。

相手が開催国、かつ、長い歴史を誇る伝統国であることを考えれば、多少は流すことを考えてもよさそうなものを、後半に入っても、投入されたシュールレが、相手の必死さを嘲笑うように2得点でダメ押し。

最後の最後で、エジル選手が“勝者の驕り”をちらり見せたことで、オスカル選手に一矢報いさせる結果となったが、「7点取られた後の1点」という結末が、かえってこの試合の残酷さを際立たせてしまったような気がする。


一方、準決勝2試合目のアルゼンチン対オランダは、世界的大スターに支えられた攻撃力にこそ定評あれど「守備に課題あり」と言われていた両チームが、徹底した現実主義の下、“守り合い”に総力を結集したことで、稀に見る緊張感あふれた試合になった。

歴戦の疲労もあってか、これまで爆発的な攻撃力を誇っていたロッベンファンペルシー、スナイデルといった選手たちに、今一つ元気がなかったことは否定しない*1
アルゼンチンはアルゼンチンで、ディマリア選手の欠場が、単なる攻撃の選手1枚が欠けたという以上の、攻撃の“穴”になっていた。

だが、それ以上に、DFの選手たちの存在感、特にアルゼンチンDF陣の存在感は際立っていた。

PK戦にもつれ込みさえしなければ、確実にマン・オブ・ザマッチに輝いたであろうマスチェラーノ選手をはじめ、ガライ、ロホ、といった、決して欧州でもメジャーではない部類に入る選手たちが、盾になって、何度となくオランダの攻撃を弱々しいものに変える。
この日はPK戦でヒーローになったものの*2、GK・ロメロ選手の守備は、お世辞にも安定感がある、とまでは言いづらいだけに、試合を徹底的につまらなくしてでも、シュートらしいシュートをほとんど打たせなかったこの日のアルゼンチンDF陣は、リアリズムに徹して勝つための最善の策を実行した選手たちだったように思えてならない。

そして、試合後の論評では、「アルゼンチンよりもオランダの方がまだ攻撃的だった」として、勝者の側に厳しいコメントが目立っていたが、個人的には、ひとたびメッシ選手にボールが渡った時のドキドキ感は、オランダのどの選手も醸しだしていなかったように思えるだけに、この日の結果は、決して「不思議の勝ち」ではなかったと思っている。


準決勝が終わって、とうとう残すは2試合、となった。

いつもなら間が抜けた感じになる3位決定戦も、今年は、世紀の大敗を喫したブラジル代表が祖国の誇りを賭けてどう戦うのか、という他国の人間にとっては極めて意地の悪い関心の対象になっているし*3、決勝戦に至っては、過去決勝での対決が1勝1敗、とがっぷり四つのアルゼンチン対ドイツだから、スコアはともかく内容的には面白い試合にならないはずがない。

決勝トーナメントの2試合目以降、ここまで徹底的にリアリズムを追求してきたのだから、最後の1試合くらいは、もう少し“祝祭”的なムードが混じっても良いかな、と思うのであるが、ここから先の結果は、神のみぞ知る。

最後の最後のステージに来て、「朝、早起きしてよかった」と言えるような試合が見られることを、今はただ、願うのみである。

*1:特にロッベン選手は、いつになく“お行儀よく”プレーしていたような印象すら受けた。前の試合からそんな傾向はあったから、メキシコ戦での“ダイブ批判”も影響していたのかもしれないが。

*2:もっとも、このPK戦の結果は、前の試合で蹴っていないフラール選手に一人目を任せ(せっかくPK戦を一度経験している、という優位性があったのに、それを生かせなかった)、前の試合でPK戦に備えて交代させる、という屈辱を味あわせたゆえに、シレッセン選手に過剰なプレッシャーをかけてしまった、というファンハール監督の采配ミスによるところも大きい。策士策に溺れる・・・という言葉がこれほどぴったりはまる試合もなかなかないと感じた。

*3:準決勝と同じような戦いをすれば、ドイツ以上に攻撃力のあるオランダの餌食になるのは目に見えているのだが、そこはチアゴ・シウバ主将が戻り、気持ちを入れ替えて戦うことで、何か変わってくるところもあるだろう、と思っている。

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