内閣改造の話題が世の中をにぎわす中、突如として日経朝刊の1面に、「ビジネス裁判所」なる見慣れない見出しが躍った。
「最高裁は2021年をメドに、知的財産や破産などビジネスに関連した訴訟を専門に扱う裁判所庁舎を東京都内に新設する。東京・霞が関にある知的財産高裁や東京地裁の担当部門を移転。「ビジネス・コート」と位置付け、遠隔地の法廷と結ぶテレビ会議などの設備も充実させて訴訟の迅速な処理につなげる。」（日本経済新聞2014年9月3日付朝刊・第1面、強調筆者）
「15年度予算の概算要求に盛り込んだ」というが、当の最高裁のHPに掲載されている概算要求の概要には、何ら関係する記載はないし*1、他に公式の発表がなされているわけでもない。
「日経新聞の1面にしか載らないニュースは信用するな」という格言に従うならば、流しても差し支えない程度の記事であろう。
だが、その割には、妙に生々しい情報まで掲載されているのが、今回の記事の特徴でもある。
「新庁舎の名称は「東京高地裁中目黒分室」。東京・中目黒にある関東信越厚生局の庁舎跡地（敷地面積約8千平方メートル）に、延べ床面積約1万5千平方メートルの大規模庁舎を建てる計画。」
「新庁舎には、特許権や著作権、不正競争防止事件などを扱う知財高裁に加え、東京地裁から▽知的財産部▽株主代表訴訟や会社更生手続きなどを主に扱う商事部▽民事再生手続きや破産手続きを扱う破産部‐が入る予定」（同上）
確かに中目黒の「関東信越厚生局庁舎跡地」は、厚労省の遊休資産リストの中にも上がっている*2し、民間で開発するには微妙な立地、ということを考えると、国家機関の施設として転用されても不思議ではない。
そして、「ビジネス・コート」と呼ぶかどうかはともかく、現在の「知財高裁・東京地裁知財部」の本庁内での微妙な位置付けや、既に商事部、破産部が、物理的に本庁舎外（簡裁・家裁庁舎）に移ることを余儀なくされている状況に鑑みると、これらの部門を一気に一箇所にまとめてしまえばスッキリする、という「動機」も、総務周りにかかわった経験のある者としては、非常に良く理解できるところである。
だとすると、案外、この「分室」構想の実現性は高いのかもしれない・・・。
自分は、「裁判所」が、「行政府」の拠点である霞が関の一角に置かれている必要はないと思っているし、むしろ、より交通の便が良い東京駅前や大手町、あるいは品川、新宿、といった場所に移す方が、ユーザー*3のニーズに沿うのではないか、と思っているクチで、スペースさえ確保できるのであれば、「分室」と言わず、本庁舎ごと思い切って移転しても良いのではないか、とすら思っている。
そういう意味では、今回出た話が、一般市民には比較的縁が薄い部門*4を対象とするもので、しかも移転先が「中目黒」である（かつ、駅から若干離れている）、ということに対しては、少々思うところもあるのだが、これまで、東京の裁判所の配置が明らかに23区の東寄りにシフトし過ぎていて*5、それにつられて東京圏の法律事務所の配置も東寄りになっていたことを考えると、多少なりとも偏りを「是正」する、という観点から、こういう拠点の散らし方も、全く無意味とは言えないのかもしれない。
お世辞にも“喫緊”とまでは言い難い施策で、しかも、「目標」が既に5年も先、ということになると、（仮にこの話が概算要求事項に入っているとしても）一体いつ実現するのか疑わしい、というところは正直あるのだが*6、この類の“風評”が、「知財をやるなら東京の西側へ」的な新しい動きを引き起こすようなことになれば、面白いのになぁ・・・と、個人的には思っているところである。
*1:http://www.courts.go.jp/about/yosan_kessan/27yosan/index.html
*2:http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000x8lf-att/2r9852000000x934.pdf
*3:ここで言うユーザーは、「弁護士」ではなく、あくまで一般の市民である。そして、「霞が関」という場所は、東京に住んでいる人間にとっても、お世辞にもアクセスしやすい場所とは言えない。
*4:まぁ、自己破産申立の関係等もあるので、破産部は比較的なじみがあるほうなのかもしれないが、それ以外の部に世話になる一般市民は多くはないと思われる。
*5:本庁舎＋簡裁墨田庁舎。一応、執行センターは目黒区内に置かれているが、明らかにユーザーアンフレンドリーな立地になってしまっている。
*6:東京五輪を挟んで、日本の財政状況がどうなるか、というところも読めない状況だけに、2020年をまたぐプロジェクトの実現性、というのは、一般論としても、疑ってかかった方がよいと思う（苦笑）。
