予定調和的な「合格者減」と、その先にあるより深刻な問題。

合格発表のシーズンを迎えるたびに、「問題点の指摘」が紙面を飾るようになってしまった悲しき「(新)司法試験」。
そして、今年も「合格239人減」と「合格率大幅低下」という結果だけが強調される状況になってしまった。

法務省は9日、2014年の司法試験に1810人が合格したと発表した。昨年より239人減り、06年以来8年ぶりに2千人を下回った。合格率は4.2ポイント減の22.6%で、現行試験が始まった06年以降で最低だった。」(日本経済新聞2014年9月10日付朝刊・第42面、強調筆者)

とはいえ、冷静に考えれば、既に「合格者増」の目標は白紙撤回されており、むしろ「合格者数引き下げ」の圧力が随所からかかっている上に、試験の出願者数自体が毎年1000人ペースで減少している状況だから、合格者数が約1割減った、という事実そのものにはそんなに意外感はない*1

また、司法試験法が改正され、「受け控え」のメリットがなくなった*2ことで、昨年、一昨年と約2,500人程度に上っていた「出願したけど受験しなかった」法科大学院修了者の数が、今年は1,000人ちょっとに減っている。そのために、見かけ上の合格率の数字はやや大きめに下がっているのだが、実に75%以上が合格した東大既修者のように、上位校の一部カテゴリーの中にはむしろ合格率を上げたところもあり、「実力のある上位校の修了者が順当に合格する」という傾向が、そんなに大きく変わっているようにも思えない。

日経紙の記事では、昨年同様、受験者全体と「予備試験組」との比較を試みており、

法科大学院を修了しなくても受験資格を得られる『予備試験』経由の合格者は163人、合格率は66.8%で、どの法科大学院よりも高かった。」(同上)

と、あたかも「予備試験ルートの受験者の合格率が、法科大学院平均よりも高いこと」が、何か特別な意味を持つかのような取り上げ方をしているのだが、「予備試験組」というのは、旧司法試験と同じ「短答」、「論文」、「口述」という“ガチンコ三段階審査”を経て受験資格を手にしている人々なわけだから、合格率が跳ね上がるのは当然の話である。

しかも、予備試験組が163人合格している、といっても、内訳をみると、

大学生 受験者50名 最終合格者47名
法科大学院生 受験者78名 最終合格者72名
無職  受験者50名 最終合格者21名
会社員その他 受験者66名 最終合格者23名

と、昨年*3に輪をかけて、大学生・法科大学院生の合格者占有率が高くなっている*4

要は、「法科大学院ルート」から全くかけ離れたルートで最終合格までたどり着ける受験生、というのはまだまだ少数なのであって、好むと好まざるとにかかわらず、「法科大学院」というものに何らかのかかわりを持たないと法曹へのパスポートを手に入れることが困難であることにかわりはない、というのが、上記の合格率の数字が物語る現実であろう*5

そして、客観的に見れば、

法科大学院 → 新司法試験 → 司法研修所 → 法曹」

という制度設計者が描いた、「新しい法曹養成プロセス」自体は、ほとんど揺らいでいない、というほかない*6


おそらく、今年の試験結果を受けて、また、「予備試験の受験資格を制限するかどうか」とか、「司法試験の科目数を減らすかどうか」といった、「既存の法曹養成プロセス」の中での制度見直しをめぐる議論が、激しく戦わされることになるのだろう。

だが、これまで、このブログの中で何度も言及してきたとおり、今の法曹養成システムが直面している最大の問題は、

「そもそも法曹を目指す人が減ってしまった」

というところにある、と自分は思っている。

法科大学院の受験者と予備試験受験者を単純に合計しても*7、ピーク時の旧司法試験の受験者数の半分にも満たない、という今の状況が変わらない限り、法律家の世界の裾野は狭まっていくばかりなのであって、小手先の試験制度の見直しにいかに注力したところで、そのような傾向に簡単に歯止めがかかるとは考えにくい。

若年者の人口が減っていき、業種、業界を超えた「優秀な人材の奪い合い」現象が既に始まっている中で、どうやって業界に人材を繋ぎ止め、裾野を広げていくのか・・・

時間をかけて議論をすることは、大いに結構なのだけれど、議論するポイントを間違えないでほしい、というのが、業界を外からも、内からも見てきた者としての、率直な思いである。

*1:むしろ、目標が撤回された直後の昨年の試験での減り幅が小さかったことの方が意外だった。

*2:受験可能期間の間は、毎回試験を受けることができるようになった。

*3:昨年の実績については、http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20130911/1379266546参照。

*4:ちなみに、この区分は、試験の前年度の出願時点における所属であり、「大学生」のカテゴリーで出願した受験者の中には、司法試験受験時に法科大学院に所属している者も相当数いると思われる。

*5:もちろん、「法科大学院における教育」に絶対的な重きを置く人々にとっては、本来であれば「所定の年限の間、じっくりと勉強してから受験すべき」という発想で作られている試験制度に「バイパスルート」で挑戦しようとする者が増えていること自体が問題、ということになるのだろうが、後述する「潜在的受験者層の減少」という最悪の事態に比べれば、100名超の「バイパス組」の存在など、本来取るに足らない話ではないかと思う。

*6:学部在学中に予備試験に合格した場合に、法科大学院に進学せずに留年するか、あるいは、1〜2年無職で頑張る、という選択をする受験生もいるかもしれないが、社会的身分が不安定になることは否定できないし、逆に、就職してチャレンジする、という道も、今の合格率に鑑みるとそう簡単ではないように思われる。そもそも、「予備試験」にパスして、法科大学院の受験資格を得ること自体が相当狭き門であることを考えると、実際には、「予備試験」の存在が、法科大学院進学者を大幅に減らすことは考えにくい。

*7:当然ながら、両方とも受験している、という人は決して少なくないと思われる。

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