北大の田村善之教授が、若手の実務家と共著で「新司法試験対策本」として世に出された「ロジスティクス知的財産法」シリーズ。
2年前に世に出された「特許法」*1に続き、今年の春には第2弾として、「著作権法」も公刊されている。
- 作者: 田村善之,平澤卓人,高瀬亜富
- 出版社/メーカー: 信山社
- 発売日: 2014/04/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ちょうど入手した時期が、今年の新司法試験直前だった、ということもあり、知財法選択の受験生の心を惑わしてはいけない、という思いから、当ブログでの紹介を差し控えてきたのだが、合格発表も終わり、これから来年に向けて動き出す時期、ということもあるので、「捲土重来のために、本書をラインナップに揃えるかどうか迷っている」受験生の便宜も兼ねて、ここで簡単にご紹介しておくことにしたい。
変わらないコンセプトと構成の美しさ
大量に書店に並ぶ類書との差別化を図る(?)という趣旨もあってか、引き続き「受験本」という看板を掲げている本書だが、「特許法」の時と同様に、コンパクトにまとめられた各章の記述の中に、一流の概説書にも引けを取らないような充実した解説が盛り込まれている、というコンセプトには何ら変わりがない。
もちろん、「試験対策」が第一に来る、ということから、司法試験に出題されにくい「類似性」のような論点については、比較的ボリューム抑え目の記述になっているのだが(本書26頁参照)、それでも、「全体比較か部分比較か」とか「本質的特徴の直接感得性の基準について」といったような、最新の裁判例を踏まえた議論等までフォローされており(29〜31頁)、全くもって侮れない内容になっている。
直面した論点に対して、どの条文のどの要件をあてはめていくのか、という基本的な“操作”方法と、それによって発生する効果も、図解等を交えながら非常にわかりやすく解説されているし、その過程での論証も、(ところどころに田村説のエッセンスは盛り込まれているものの)極端な偏りを感じさせない、書きやすい「ブロック」にまとめようとしている努力をした跡が良く現れているのではないかと思う*2。
そして、本書全体の「構成」は、というと、これは特許法以上に美しい。
「著作物性」、「依拠」、「類似性」という、侵害訴訟における判断の基本の部分を最初に抑えた上で、「法定の利用行為」の章で、主要な支分権該当行為についての解説を行い、「著作権の制限」の章で、各権利制限規定の解説を行う。さらに、存続期間、著作権の帰属(職務著作等を含む)、著作者人格権を解説した上で、最後に「美術」、「建築」、「設計図」といった例示された著作物の種類ごとに特則を補足する・・・
ということで、頭から読むにしても、つっかえたところの“助け舟”として引くにしても、実に使いやすい構成になっている。
もちろん、これは、著作権法の構成が元々そうなっているから、ということでもあるのだが、見出し、小見出しの作り方ひとつとっても、使いやすさをかなり意識していることは、明らかに見て取ることができるので、ここは是非一度、実際に使ってみることをお勧めしたい。
「試験対策」以上に、実務で使えるのではないか、と感じた理由。
さて、ここまで書いたところで、「試験対策本」としての本書の魅力は十分に伝わったと思うのだが、同時に、既に指摘した本書のコンセプトや構成の優れた点は、企業実務の担当者が知識を整理し、確認する、という目的で使う際にも、当然生かせるものである*3。
特に、「論証ブロック」を中心に、試験における“解答作成技法”が強く意識されていたように思われる前作と比べると*4、今回の「著作権法」は、「論証ブロック」こそ存在しているものの、本文の記述は補充的な記述等はむしろ概説書のそれに近いところがあり、それゆえ、実務において用いる上では、より違和感なく使えるものであるように思えてならない*5。
いずれ本格的な概説書が出版されるまでのつなぎ、ということになるのかもしれないけれど、少なくとも今の時点では、有力な概説書にかわり得る一冊、として、推薦するだけの価値は大いにある・・・自分はそう思っている。
*1:内容については、http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120402/1333390055参照。
*2:「利用行為の主体」のように、見解が分かれ得る論点については、「差止請求の実効性に着目した論証」と「違法行為転換機能に着目した論証」の2パターンを用意しており、そういった点のバランスも良い(67〜68頁)。
*3:このことは本シリーズの「特許法」に対するコメントの際にも、指摘させていただいたところである。
*4:随所に登場する、「答案政策としては・・・」といった類の記述は、まさに“技法”を意識したものであった。
*5:一方で、「受験用のテキスト」としては、多少説明が“厚い”と感じるところがあるかもしれないが、元々議論が複雑に錯綜していることも多い著作権法ゆえ、ある程度の丁寧さはが必然的に伴うことになるし、自分の頭でさらに本書の記述を整理するくらいのプロセスを踏まないと、なかなか頭にも入ってこないのではないだろうか。