昨年の“偽装表示”問題以降、一気に見直しの機運が高まり、今年に入ってからは不当表示等に対する「課徴金」導入も視野に入ってきている景品表示法。
このブログでも、何度か紹介してきているところであり*1、我らが日経新聞でも、ほぼ定期的(?)に、そして、より問題の深刻さを強調する記事が掲載されるようになってきている。
9月15日付朝刊の法務面(第15面)に、「不当表示防止 企業手探り」という見出しで掲載された記事でも、まさに「課徴金制度導入前夜」という雰囲気を前面に押し出して、不安に駆られる企業の現場サイドの状況が伝えられており、それはそれで、意味のあることだと思う。
だが、実は、「課徴金制度」の話は、つい先日制度骨子が公表され、これから立法に向けた手続きに入るという代物に過ぎない*2。
そして、上記記事もそうだが、実は目の前(本年12月1日)に施行日が迫っている、「不当景品類及び不当表示防止法等の一部を改正する等の法律(平成26年法律第71号)」への対応、という視点が、景表法に関する展望が議論される中で抜け落ちがちになっているのが、気になるところである*3。
平成26年改正法に埋め込まれた事業者の「義務」
今年の国会で成立し、12月に施行予定の改正内容について、巷では以下のような説明がされることが多い。
「従来の措置命令については、都道府県も直接発動できるように先行してルールが変わる。」(日本経済新聞2014年9月15日付朝刊・第15面)
日経紙は法案成立を報じる記事でも、
「改正景表法では、不当表示への対応を迅速化するため、不当表示をしている業者に対し、これまで消費者庁に限られていた、再発防止などを求める措置命令を都道府県も出せるようにする。経済産業省や農林水産省などが、それぞれ所管するホテルや飲食店、百貨店などを調査できるようにもする。」(日本経済新聞2014年6月6日付夕刊・第12面)
といった解説をしており、こういった記事を読み続けて、専ら「消費者庁の権限の地方への委譲」だけが、今回の改正の内容なのかな?と、思った人(自分もそう)は少なくないだろう*4。
しかし、改正法の内容(http://www.caa.go.jp/region/pdf/hutou_houritsu.pdf)をよく見ると、新設される第7条に、以下のような内容が盛り込まれていることが分かる。
(事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置)
第7条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、景品類の提供又は表示により不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害することのないよう、景品類の価額の最高額、総額その他の景品類の提供に関する事項及び商品又は役務の品質、規格その他の内容に係る表示に関する事項を適正に管理するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じなければならない。
2 内閣総理大臣は、前項の規定に基づき事業者が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(以下この条において単に「指針」という。)を定めるものとする。
3 内閣総理大臣は、指針を定めようとするときは、あらかじめ、事業者の事業を所管する大臣及び公正取引委員会に協議するとともに、消費者委員会の意見を聴かなければならない。
4 内閣総理大臣は、指針を定めたときは、遅滞なく、これを公表するものとする。
5 前二項の規定は、指針の変更について準用する。
(指導及び助言)
第8条 内閣総理大臣は、前条第一項の規定に基づき事業者が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要があると認めるときは、当該事業者に対し、その措置について必要な指導及び助言をすることができる。
(勧告及び公表)
第8条の2 内閣総理大臣は、事業者が正当な理由がなくて第7条第1項の規定に基づき事業者が講ずべき措置を講じていないと認めるときは、当該事業者に対し、景品類の提供又は表示の管理上必要な措置を講ずべき旨の勧告をすることができる。
2 内閣総理大臣は、前項の規定による勧告を行つた場合において当該事業者がその勧告に従わないときは、その旨を公表することができる。
要するに、事業者には、「景品の提供及び表示に関する事項を適正に管理」するための「体制整備その他必要な措置」を講じる義務が課されることになり、それが講じられていない場合には、行政指導に加え、「勧告」や「事業者の公表」の対象となる。
そして、さらに驚かされるのは、この改正法では続く第9条も改正されていて、これまで「措置命令」を出すために必要がある場合にのみ認められていた「報告の徴収や立入検査」の手続きの対象に、
「前条第一項(注:第8条の2)の規定による勧告を行う」
場合も含まれることになっているのである。
こうなってくると、事業者にとっては、「体制整備等違反」のインパクトが「措置命令」と同等のレベルにまで高まることになる。
さすがに消費者庁+出先機関+都道府県のリソースをすべて投入しても、平時に事業者の「体制整備その他必要な措置」をくまなくチェックできるほど、当局に余裕はないと思うのだが、「違反行為」に関する消費者等からの申告を契機として、事業者への調査が行われる過程で、
「表示の内容については、優良誤認、有利誤認で措置命令を出せるほどのレベルではない(せいぜい行政指導レベル)。」
「だが、聞き取りを行ったところ、「体制整備その他必要な措置」が講じられていないと認められるので『勧告』する。」
といった、事業者側にとっては悪夢のような事態が起きないとは限らないのである*5。
「指針(案)」がもたらすプレッシャー
もちろん、昨今の情勢に鑑みれば、それなりの規模のしっかりとした事業者であれば、「景品」にしても、「表示」にしても、景表法の地雷を踏まないように、一定のチェックを行うような体制は当然整えているはず。
しかし、既にパブコメにかけられた前記第7条第2項に基づく「指針」案(http://www.caa.go.jp/representation/pdf/140808premiums_1.pdf)の内容は、
「従来から景品表示法を遵守するために必要な措置を講じている事業者にとっては、本指針によって、新たに、特段の措置を講じることが求められるものではない。」(指針1頁)
という記載とは裏腹に、「景表法の周知・啓発」から、「表示等に関する情報の確認・共有」体制、そして、
「表示等に関する事項を適正に管理するため、表示等を管理する担当者又は担当部門(以下「表示等管理担当者」という。)をあらかじめ定めること。」(指針4頁)
という人的・組織的体制の整備に至るまで、かなり要求水準は高い*6。
どんなに消費者に対して真摯に向き合おうとしている会社であっても、「景品表示法」という一分野に割けるリソースには、当然限界があるわけで、あれもこれもてんこ盛り、という感のある「指針(案)」(特に「具体的事例(案)」)に対しては、パブコメで相当な数の疑義が呈されることを期待したいところだが、たとえ疑義が呈されたところで、改正法の施行まであと3ヶ月ない、という状況に迫った今、ここに大きな変更が加えられることも期待しづらい状況にあるわけで、今の実態を大きく超えた「水準」を目の前にして、頭を抱える事業者が多く出てくることは想像に難くない。
おそらくは改正法施行直前、あるいは改正直後の時期に、あちこちで、大手法律事務所などのセミナーが開催されたり、対策本が世に出たりして、急に騒がしくなる状況が生まれる可能性は高いのであるが、手を付けないといけないことが、極めて多岐にわたる話だけに、実務者としては、少しでも早めに動き出しを始めたいところである。
*1:直近の記事としては、http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20140716/1406566433。
*2:もちろん、最近の行政、立法府のスピード感からすれば、来年の通常国会に間に合わせることは十分可能な状況にあるが、だとしても、施行されるのは、来年の後半以降、ということになるような気がする。
*3:かくいう自分も、つい最近まで、この改正の中身の重要性に気付いていなかったところがあるので、他人のことは全く言えないのだが・・・。
*4:これまでどうしても、溜池山王の司令塔から目が届き、手が出せる範囲内での法執行に留まることが多かったことを考えると、これ自体も今後法執行、運用に大きなインパクトを与える可能性のある出来事なのだが、企業に対して直ちに義務を課す、といった類の話ではないので、どうしても読み飛ばしてしまいやすいネタになってしまう。
*5:「勧告」段階では事業者名が公表されないとはいえ、当局の機嫌を損ねれば、立入検査を受けたり、場合によっては事業者名公表にまで至る可能性はあるし、何かの弾みで事実が明らかになる可能性もある。「体制整備がなされていない」という評価は、企業のマネジメントのあり方そのものに対する評価にほかならず、「現場が勝手にやったこと」という弁解が通じる余地がない分、不当表示規定そのものに違反する以上に、企業のレピュテーションに与える悪影響は大きいとも言える。
*6:さらにこれに続く、「具体的事例(案)」を見ると、「周知・啓発」の例として「社内資格制度を設け、景品表示法等の表示関連法令について一定の知識を有すると認められた者でなければ、表示等を作成することや、表示等の決定をすることができないこととすること。」(1頁)という記載があったり、「提供段階における確認」の例として「社内外に依頼したモニター等の一般消費者の視点を活用することにより、一般消費者が誤認する可能性があるかどうかを検証すること。」(3頁)という記載があるなど、まるで“世界が景表法を中心に回っている”といわんばかりのハードルの高い事例の数々が列挙されている。