もっと注目されても良いニュース〜運営会社の勝訴的(?)な和解で終わった「TUBEFIRE」著作権侵害訴訟

今朝の朝刊にひっそりと掲載された著作権訴訟に関するニュースがある。

裏社会面の真ん中くらいに小さな見出しで掲載され、内容的にも派手派手しい判決ではなく「和解」を報じるものだけに、普通の人なら読み飛ばしてしまいそうな扱いなのだが、よく読むと、実に興味深いニュースであることが分かる。

動画共有サイト『ユーチューブ』の動画を従来型携帯電話(ガラケー)で視聴できるようにするサービスが著作権を侵害しているとして、レコード会社などが約2億3千万円の賠償を求めた訴訟は17日、東京地裁(東海林保裁判長)で和解が成立した。運営会社側がサービスを再開しない代わりに、レコード会社側は賠償を求めないことなどで折り合った。」(日本経済新聞2014年12月18日付朝刊・第42面)

「TUBEFIRE」というサービスを運営していたミュージックゲート、という会社が、複製権、公衆送信権侵害を理由に、レコード会社に訴えを起こされたのは2011年のこと。

一部のインターネットメディアでは当時から注目されていた訴訟で、訴訟提起の翌年に掲載された被告会社を運営する穂口雄右氏のインタビュー記事(http://wired.jp/2012/11/26/interview-copyright/)の中でも、「かなりいい加減な裁判」という穂口氏のコメントとともに、本件訴訟が紹介されている。

「和解」という形で終わってしまったゆえに、部外者が今の時点で当事者の双方の主張の内容を確認することはできないし、穂口氏のインタビュー記事の中で語られている「適法性の裏付け」が法的評価を経てもなお維持できるものなのかどうか、ということも、証拠に接することができない以上、コメントすることは難しい。

だが、「サービスを中断し再開もしない」ことと引き換えとはいえ、かつての「MYUTA」を彷彿させるような「ファイル変換」サービスを提供する運営業者が、レコード会社との訴訟でガチンコで争い、「賠償金なしの和解」という結果で勝負を終わらせた、ということが、かなり画期的な出来事であることは間違いないだろう。

もちろん、「和解」という結果には、常に不透明さが付きまとう。

本件にしても、2011年の提訴から3年、と訴訟が長期化しつつあった状況で、法的評価如何にかかわらず、早く裁判を終わらせるためにレコード会社が譲歩しただけ、という見方もできるところだし、「TUBEFIRE」というサービスに関して言えば、差止請求が認容されたのと結局は同じことになってしまっているのも事実だ*1

できることなら、きちんと判決まで出してもらって、未だにもやもやしている複製主体性をめぐる問題に、現代的解決の選択肢を付け加えてもらった方が世のためにはなっただろうが、今の日本の民事訴訟は、それを望まない当事者に「判決」を得ることを強制できるような仕組みにはなっていない。

そんなことは重々承知の上で、せめて、法廷が明らかにしなかった法的な評価が、間接的でもよいから何らかの形で世に出ることを、そして、それが、新しいサービスの提供にチャレンジしようとして二の足を踏んでいる人々に、何らかの指針を示せるようなものになってくれないか、ということを、今は願うのみである・・・。

*1:一方で、ガラケー向けのサービス、というのが、社会的使命をほぼ終えつつある状況に鑑みれば、「今後サービスを行わない」というのは、運営会社にとってはさほど痛くない譲歩、と見ることもできる。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html