最後に用意されていた順当なドラマ。

今年から導入された、ファン投票上位馬への出走奨励金、という“ニンジン”の甲斐もあってか、最近では珍しく豪華なメンバーが揃った有馬記念
その一方で、これまた新趣向の枠順ドラフトシステムが、エピファネイアゴールドシップジャスタウェイ、といった実績上位馬をことごとく「不利」と言われる外枠に飛ばす形になって、予想的にはかなり難解なレースとなった。

実績上位馬のうち、唯一、絶好の内枠を引いたジェンティルドンナは、今年の最終目標に定めていたはずのジャパンCでの敗戦を経ての続戦*1、という微妙な臨戦過程だった上に、中山コース初参戦、ということもあって、自信をもって買いづらい*2

逆に外枠組は、前に行きたいジャパンC上位組のジャスタウェイエピファネイアにとって、枠順が大きなロスになることは否定できなかったし*3、どうせ後ろから行くのだから外枠でも関係ない、はずのゴールドシップ*4は、前走の凱旋門賞の結果がひどすぎた上に、帰国後初戦、という、かなり微妙なローテーション。

ということで、自分は、散々迷った挙句、内枠で鞍上に豪腕・ビュイック騎手を迎え、全兄(トゥザグローリー)が有馬記念で2度も3着に飛び込んで大穴を開けた、という血統背景もあるトゥザワールド(ただし、G1未勝利で9番人気)を複勝&ワイド軸にする、という玉砕戦法で臨むことになったのだが・・・


終わってみれば、ジェンティルドンナが、内枠の利を生かした理想的な位置取りから、直線で逃げるエピファネイアを早々と捕まえ、そのまま後続を完封する見事なレースで、G1・7勝目、牝馬としては、6年前のダイワスカーレット以来、史上5頭目の優勝を飾った。

枠順に恵まれた上に、中山競馬場では絶対的な存在感*5を誇る、リーディングジョッキー戸崎圭太騎手の「腕」の確かさなど*6、様々な要因が重なってのことだとは思うが、このレースを単なる“おまけ”にすることなく、有終の美を飾るために本気の仕上げを施した陣営の努力は、やはり称えられて然るべきだと思う。

天皇賞・秋ジャパンC、と焦らされ続け、多くのファンが半ばあきらめの境地に達していた「7冠」のタイトルを、引退式が用意されていたこの中山でさらっていくあたりも何ともドラマチックで、わざわざ、この日の舞台づくり(と、歴史的名牝・ウォッカを追い抜かさない)*7のために“引っ張った”んじゃないか、という疑念さえ生まれてくる。

それくらい彼女の脚は力強く、着差(4分の3馬身)以上の勢いで、最後のターフを駆け抜けていった。

3歳時に彼女が「牝馬三冠」をあまりにすんなりと達成してしまったがゆえに、過去の牝馬たちと比較して抱いた“ジンクス”への懸念*8は、少なくとも戦績に関しては、全くの杞憂だった、と言えるだろう。


そして入場者数も、売上も、回復基調にある今の中央競馬にとって、

牝馬の世界のみならず、国内外の牡馬を押しのけてジャパンCを2度も制し、ドバイでも2度目の挑戦で栄冠に輝いた名牝が、“限界”を囁かれながらも、最後の最後でドリームレースのタイトルを掴みとる」

というわかりやすいストーリーをこの大舞台で描くことができた(しかも、ゴール前ではゴールドシップジャスタウェイという実力馬達が軒並み33秒台の豪脚を見せつけたこともあって、絵になる叩き合いになった)、ということは、来シーズン以降、新たなファンを捕まえる上でも大きな材料になったのではないか、と思う。

もちろん、枠順の綾、展開の綾、そして鞍上の戦略、と、競馬の「レース」としての醍醐味、面白さも、これでもか、というくらい伝わってきた。


これだけご機嫌なエントリーになっている背景には、トゥザワールドが見事に2着に突っ込んだ、という個人的事情があることは否定しない(笑)が、それを差し引いても、「ポスト午年」の来年以降の中央競馬に大いに期待を抱かせる、そんな一年の締めくくりになったことを自分は心から嬉しく思うし、これから、に期待せずにはいられないのである。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20141201/1417539064

*2:多くのファンにとってもそのあたりは微妙な受け止め方だったようで、引退レースであったにもかかわらず、この日は4番人気にとどまっていた。

*3:それに加えて、エピファネイアは前走のスミヨン騎手の騎乗があまりに素晴らしかった故に、川田騎手への乗り替わり自体が不安材料(川田騎手も決して腕が悪いジョッキーではないのだが、スミヨン騎手に比べると見劣りするのは否定できない)だったし、過去にJCの最先着馬で有馬記念でもそのまま上位に来たのが歴史に名を残す馬ばかりだったことを考えると、この馬にそこまでのものがあるのか、という疑念もあって、自分は早々と馬券対象から外してしまった。

*4:しかも中山巧者(過去3戦【2010】)で、このレースでは過去2年で優勝、3着、という好成績。これが「ゴールドシップ」でなければ迷わず本命に推せたのだが・・・。

*5:前週までの勝利数は、2位の田辺騎手に大きく差を付ける40勝。勝率16%、連対率も3割近かった。

*6:逆に言えば、外枠の実力馬たちの鞍上の騎乗ぶりには、少なからず疑念を抱いたのも事実。いつもの位置取りから叩いて叩いてゴールドシップを馬券圏内まで押し上げた岩田騎手だけは、まだ自分の仕事をした、というべきなのかもしれないが、今回の戸崎騎手の騎乗と比べてしまうと、過去に岩田騎手が手綱を取ったレースでのジェンティルの敗戦もまた、必然ではなかったのではないか、と思えてしまう。

*7:なお、前回のエントリーではルドルフ、オペラオー、ディープインパクトと並ぶこの名牝の存在を完全に失念していた。往年のファンの皆様にはこの場を借りて心よりお詫び申し上げたい。

*8:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20121014/1350235107参照。

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