今ひとつ腑に落ちない「ストレート麺」特許紛争の結末

日清食品HDが、「即席麺の製造技術に関する特許を侵害された」として、「サッポロ一番」で有名なサンヨー食品を相手取り、特許権侵害訴訟を提起したのは、2012年12月のこと。

業界大手同士の特許権侵害訴訟で、既に越後製菓vsサトウ食品の“切り餅訴訟”が世を賑わせていたこともあり、当時はかなりの注目を集めたものだが、請求の根拠となっている日清食品側の特許の内容*1や、「即席麺」に関して、サンヨー側も自らの特許を持っていること*2などから、個人的には、日清側が請求を維持し続けることができるのかどうか、疑問に感じるところも多い事件ではあった。

ところが、あれから約2年経ち、あっと驚くような決着が報じられることとなった。

日清食品ホールディングスは21日、・・・サンヨー食品などに損害賠償などを求めた訴訟で双方が和解したと明らかにした。日清によると、和解は15日付。和解金の支払いの有無や金額は非公表。サッポロ一番などの麺の製法が、日清が『どん兵衛』などに用いる『ストレート麺製法』に関わる特許技術に属していることを双方で確認した。サンヨーは昨年9月に作り方を変更したという。」(日本経済新聞2015年1月22日付朝刊・第38面、強調筆者)

これだけ読むと、日清食品の主張がほぼ認められた形で決着した、ということなのか? と思えてしまう。

両社ともに正式なプレスリリースは出していないようだし、記事を読む限り、明らかに日清側の一方的なリークに基づいて書かれたもののようだから、この記事の内容をそのまま鵜呑みにしてよいかどうかは、慎重に考えた方が良いのは確かだ。

また、仮にこの内容が事実に反していないとしても、本来守秘義務条項が付いていても不思議ではない和解の内容についてこれだけ“公表”されていながら、「和解金の支払いの有無」が「非公表」とされている、というギャップは気になるところ*3

あくまで憶測に過ぎないが、双方の主張、立証が膠着した時にありがちな、

「和解金は一銭も払わなくてよいから、うちのメンツを立てて、『特許の技術的範囲に含まれていた』ということだけは認めてくれ」

というやり取りの末、上記のような結果に至った、ということも考えられなくはないなぁ、というのが率直な感想でもある*4

ただ、「あの特許」で、相手に白旗を上げさせた、という事実を報道に載せた、ということ自体が、日清食品にとっては、(今後の同業者との競争に臨む上でも)大きなアドバンテージになることは間違いない。

紛争の前線に立つことが多い者としては、うまくやったな、という思いと、(訴えられた方には)もう少し頑張ってほしかったな、という思いが交錯する複雑なニュース。
中にいる人々の心境を思うと、いろいろ考えさせられるところは多い。

*1:提訴当時のhttp://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20121205/1354993843のエントリーを参照。

*2:その意味で、紛争自体が片面的な構図の上に成り立っているものではないこと。http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20130201/1359997910参照。

*3:このレベルで情報が開示されている場合、和解金の具体的な金額はともかく「和解金支払いの有無」くらいは公表するのが常識、というものだろう。

*4:認めさせられる側にとっては理不尽なようにも思えるが、製品構成や製造工程に、実務上支障のないレベルでちょっと手を入れるだけで、特許を回避できるケースはいくらでもあるのであって、名目的な「変更」をして、それが特許の技術的範囲に含まれない、ということを確認できるなら(「過去分」についての金銭的な賠償等は不要、という整理ができるのであれば)、「過去のことはどうでもいいや」と思うことは、特許訴訟に限らず、訴訟の終盤では多々あることだと思う(あとは、一度でも「侵害行為があった」という事実を認めることを、会社として許せるかどうか、というメンツの問題になる。

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