新しいタイプの商標をめぐる暗中模索。

実務サイドからはお世辞にも歓迎されているとはいえない「新しいタイプの商標」の導入が、いよいよ目前に近づいてきている*1

新しい制度が入る、ということで、特許庁はいつものように気合いを入れてHPでの周知活動を行っているし*2、本日から鳴り物入り(?)で稼働している新検索システムにおいても、「商標のタイプ」のチェックボックスに、音商標、動き商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標、位置商標、といった「新しいタイプの商標」のラインナップが名を連ねている(https://www2.j-platpat.inpit.go.jp/syutsugan/TM_AREA_A.cgi?0&1427730040704)。

ひとたび「制度ができる」と決まったからには、泣いても笑っても入ることは間違いないのだから、新制度に対してどのような思いを抱いていようが、それに合わせた準備をしなければならない、というのが実務家の使命。

なので、自分も、必要に迫られる形で、この1年近くの間、審査基準WGの議論を追いかけてきたし、年明け早々には、特許庁の説明会にも足を運んではいるのだが、残念なことに、これまでに公表された情報だけでは、4月1日以降、どのような基準で審査が行われるのか、ということが、今一つイメージできない。

この話題を定期的に取り上げている日経紙は、今朝の法務面で、渋谷高弘記者が、いよいよとばかりにコラムを書き、

「『音』や『動き』などの特徴ある表現を商標登録できる改正商標法が4月1日に施行される。すでに欧米などでは認められており、まず海外で登録した実績をもつ企業を中心に出願が広がる見通しだ。従来の文字やロゴマーク以上に自社の特徴を消費者にアピールできる可能性もあり、先行企業は準備を始めている。」
日本経済新聞2015年3月23日付朝刊・第17面)

と煽った上で、さらに、特許庁の『すでに広告で使っている音や動きなどの出願が当面、数百件ありそう』というコメントまで紹介しているのだが、一方で、取り上げられている例は、「動く商標」を準備している東レと、「音」の商標(といっても、単純なメロディー部分だけではなく、社名の読み上げも含めての出願となると思われる)を準備している久光製薬くらい。

確かに、CMにおいて社名や商品のロゴを動かせば、「動き商標」で登録できる可能性は高いだろうし、社名を読み上げるタイプのサウンドロゴであれば、これまた音声部分がキモとなって登録される可能性は高い、と言えるのだろうが、多くの関係者が知りたいのは、たぶんそういった類の商標に関する情報ではない。

会社や商品のブランドを築いている「色彩」だとか、シンプルなメロディーのみで構成される「音」について出願する必要があるのかどうか、そして、出願すると決めた場合に、どのような方法、パターンで出願すればよいのか、ということこそが、まさに多くの関係者が頭を悩ませているところではないかと思われる。

そして、頭を悩ませているうちに4月1日を迎えてしまえば、後は「早い者勝ち、ヨーイドン」という状況になってしまう、という点において、今回の新制度は、担当者によりシビアな決断を迫るものになっているともいえる*3

特許庁が気合を入れて作った(と思われる)「Q&A」のページ(https://www.jpo.go.jp/seido/s_shouhyou/new_shouhyou_faq.htm#anchor1-15)に掲載されている以下のようなやり取り。

Q1-15 サービスマーク登録制度の導入時や、小売等役務商標制度導入時に措置された、「出願日の特例」(当該改正法の施行後一定期間内に出願されたものをすべて同日の出願とみなす)や、「使用に基づく優先・重複登録」の経過措置については今回の法改正では導入されないのでしょうか?
A. 出願日の特例、使用に基づく優先・重複登録の特例については、これらの措置は先願主義を採用する現行商標制度上極めて例外的なものであること、通常の商標登録出願を含めた審査全体が遅延するおそれがあること重複登録を認めた場合には同一又は類似の商標に複数の権利が並存することによる影響があること等を踏まえ、今回の改正法では出願日の特例等の経過措置を設けておりません。

最初の頃は、「出願する人も多くないでしょうから」といったトーンの理由だったのが、説明会で思いのほか関係者の関心が高いとわかるや、「使用実績まで含めてしっかり審査するから大丈夫」というトーンの回答となり、さらに、この期に及んで、何を今さら・・・という感のある原則論での回答となっている*4

自分の読みでは、結果的にはなんだかんだ言いつつも、各社で「会社の看板」になっている音やら色やらの出願に動き、当面、審査官の手が回らない・・・という状況に陥るのではないか、とも思うところなのだが、そんな様子を眺めながら高みの見物ができるほど、自分の足元に余裕がないのが、何とも残念・・・。


なお、「審査基準」をめぐる謎については、まだまだ書きたりないことが多いので、仕事柄やるべきことをしっかりやった後に、ここでも可能な限りコメントすることができれば、と思っているところである。

*1:自分の新制度への評価については、http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20130209/1360596180のエントリーなどを参照。

*2:とはいえ、潜在的な需要者のうちどれだけの人が今の時点でアクセスしているかは怪しいものだが・・・。

*3:サービスマーク導入時や、小売商標制度導入時は、一定期間の間は重複登録を認める経過措置が設けられていたから、他の会社の出方を窺いながらより良い出願戦略を検討する余地があったが、今回は、そんな猶予すら与えてもらえない、というのは残念な限りである。

*4:ここのAに書かれているような内容は、至極当然の話ではあるのだが、「それならなぜ、サービスマークや小売商標の時にやって今回はやらないのか」という問いに応えるものにはなっていない。