一つの時代の転換点〜特許法&不正競争防止法改正案成立

安保をめぐるゴタゴタもあって、与党が圧倒的多数を占める構成の割には審議がもたついている感がある第189回通常国会

だが、7月に差し掛かったこの時期になって、法務業界にとっての目玉法案の一つ、特許法不正競争防止法改正案がとうとう成立に至ったようである。

「社員が職務として成し遂げた発明について、特許を取る権利を『社員のもの』から『企業のもの』に変えられる改正特許法が3日の参院本会議で与野党の賛成多数で可決、成立した。」
日本経済新聞2015年7月3日付夕刊・第1面)
「企業の秘密を海外に漏らした場合に、国内での流出事件よりも刑罰を重くする改正不正競争防止法が3日の参院本会議で可決、成立した。」
日本経済新聞2015年7月3日付け夕刊・第3面)

みっちりと審議をフォローするような余裕は到底なく、あくまで議事録ベースで確認しただけだし、参議院の審議経過についてはまだ議事録システムにも上がっていないようなので詳細は把握していないのだが、少なくとも衆議院では、経済産業委員会での趣旨説明の後、質疑、さらに特許法については参考人を呼んで審査、というお約束のステップを踏んで、淡々と可決に至っている。

そんな中、あえて紹介するとすれば、いずれの法案についても、日本共産党社会民主党市民連合の両会派が反対していること、そして、委員会での附帯決議がなされている、ということだろうか。

共産党が昨年の選挙でいかに躍進した、といっても多勢に無勢なわけだが、それでも、形式的な質疑だけで全会一致、シャンシャン可決、となるよりは、多少は国会で審議した意味もあった、ということになるではないかと思うので、とりあえず、以下、反対討論の内容と附帯決議の中身をご紹介しておくことにしたい*1

特許法等の一部を改正する法律案について

<反対討論(日本共産党)>
本法案は、職務発明に係る特許を受ける権利の原始的な帰属先を、発明を行った従業者から使用者へと百八十度転換しようとするものであり、容認できません。
特許法第29条は、産業上利用することができる発明をした者は、その発明について特許を受けることができると規定しています。この条項に照らし、我が国ではこれまで、職務発明について原始発明者帰属の立場をとってきました。
そもそも、2004年改正後の判例の蓄積もほとんどない中で、法改正を行わなければならない立法事実はありません。
にもかかわらず、職務発明規程を改正するのは、産業界の長年の要求に応え、原始使用者帰属へと権利主体を変えるためです。まさに、安倍政権が進める企業が世界で一番活躍しやすい国づくりのために、発明者の権利を奪うものにほかなりません。
経団連を初めとする産業界が原始使用者帰属を要求してきた理由は、企業同士の共同研究や大学等の研究機関との産学連携の拡大、グローバルな企業再編を進める多国籍企業にとって、現行制度は業務負担が大きく、訴訟リスクが高いというものです。それを解決するために、職務発明を原始使用者帰属とし、発明者への報奨水準は企業に委ね、法定対価請求権をなくす。企業の予見可能性を高めるために、司法判断は排除せよと主張してきたのです。
先ほど大臣も答弁されましたが、本法案によってもなお、特許法の原則は原始発明者帰属であることは間違いありません。ところが、特許庁は、原則、例外という言い方は使っていないなどと、この原則を認めることをかたくなに拒みました。これは、産業界の主張を無批判に受け入れ、発明者の権利を奪うものです。
さらに、質疑の中で、産業構造審議会の特許制度小委員会の議論の流れの不自然さも明らかになりました。審議はいまだ尽くされておりません。
すぐれた職務発明は、使用者と従業者、研究者の共有、協働の中で生み出されます。発明者の知的創造に報い、適切な報奨を付与することにより、発明を奨励し、我が国産業全体を発展させる道にこそ進むべきであることを最後に指摘し、反対討論といたします。(拍手)
(強調筆者、以下同じ。)

<附帯決議(自由民主党民主党・無所属クラブ、維新の党及び公明党共同提案)>
政府は、本法施行に当たり、次の諸点について適切な措置を講ずべきである。
一 職務発明制度の見直しについては、従業者と使用者の双方の発明のインセンティブの向上という本見直しの目的を含め、本改正内容について広く国民に対し周知徹底を図るとともに、特に中小企業における職務発明規程の整備に係る相談・支援体制の充実を図ること。
二 職務発明制度に係る相当の利益については、現行の職務発明制度における法定対価請求権と実質的に同等の権利となるよう保障すべく、「指針」において企業による従業者等の研究開発に係るインセンティブを高めるための創意工夫が生かされるよう具体例等を例示すること。また、同指針の策定に当たっては、策定に係る検討メンバーに労使代表をはじめ幅広く関係者を参加させるとともに、職務発明制度に係る苦情処理のあり方等について明示するなど、企業の予見可能性と従業者等の処遇との均衡を図るよう適切な措置を講じること。さらに、今後の経済社会情勢の変化等を踏まえ、従業者等のインセンティブへの影響など本法の運用について、適宜調査・検証を行い、必要に応じ見直しを行うこと。
三 特許料等の引下げ及びPCT国際出願の料金体系の見直しについては、特許権等の取得・維持に係る中小・小規模企業等の負担軽減が我が国企業の国際競争力及び知財戦略の一層の支援強化を図る上での重要性に鑑み、附則の見直し期間にかかわらず施行状況を見つつ、適宜検討・見直しを行うこと。
四 特許特別会計において、収支バランスを適切に確保することが重要であることに鑑み、これまでの特別会計改革の議論や会計検査院の指摘を踏まえ、今後とも、可能な限り利用者の負担軽減に務めるとともに、特許料等のあり方について、適宜、柔軟な見直しを行うこと。
五 知的財産の裾野を拡大する観点から、中小企業の知的財産活動を支援するため、「知財総合支援窓口」の一層の強化拡充を図るとともに、海外展開を指向する中小企業の知的財産の権利化及び模倣品対策に係る支援策のさらなる強化を図ること。

不正競争防止法の一部を改正する法律案について

<反対討論(日本共産党)>
本来、企業の私的財産権である営業秘密侵害行為への規制は、民事罰を中心とした救済措置の充実によって行われ、刑事上の処罰は抑制的、補完的な役割に限られるべきです。
しかし、産業界は、営業秘密の流出は個別企業だけの問題ではなく国富の損失だとし、米国経済スパイ法を参考にした新法の制定を含めた検討を政府に迫ってきました。本法案は、この要求に応え、営業秘密侵害行為を国家的法益の侵害とみなして厳罰化を図るものであり、容認できません。
反対理由の一つは、非親告罪化が営業秘密侵害を口実とした捜査当局の過剰な介入を引き起こすおそれがあるからです。そもそも、営業秘密は、その外縁や内容が定かでなく、処罰対象も不明確になりがちです。非親告罪化によって警察や検察の独自捜査が可能となることで、捜査や裁判の過程で、被害企業の意に反して営業秘密が流出する危険性が高まります。また、労働者の日常業務や労働組合活動、内部告発などの当然の権利の萎縮や、企業でキャリアを積んだ役職員の転職や退職を制約することにもなりかねません。憲法が保障する職業選択の自由にもかかわる重大な問題であり、看過できません。
第二は、未遂行為に対する処罰の拡大が、実行の着手の解釈によっては処罰対象を不当に拡大するおそれがあるからです。営業秘密侵害罪に対しては、既に他の経済、企業犯罪と比べても重い量刑が科されており、これ以上の重罰化は罪刑の均衡を逸するおそれがあります。
第三は、営業秘密侵害行為を受けた企業の立証負担の軽減策として盛り込まれている、被告企業に対する推定規定の創設が、被告の反証を困難にするのみならず、正当な事業活動を行う企業が濫用の被害者となる危険があるからです。
営業秘密や製造技術が流出する背景には、多国籍企業の海外活動のあり方や国の産業競争力との関係、また大企業と労働者、取引先の信頼関係など、検証すべき多くの問題があります。電機産業に代表されるような無慈悲で一方的な黒字リストラや、下請事業者の知的財産を親事業者が奪い取るような下請いじめを改めることこそ、抑止効果を高める第一歩です。
日米の刑法体系の大きな違いを無視して、強引に米国経済スパイ法のようなやり方を導入することは、権力が市民を監視する状況をもたらしかねないことを厳しく指摘し、反対討論とします。(拍手)

<附帯決議(自由民主党民主党・無所属クラブ、維新の党及び公明党共同提案)>
政府は、本法施行に当たり、次の諸点について適切な措置を講ずべきである。
一 営業秘密侵害に対する刑事罰の強化に当たっては、事業者及び労働者の間に疑念や過度の萎縮が生じることのないよう、刑事罰の対象となる具体的行為類型を明確にするとともに、事業者及び労働者の日常業務や正当な行為が処罰対象とならないことを指針等により明確に示すなど、その趣旨・内容について、事業者及び労働者双方に周知徹底を図ること。また、企業内における営業秘密の取扱いについて、労使間の協議等により理解の促進が図られるよう努めること。
二 営業秘密侵害行為に対する抑止力の向上という本改正が実効性の高いものとなるよう、関係省庁間の連携や取締体制の拡充・強化に努めるとともに、捜査当局においては、適確かつ迅速な取締りに努めること。また、今後の技術革新、諸外国の制度動向、経済社会情勢の変化等を踏まえ、さらなる営業秘密の保護強化に向けて、「営業秘密管理指針」を含む営業秘密の保護の在り方等について不断に調査・検証を行い、必要に応じて見直しを行うこと。
三 中小企業の技術力が我が国産業の強みであることを踏まえ、中小企業の保有する営業秘密が不当に流出することのないよう、営業秘密の流出防止対策だけでなく、オープン・クローズ戦略をはじめとする知的財産戦略について普及啓発を行い、相談体制の充実・強化など中小企業の実態に即した適切な措置を講じること。
四 政府は営業秘密をはじめとする知的財産の重要性に鑑み、アジアをはじめ他国に対して、営業秘密侵害行為に対しての取り締まり強化や、法制度の整備等を強く働き掛けること。また、制度を早急に確立されるように支援すること。
以上であります。


以上、淡々とご紹介したが、こと特許法(35条関係)に関しては、参考人質疑でのやり取りにしても、附帯決議にしても、何となく“同床異夢”感が垣間見えてしまうのは、自分だけだろうか。

もう少し時間に余裕ができたら、改正法の内容と合わせて、じっくり検討してみることにしたい。

*1:2法案とも、本来であれば、法案にする前にもっと慎重に検討されるべきものだったと思うのだけど、今さらそんなことを言っても仕方ないので・・・。

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