何だか“感じ悪い”指針改定の動き

昨今の政治情勢に絡んで“感じ悪いよね”というbuzz wordがあちこちで飛び交っている今日この頃だが、震源地からちょっと離れたところでも、何となく“感じ悪い”な、という動きが出てきている。

経済産業省は日本企業による外国公務員への贈賄を防ぐため、不正競争防止法の指針改定案をまとめた。海外子会社が贈賄に関与しないよう、親会社が防止体制の構築に責任を負うと明記した。社交の範囲内にとどまる贈答品や費用負担など、賄賂に当たらない具体例も示し、海外でのインフラ受注を目指す日本企業などのリスクを減らす。」(日本経済新聞2015年7月18日付朝刊・第4面、強調筆者)

現在、わが国において外国公務員への贈賄禁止を定めている不正競争防止法18条の規定は、シンプル、かつ、多くの抽象的規範的要件によって構成されているもので、そこから一義的に「やってはいけない行為」とそうでない行為の境界を導き出すのは容易なことではない。

さらに、その解釈を補うために出されているはずの「外国公務員贈賄防止指針」の内容も、肝心なところはぼやかされているから、使い勝手としてはいま一つ、というのが、この問題にかかわっている実務担当者の多くに共通する感覚だと思われる。

それゆえ、「指針の改定」という動きが出てきてそれが進められていく、ということについては、自分も全く異論はない。

だが、気になるのは、「法の解釈指針の改定」という決して小さくない問題であるにもかかわらず、何がどのように議論されているのか、ということが、外側からは全く見えてこないことである。


自分がこの動きについて知ったのは、6月上旬に日経紙の1面に以下のような記事が掲載されたのがきっかけだった。

経済産業省は日本企業による外国の公務員への贈賄を防ぐため、不正競争防止法の運用指針を改定する。米司法省など海外当局が日本企業を汚職事件で摘発する事例が生じているため。必要経費と賄賂の線引きを明確にし、企業の海外での事業リスクを減らす。」(日本経済新聞2015年6月7日付朝刊・第1面)

この記事の中では、さらに続いて、

「新指針では外国公務員との間で生じる金銭などのやりとりについて、「賄賂」に当たらないものを具体的に示す。例えば、中国での月餅など現地で慣習になっている贈答品、少額のコーヒー代といった社交の範囲内のものだ。工場視察に来た外国政府の担当者を最低限の観光に誘うことも賄賂としない方向だ。有識者研究会の議論を踏まえ、今夏にも改定する。」(同上)

と書かれていたため、「なるほど、研究会で議論されているのであれば、その動きを追っておけばよいのだな・・・」というのが当時の感想だったし、通常の指針、ガイドラインの見直しであれば、その理解で良かったはず。

ところが、この件に関して言うと、最初に記事が出た当初は、「有識者研究会」に関する情報は皆無。
そして、その後、経産省のHPに、ひっそりと「外国公務員贈賄の防止に関する研究会」のコーナーが設けられたものの(http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/economy.html#zouwai_boushi)、今日、冒頭の記事が掲載されたのを受けて確認してみても、「議事次第」と「委員名簿」くらいしか情報が掲載されておらず、代わりに、「研究会及び配付資料等の公開について(案)」という標題で、

研究会は原則として公開しない。
研究会の議事録については公開しない。ただし、議事概要については、事務局の責任において、後日ホームページにて公開する。
配付資料の取扱いについては、資料の内容を踏まえ、事務局が座長及び資料提出者と相談して対応を決定する。

という内容が記載された簡潔な資料が掲載されているのみである*1

確かに、扱っているテーマが「外国公務員への贈賄」であり、しかも指針上一定の「線引き」を行うために、具体的な「実例」を検討の対象とすることが避けられない、ということを考えると、何でもかんでもオープンにする、というわけにはいかないのは分かるのだが、だからといって、実際に現場で対応に頭を悩ませている企業関係者の多くが議論の過程を目にすることができないまま、「指針」なるものが決められていく、ということについては、ちょっと釈然としないところも残る*2

また、当初報じられていた「賄賂に当たらないものを具体的に示す」という改定の方向性に加え、冒頭の記事にあるような、「親会社が防止体制の構築に責任を負うと明記」といった話まで付け加えられるとなると、なおさら、一体どういう議論しているのだ、ということが気になってしまう。

研究会のメンバーに入っておられる有識者の多くは、この分野では名の通った第一人者の方々であり、それゆえに最終的に“おかしな指針”になることはない、と信じてはいるが、納得を得られる法執行を行えるようにするためには、その前提となる立法とその解釈指針制定プロセスの透明性が確保されることが欠かせない、ということは、改めて強調しておきたいと思っている。

追記(2015.8.2)

経済産業省は、7月30日に、HP上で「「外国公務員贈賄防止指針」を改訂しました」というプレスリリースを行った。
http://www.meti.go.jp/press/2015/07/20150730008/20150730008.html
研究会の「議事要旨」については、ようやく一部アップされ始めたものの(第1回、第2回まで)、まだ全て出そろわない段階での「改訂確定」のリリースである。

たった3回程度、研究会を開催したくらいで結論が出せる話なのか、とか、任意であってもパブコメ手続等に付さなくて大丈夫なのか、といった疑問は尽きないが、まずは、中身に目を通したうえで、機会があればコメントさせていただくことにしたい。

*1:http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/zouwai_boushi/pdf/001_02_00.pdf

*2:もちろん、研究会のメンバーには企業側の関係者も含まれているが、全体に占める比率は決して多いとは言えないし、業種も限られている。

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