ブログ開設から10年、の節目に。〜「企業法務戦士」は何と戦ってきたのか? 

2005年8月4日、「最近流行りなるブログなるものを開設してみた。」という一言から始まったこのブログも、とうとう開設から10年の節目の時を迎えた。

「10年」というとすごく長く感じるが、当時流行していた曲を聞いても“懐かしい”と思うほどの時代ギャップは感じないし、ブログ開設当初に良く取り上げた「のまネコモナー」のネタなども、読み返すとつい昨日のことのように思えてしまう。
それまでの人生の中で刻んできた「10年」に比べると、同じ長さでも明らかに短く、感覚的には“一瞬”のうちに過ぎていったのがこの「10年」という時間であり、そのような時間感覚と軌を一にして紡いできたのが、これまでの3000近いエントリー、ということなのだろう。

もちろん、客観的に見れば、自分を取り巻く環境に劇的な変化があったことも事実だし、それに伴って、個々の記事を書く際にバックグラウンドとなる経験や、執筆に駆り立てるモチベーションの中身も当然変わっている。

例えば、開設した当初のエントリーを見返すと、毎日の投稿件数がとにかく多い。

書き手としてのスタイルがまだ確立していなかったということもあるし、当時はまだ、(今との比較で)ブログに割く時間を比較的確保しやすかった、ということもあるのだけど、それ以上に、当時の自分は“何か書かずにはいられない”鬱屈した衝動に支配されていた。

法務の王道を歩むことを誰よりも強く願っていたのに、人事の壁に阻まれて、決して本意ではなかった職場で過ごさざるを得ず、“法の使い手”としてのこだわりを強く持てば持つほど、日常の仕事とそれにかかわる人々の思考形式とのギャップの中で空回りする・・・

今思えば、よく心のバランスを保てたな、と思うくらい、あの頃の自分にとっては、毎日がある種の“たたかい”だったし、だからこそ、ひとたびPCに向かえば、「法務という仕事」への想いを綴ることに必死になれた。

ブログのタイトルを「企業法務戦士の雑感」、としたのは、単なるフィーリングで、語感の良さゆえの偶然の命名に過ぎなかったのだが(そんなに深く頭を悩ませた記憶はない・・・)、当時、「戦うべき何か」は明確に存在したし、それゆえ目指すべきところも、はっきりと見えていた*1。だからこそ、三日坊主で終わることもなく、毎日飽きもせず、更新を続けられたのだと思う。

その後、ちょっとしたきっかけから会社の外に世界が大きく開け、必ずしも馴染んでいなかった仕事がいつしか最大の「武器」となり、長らく噛み合っていなかった歯車が何となく回るようになってきたりもしたのだが、実績をいくら積んでも、“行く手を脅かす影”に対する恐怖と憤りからは、そう簡単に逃れられるものではない。

そして、そんなふうに、心の中が不安で満ちていたからこそ、「法務部門の未来」「知財部門の未来」を、殊更、前向きな言葉で、精一杯の希望を込めて語ろうとしていたのが、あの頃の自分だった・・・。



歳月が流れ、立場が変わればモノの見方も当然変わってくる。

ふっと湧いて出る不可解な政策や司法判断など、新たなエントリーへの動機を生み出す事柄には今でも時々遭遇するが、こと身近なことに関しては、立場上、怒りを誰かに向ける側、というよりは、「向けられる側」になってしまったのも確かなわけで、ある種の無垢な純真さが生み出していた、かつてのような熱のこもったエントリーを書くことが、もはや難しくなってきていることは否定できない。

「法務」という仕事の魅力は、自分の中では今でもそんなに色褪せてはいないし、愛着だってもちろんある。

だが、この10年の間、王道からニッチ分野までほぼ万遍なく経験し、ディープな組織内のしがらみにも、論客が火花を散らす殺伐とした世界にも否応なく首を突っ込む中で、ブログを書き始めた頃とは違う思いが、自分の胸のうちで渦巻くようになっていることも事実。

“叩き上げのアマチュアだからこそできることがある”と拳を突き上げていた頃の感情はそのまま残っていても、ひとたび我に返れば、理性の片隅で“魑魅魍魎が跋扈する世界”というフレーズ*2に思わず頷いてしまう自分がいるわけで、一貫して抱き続けてきた気持ちと、それと相反するものがぶつかり合うことによる葛藤の中で、ブログの更新もどうしても滞ってしまう・・・*3


ということで、「何と戦うべきか」に迷い、進もうとしている道の正しさにも確信が持てない、という現実に直面している、というのが今の状況であり、そんなモヤモヤした気持ちで「節目」を迎えることには忸怩たる思いもあるのだけれど、この踊り場を乗り越えた時に、また一つ前に進める、と信じて、明日からも日々を紡いでいきたいと思っている。

この先、さらに「10年」、看板を下ろさずに続けていける自信は全くないが、このブログを訪れてくださる読者が世の中にたった一人でもいる間は、決して自ら筆を置くことはしない・・・

そんな覚悟で。

おまけ

せっかくの記念日なので、これまでの読者の皆様への感謝も込めて、過去のブックマーク数上位記事を改めてご紹介することにしたい。

1位 景表法は変質したのか?〜「コンプリートガチャ」規制をめぐって。(2012年5月5日付、175users)
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120505/1336243138
2位 これぞ知財高裁!というべき判決〜「引用」理論の新たな展開(2010年10月18日付、135users)
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20101018/1287418764
3位 これぞ格好の研修素材〜“フリー素材”の怖さ(2013年1月11日付、131users)
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20130111/1358149432
4位 誰が作ったんだこんな法律。(2007年5月31日付、124users)
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20070531/1180546916
5位 情緒的な“政治的判断”が社会を壊す。(2011年5月6日付、101users)
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20110506/1304834571
6位 「ホワイトカラー・エグゼンプション」をめぐる誤解(2006年12月28日付、72users)
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20061228/1167328947
7位 良いプレスリリース、悪いプレスリリース。(2006年6月10日付、62users)
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20060610/1149871842
8位 ついに世に出た“真打ち”的評釈(2014年1月7日付、52users)
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20140107/1389284069
9位 「規約」の著作権侵害が認められてしまった驚くべき事例。(2014年9月8日付、45users)
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20140908/1410196746
10位 「守秘義務」とは何ぞや?(2008年6月19日付、41users)
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20080619/1213898410

自分のブログは、何となく「知財ブログ」のカテゴリーで認識されがちなのだが、一番ブックマークが付いたのがコンプガチャ、で、原発、労働法、危機管理、法曹養成系の話題も1つずつ食い込んでいる、というのが、自分で改めて見ても興味深い結果だなぁ、と。

一時期は、特定の分野を“極め”“掘り下げる”方向を志向したこともあったし、今でも特定の分野に関しては、それなりに自信を持って書いてはいるのだけれど、現在の自分の理想としては、“広く、鋭く、かつ、深すぎず”といったところだろうか。

幸いにも、好奇心が陰るようなことは、まだ当分なさそうだし、「オールラウンダーであってこそ実務家」というのが自分の信念でもあるので、「この人、何屋さんだっけ?」といわれるくらいが、ちょうど良いのではないかと思っている。

*1:そこに辿り着くための道筋を探し出すまでには、相応の苦労はしたが、目標が明確だっただけに、終始一貫して同じようなモチベーションをキープすることはできていた。

*2:唐津恵一「『企業内法曹』について一考」東京大学法科大学院ローレビューVol.6・205頁ほか。自分はこの著者がここで書かれている結論を全面的に支持するものではないが、企業法務の世界で豊富な経験をお持ちの著者がなぜこういう表現を使ったのか、に、思いが至るような機会も何度となくあった。

*3:もちろん「忙しさ」が最大の理由なのは確かだが、「迷わずにサッパリと書ける」ことが少なくなってしまったことが最近の低空飛行の背景にある、ということも、自覚はしている。

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