藤田騎手の突然の引退に思うこと。

そういえば最近、目立った活躍のニュースを聞かないなぁ・・・と思っていた矢先に、突如伝えられた藤田伸二騎手「引退」のニュース。

UMAJIN.netのウェブサイトに、騎手の直筆のメッセージが掲載されている*1

藤田騎手が独特の美学と競馬界に対する一家言を持つジョッキーであることは、ここ数年、競馬メディアのコラムや雑誌のインタビュー等で飛び出す言葉の節々から感じられたし、まだ十分現役でできる年齢ながら、「9月」という競馬界のカレンダー的には極めてイレギュラーなタイミングで騎手人生に終止符を打つ選択をした、ということだけでも、本人の強いこだわりを感じる*2

そして、ウェブサイトに掲載されたメッセージの中身は、より強烈なものだった。

「数年前からエージェント制度の強調により、騎手の腕など関係なく成績に偏りが生じて地方や外国人ジョッキー主体の流れが強くなりました。そうすると一生懸命に調教を頑張っている連中の活躍の場もなくなり、乗るチャンスも減り昔のように ピリピリとして切磋琢磨な勝負の世界には程遠い環境になっているのが事実であります。エージェントによりリーディングの順番が年頭から決まっているような世界。何が面白いのか?」

一般のニュースで取り上げられることは少ないものの、玄人系の競馬メディアでは時々話題となる競馬界の“からくり”を、正面から痛烈に批判し、リーディングの価値にまで疑問を投げかけたあたりなどは、“男・藤田”の面目躍如といったところだろうか。

さらに、1900勝を超え、2000勝の大台に迫る勝ち星を挙げているにもかかわらず、「競馬会に一切未練はありません」と断言して、引退式を行うことすら拒む・・・

光の当たっている部分以外にも、様々な面を持ち合わせた騎手だったのだろう、と思うし、今回の引退メッセージにしても、「何言ってるんだか」と思っている競馬関係者が、もしかしたらいるのかもしれない。

ただ、徐々に現代的な「システム化」の波に飲み込まれつつある競馬界において、これだけ生々しく、人間臭さを前面に出して去っていく、という姿を見ると、自分はやっぱり“美しい”と思ってしまう*3

無敵だった4歳(現3歳)当時のナリタブライアンを一敗地にまみれさせたスターマンの急襲や、誰もが代表レースに挙げるであろう、ダービーでのフサイチコンコルドの一世一代の完璧な差し脚など*4、とにかく思い切った戦法をとって、それを決して確率は高くなかった「勝利」に結びつけてきた藤田騎手のこれまでの騎手人生を踏まえるならば、今回の思い切った「引退」も、きっとご本人の将来に大きな成功をもたらすものになるはずだ、と自分は信じてやまないのである・・・。

*1:http://uma-jin.net/pc/retirement_message.do

*2:新冠出身の藤田騎手は、長年、夏場の拠点を函館・札幌の北海道エリアに置いていたから(2003年〜2010年まで、実に8シーズンにわたって札幌競馬場でのリーディング首位を維持している)、札幌のシーズンが終わるまでは鞭を置けない、ということだったのだろう。

*3:特に、競馬の世界と法曹界は、養成システムにしても、仕事のやり方にしても、ビジネスの仕組みにしても、かなり似ているところが多い、と思うだけに、いろいろと感じさせられるところはある。

*4:有馬記念でのシルクジャスティスへの騎乗も、このカテゴリーに入れるに相応しいものだった。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html